
作家の読書道 第234回:青山美智子さん
今年、『お探し物は図書室まで』が本屋大賞で2位を獲得した青山美智子さん。14歳で作家になりたいと思い、ずっと書き続けるなか、卒業後はオーストラリアへ行き、帰国後は編集者&ライターとして奔走し…。そのなかで吸収してきた本たちとは? 作品や作者に対する愛があふれるお話、リモートでたっぷりうかがいました。
その3「高校時代の読書と文芸サークル」 (3/8)
――高校時代はどのような本を読まれたのですか。
青山:高校は、やっと物心がついてきたという感じで(笑)。吉本ばななさんや村上春樹さんが大流行していた時期で、その時代を生きる10代として私もすごく読んでいました。村上春樹さんはその頃出ていた本は全部揃っています。
それと、私、林真理子さんをたくさん読んでいたんです。家の本棚に林真理子さん棚ができるくらい。その中でも好きなのが、『星に願いを』と『本を読む女』です。『星に願いを』は自伝的な小説で、林さんの野心みたいなものにすごくシンパシーを感じました。私も田舎にいましたし、家は貧乏だったし、いろんなことが冴えなくて野暮ったくて恋愛が下手で成績もよくなくて、でも小説を書くのが好きで作家になるんだってメラメラ思っていたので、『星に願いを』のキリコが田舎から東京に出てコピーライターになろうとする姿に自分を重ね合わせていました。勇気をくれた本です。
『本を読む女』は林さんのお母さんを題材にしているんですよね。文学少女だったお母さんの半生が書かれている。これは純粋に素晴らしい本だと思っています。
――リストを見ると、この時期に三浦綾子さんも読まれているんですね。
青山:一時期、教会に通っていたんです。キリスト教を信仰していたわけではなくて、そこの教会には「ドーナツアワー」があって、行くとドーナツがもらえたので(笑)。三浦綾子さんはクリスチャンですから、教会に彼女の本もいっぱいあったんです。たぶん、そこで『細川ガラシャ夫人』を借りて読んだんですよね。衝撃を受けました。小学生の時に大河ドラマの「おんな太閤記」が好きで見ていたんですが、豊臣秀吉を西田敏行さんが演じていて、すごくいい人だという印象だったんです。でも『細川ガラシャ夫人』では、秀吉がエロ爺さんみたいな感じなんですよ。「えっ、どっちが本当の秀吉なの!」って。思えば、これも今の自分の小説の書き方に影響がありますね。
――同じ時期に安部公房や宮沢賢治も読まれている。
青山:安部公房は『箱男』が大好きで。今読んでも面白いし、ぜんぜん古くないし、お洒落ですよね。私の『お探し物は図書室まで』の最後の章で、司書の小町さんが差し出すのが草野心平の『げんげと蛙』ですが、最初のプロットではあれは『箱男』だったんですよ。でも書いているうちに、他の章がほのぼのしているのに最後にこれはどうかと思い直して、草野心平にして可愛い終わり方にしたんです。結果的にそれでよかったですけれど。宮沢賢治は『よだかの星』や『どんぐりと山猫』『ツェねずみ』などが好きでした。
――漫画はいかがでしたか。
青山:中学か高校の頃に読み始めたのが陸奥A子さんや大島弓子さん。今でいうとレトロな感じで、安心して読めました。陸奥さんなら『すこしだけ片想い』が好きです。私のデビュー作の『木曜日にはココアを』が出た時、読者さんの感想に「陸奥A子みたい」とあって、「うわ、バレてる!」って思いました(笑)。確かに主人公の一人のワタルくんなんかは、陸奥A子さんの作品に出てきそうなキャラクターですよね。影響を受けていることに気づきました。
大島弓子さんはあの線のタッチにやられましたね。『雑草物語』も好きだし、『秋日子かく語りき』は考えさせられることが多くて、本当に名作だと思います。
――そうした本は自分で書店で見つけていたんですか。
青山:近くに三洋堂書店さんの小さな店舗があって、通っていました。入りやすいし、居心地がよかったんです。お小遣いも少ないから毎回本が買えるわけではなかったけれど、用がなくても行って"本を浴びる"という感じでした。
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