第234回:青山美智子さん

作家の読書道 第234回:青山美智子さん

今年、『お探し物は図書室まで』が本屋大賞で2位を獲得した青山美智子さん。14歳で作家になりたいと思い、ずっと書き続けるなか、卒業後はオーストラリアへ行き、帰国後は編集者&ライターとして奔走し…。そのなかで吸収してきた本たちとは? 作品や作者に対する愛があふれるお話、リモートでたっぷりうかがいました。

その7「青山さんの桜木紫乃ストーリー」 (7/8)

  • 木曜日にはココアを (宝島社文庫)
  • 『木曜日にはココアを (宝島社文庫)』
    青山 美智子
    宝島社
    704円(税込)
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  • 鎌倉うずまき案内所 (宝島社文庫)
  • 『鎌倉うずまき案内所 (宝島社文庫)』
    青山 美智子
    宝島社
    825円(税込)
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――デビュー後は、どんな読書生活を。

青山:話が前後しますが、デビュー前の2016年に「公募ガイド」9月号を見ていたら、桜木紫乃さんのインタビューが載っていたんです。桜木さんはオール讀物新人賞を受賞した後すぐにはデビューできず、毎週30枚の原稿を編集者に送ったけれどもいいとも悪いとも言われずにいたそうなんです。でも4年間頑張ろうと思って、結局6年かかってデビューした、って。頬を打たれた気がしました。私は小学館のパレットノベル大賞で佳作を獲った後、1作送ったぐらいで返事をもらえなかったといって不貞腐れていた。でも、桜木さんは毎週30枚書いていたんですよ。しかも、4年間頑張ろうと思って、結局6年頑張ったんですよ。その記事は今も大事にとってあって、何度も読み直しているんです。
 その記事を読んだ翌年に『木曜日にはココアを』でデビューできたわけですが、ちょうど同じ時期に桜木さんが『砂上』を刊行されたんです。書店に行くと2冊が並んで置かれていたりして、なんのギフトだろうかと思いました。それで『砂上』を読んだら、新人賞に投稿し続けて40歳を迎えた女性の話なんですよね。私じゃん! と思いました。主人公のところに編集者が会いに来て改稿を求めるんですが、その編集者が毒舌で、辛辣なことを言う。「ぐえっ」と声を出しながら(笑)、付箋をいくつも貼って夢中で読みました。そのなかで、本を1冊出すのはまぐれのこともある、3冊出してやっと作家になれる、という言葉があって。私も3冊出さないといけないなと思いました。あの、私の桜木紫乃ストーリーはまだ続くんですがいいですか?

――ぜひ!(笑)

青山:その後、書店員の新井見枝香さんと親しくなったんですが、彼女は桜木さんと師弟関係にあるんですよね。新井さんが勤める日比谷コテージで桜木さんが『緋の河』のサイン会が開かれることになって、桜木さんに「公募ガイド」のことも含めていろいろ伝えようと思って会いに行ったんです。でもご本人を目の前にしたら何も言えなくなってしまって。その時に新井さんが「青山さんも作家なんですよ」と桜木さんに言ってくれたんです。そうしたら桜木さんが「あらー」と言って、「会場のみなさん! この方は小説家の青山美智子さんです!」って。ちょうど3作目の『鎌倉うずまき案内所』が出た後で、新井さんが帯コメントを書いてくれたこともあって、桜木さんに献本しようと持っていたので、オロオロしながら「これが3作目です」と言ったら、「3作書いたのね!じゃあ大丈夫!」って言ってくださって。勇気をもらって帰りました。
 その後、新井さんがストリップに誘ってくれるようになり、ある時桜木さんと同じ日に行くことになって。ちゃんとサイン会のお礼とか、『砂上』を付箋だらけにしたこととかを伝えようと思い、幕間で勇気を出してお話ししたんです。33歳で佳作を獲ってからデビューするまでに14年かかったという話をしたら「寝かせたね」って(笑)。「その間に子育てが終わりました」と雑談で話した後で、御本にサインをお願いしたら、これなんですけれど...(と、本を見せる)。

――ああ、「あとは書くだけ!! 美智子さんへ 桜木紫乃」とありますね。

青山:私の「子育てが終わりました」という話を受けた言葉ですよね。そこで私、嬉しくて泣いちゃって。桜木さんは「泣くんじゃない、泣いている間にストリップを見るんだ」って(笑)。
 そこから桜木さんと個人的に親しくなったということではないんですが、桜木さんの『裸の華』の主人公のモデルとなった踊り子の相田樹音さんは、新井さんと親子みたいに仲がよいので、私も親しくさせてもらっているんです。本屋大賞にノミネートされた時も、樹音さんを通して桜木さんから「おめでとう」というメッセージをいただいたりして。
 私は樹音さんのストリップも何度も見ているんですが、小説家から見てモデルにしたくなる方なんですよね。私の4作目、『ただいま神様当番』に出てくる愛和ネネという踊り子さんは、樹音さんがモデルです。

――リストに、新井見枝香さんの本もたくさん挙がっていますね。『探してるものはそう遠くはないのかもしれない』、『この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ』、『本屋の新井』。

青山:新井さんは書店の仕事だけでなくエッセイも書くし踊り子もしていていろんな肩書がある人ですけれど、私がデビューした頃にすでにカリスマ書店員と言われていて、新人作家には近寄りがたい存在だったんです。でも、最初の最初から私の本を推してくれたんですよね。『木曜日にはココアを』は特にプロモーションもしていなくて、気がついたらじわじわといろんな方に読まれるようになったんですが、新井さんは最初から「面白い」と言ってすごく推してくれた。新井さんが推した本は飛ぶように売れると聞いていたのに、私の本を「AERA」で紹介してくれるなんて新井さんの経歴に傷をつけるんじゃないかと心配したくらいでした。でも結果的に「ココア」は売れたので、新井さんってすごいなと改めて思いました。それを伝えたら「俺も嬉しいよ」って笑ってました(笑)。
 私がデビューした時、彼女はまだエッセイを出していなかったんです。その後、最初のエッセイを読んだらあまりに面白くて「なんだこの人は」と思いました。その後も、出すもの全部が面白い。物書きとしてリスペクトしているし、ファンです。
『お探し物は図書室まで』が本屋大賞にノミネートされた後、周囲の人の態度が変わっちゃったなと思うこともあったんです。急に寄ってくる人もいれば、離れていく人もいた。でも新井さんは井戸水みたいにずっと変わらないでいてくれるんです。新刊の『月曜日の抹茶カフェ』の第4章に出てくる光都は、実は新井さんのことを書いています。この章は主人公とその友達の光都が両国の温浴施設で一緒にお風呂に入る話ですが、以前、新井さんとその温浴施設に行った時に天窓からお天気雨が降ってくるのが見えて、いつか書きたいなと思っていました。第5章では光都が視点人物になりますが、それは新井さんとは違うんですよね。私は新井さんには憑依できないですね。コスプレできない。

  • 探してるものはそう遠くはないのかもしれない
  • 『探してるものはそう遠くはないのかもしれない』
    新井見枝香
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  • この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ
  • 『この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ』
    見枝香, 新井
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