
作家の読書道 第234回:青山美智子さん
今年、『お探し物は図書室まで』が本屋大賞で2位を獲得した青山美智子さん。14歳で作家になりたいと思い、ずっと書き続けるなか、卒業後はオーストラリアへ行き、帰国後は編集者&ライターとして奔走し…。そのなかで吸収してきた本たちとは? 作品や作者に対する愛があふれるお話、リモートでたっぷりうかがいました。
その8「最近の読書、自作について」 (8/8)
――リストにこだまさんの『ここは、おしまいの地』も挙がっています。
青山:こだまさんは、『夫のちんぽが入らない』が刊行される前、告知を見て何か匂いを感じて予約したんです。本が出て読んだら当然面白くて。こだまさんの本は全部持っています。1回だけ、書店員さんから私の本について「こだまさんに通じるものがある」と言われたことがあって、誰もが否定するかもしれませんが、光栄ですしなんとなくわかる気がします。こだまさんが書くものって、生きる苦しさが映し出されているけれど、どこか温もりがあるし、神話的なフレーズがあったりする。読むとほっとするけれど、それは自分と比べてこんな辛い人もいるんだとかいう感覚ではなくて、生命力を感じるんです。大好きです。
――ミニチュア写真家・見立て作家の田中達也さんの『MINIATURE LIFE 2』『MINIATURE LIFE at HOME』も挙げられていますね。田中さんの作品は青山さんの作品のカバー写真も多く手掛けてらっしゃいますよね。
青山:私は田中さんへの愛が熱すぎるくらいで(笑)。特に『MINIATURE LIFE 2』が好きなんですが、小さい頃に読んだ『ふしぎなえ』と一緒で、ひとつの絵からいろんなものが見えてくるところが好きなんです。田中さんって子どものような純粋な発想の持ち主と言われることが多いんですが、私は子どもとは思っていなくて。眺めていると、大切な人との暮らしを大切にしている、大人の眼差しを感じるんです。お話しする前から、この人にはすごく大切な人がいるんだろうなと思っていたんですが、実際にお会いしていろいろ話しているうちに、それは確信に変わりました。作品も大好きですけれど、人としてもすごく好きです。石井ゆかりさんもそうなんですけれど、田中さんも毎日作品を発表されていますよね。ひとつひとつ積み上げていく強さに学ばされます。
自分も一歩一歩の重みを大切にしたいと思って、真似して一日一篇書くことにした時期がありました。スケジュール帳みたいなノートに、誰にも見せないという前提で、1年間いろいろ書きました。1冊まるまる書き上げた時の自分に会いたかったんです。読み返すと今は到底思いつかないようなことを書いていて、いい訓練になったし柔軟体操になりました。たまにネタをそこから拾ったりしています。
――ノンフィクションもよく読むのですか。
青山:読みます。もともとサイエンスがすごく好きなんです。思えば、小学生の頃に読んだ『どくとるマンボウ青春記』や『ムツゴロウの結婚記』も理系の要素がありましたよね。宮沢賢治も鉱物が好きだったりして、サイエンスの人ですよね。
若田光一さんの『宇宙飛行士、「ホーキング博士の宇宙」を旅する』はオススメです。東京ドームシティの宇宙ミュージアムで見つけて、ぱっと開いたら、ちょうどそのページに、ホーキングの「恐れるな」という言葉が1行だけ書かれてあったんです。そこにぐっときて買って帰りました。宇宙の話だけれど日常とシンクロするところがあって、実生活にすごく役に立ちます。
譽田亜紀子さんの『ときめく縄文図鑑』は本当にときめきます。土偶がずらっと載っていて、その土偶も面白いんですが、キャプションがすごくいいんです。土偶を愛している人の文章だなあと思う。
クリストファー・ロイドの『137億年の物語 宇宙が始まってから今日までの全歴史』は、『鎌倉うずまき案内所』を書いた時に資料として読んだ本ですが、すごく面白かったんです。10年前に発行された本で、宇宙から始まって現在に至るまでを紹介していて、地球や動物の進化がよく分かる。人間が登場してからの社会や戦争のことも書かれていて、小説を読んで得られるものとはまた違う収穫がある。インスピレーションももらえます。
人間関係に疲れると、こうした本に逃げますね。人間ではないものを見ていろいろ学ぶというか。本が嫌いと言う人や、小説が読めない時期にいる人には、こういう本がお薦めです。
――漫画はいかがでしょう。
青山:デビューする前から読んでいる松田奈緒子さんの『重版出来!』は私の指南書ですね。最初は漫画家側の目線で読んでいたんです。東江絹ちゃんという漫画家志望の子が編集者にコミカライズを無茶ぶりされて、吐きながらも描こうとするんですよね。それを読んだ時はまだデビュー前だったので、彼女が辛いのはよく分かるけれど、でも私は、「この人はデビューできるんだな」って羨ましかった。デビューしてからは、版元や取次や書店のこともいろいろ分かるのがありがたいです。勉強になります。
図書館で見つけたのがきっかけでその後ずっと追い続けているのが伊藤理佐さんの『おかあさんの扉』と吉田戦車さんの『まんが親』。ご夫婦でそれぞれ日常を描かれているんですが、同じ子のはずなのに、母親の目線で描かれたものと父親のそれだと印象が違ったりするのが面白いですね。それに、お子さんがどんどん育っていくので、親戚のおばちゃん気分でずっと見守っています。
2021年に読んでいちばん面白かったのは吉本浩二さんの『ルーザーズ』。刊行されたのは少し前ですけれど。双葉社の漫画雑誌「アクション」の編集部に実際にいた人たちが、漫画家をどのように世の中に送り出してきたかというお話なんです。時代もあって、すごく編集者が偉そうで、漫画愛が深いんですよ。深すぎるゆえ、勝手に漫画家のペンネームを変えちゃったりする。実際はどうなのか分かりませんが、『ルパン三世』のモンキー・パンチさんは作風からしてすごくお洒落なイメージなのに、素朴な漫画好きの青年として登場するんです。最初は女の人を描くのが下手で、デッサン教室に通われたようですね。そうした話がすごく面白かったです。双葉社っていい会社なんだなって思いました。
――1日のスケジュールは決まっていますか。
青山:その時の仕事のスケジュールによって全然違うんです。この夏は11月にPHP研究所から出る『赤と青とエスキース』を集中して書いていました。ちょうど夏休みで、息子のお弁当を作らなくてよかったので助かりました。私は夜型なんです。どうしても朝に小説を書く気持ちになれない。夕食を作った後、夜7時か8時から朝まで書いて、朝食とお弁当を作ってから昼まで寝て、起きて買い物や家事をして...ということが多いです。
――最新刊の『月曜日の抹茶カフェ』は、デビュー作『木曜日にはココアを』の続篇的な作品。登場人物は少し重なっているだけですが、各短篇の主人公が鎖のように繋がっていく作りが同じですね。
青山:去年、「ココア」が10万部突破しそうなくらいの時に続篇を打診されて、最初は迷ったんです。だいたい映画でもパート2ってハードルが高いじゃないですか(笑)。それにひとつ続篇を書いたら、全曜日分書かなくちゃいけなくなるかもしれないと思ってしまって。でも「シリーズとか考えなくていい」と言ってもらって、なら今の自分を書き留めるつもりで書くことにしました。「ココア」に対して何にしようかと考えた時に、抹茶もココアと同じようにパウダーだし、それ自体は苦いけれど甘くして飲むし、色味のトーンも同じ感じでいいかなと思いつきました。それで東京と京都の話にしようと思った時に、そういえば『木曜日にはココアを』のカフェのマスターが京都で画廊をやっているからちょうどいいと気づきました(笑)。
――前作も今作も、ちょこちょこ顔をのぞかせるマスターがすごくいいですよね。謎めいた人ですが、いつも陰の立役者的に誰かの背中を押してくれている。
青山:いろんな場所で、いろんな人の何かを引き出してくれている人ですよね。実際にこういう人がいてくれたらいいなって思います。
――11月にはもう新刊が刊行されるのですね。今後のご予定を教えてください。
青山:『赤と青とエスキース』は1枚の絵画をめぐる話で、その絵に関わる人たちの愛の話です。愛といっても恋人への愛、推しへの愛、師弟愛などいろんな形の愛ですね。で、ちょっとした仕掛けもあります。
その先は、「小説宝石」の12月に発売される新春号から連載が始まります。これは1話完結で、連作になる予定です。もうひとつ、年明けにウェブでも連載が始まります。今、仕込み中ですが、ワクワクするような企画で、私もすごく楽しみです(笑)。
(了)
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- 『ルーザーズ~日本初の週刊青年漫画誌の誕生~ : 1 (アクションコミックス)』
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