第241回:織守きょうやさん

作家の読書道 第241回:織守きょうやさん

2012年に『霊感検定』で大14回講談社BOX新人賞Powers、15年に『記憶屋』で第22回日本ホラー小説大賞読者賞を受賞、後者は映画化もされた織守きょうやさん。昨年話題になった『花束は毒』のように驚愕の結末が待つミステリから、霊の記憶が視える探偵が主人公の『ただし、無音に限り』シリーズのように不思議な要素を盛り込んだ作品まで、さまざまなテイストを生み出すその源泉にある読書遍歴とは? リモートでお話をうかがいました。

その2「ショートショートの衝撃」 (2/7)

  • ジャングル大帝(1) (手塚治虫文庫全集)
  • 『ジャングル大帝(1) (手塚治虫文庫全集)』
    手塚 治虫
    講談社コミッククリエイト
    880円(税込)
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  • 三つ目がとおる(1) (手塚治虫文庫全集)
  • 『三つ目がとおる(1) (手塚治虫文庫全集)』
    手塚 治虫
    講談社コミッククリエイト
    1,023円(税込)
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  • リボンの騎士(1) (手塚治虫文庫全集)
  • 『リボンの騎士(1) (手塚治虫文庫全集)』
    手塚 治虫
    講談社コミッククリエイト
    990円(税込)
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  • のんのんばあとオレ (講談社漫画文庫)
  • 『のんのんばあとオレ (講談社漫画文庫)』
    水木 しげる
    講談社コミッククリエイト
    825円(税込)
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  • アクロイド殺し (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
  • 『アクロイド殺し (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』
    アガサ クリスティー,Christie,Agatha,詩津子, 羽田
    早川書房
    902円(税込)
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――漫画などは読みましたか。

織守:少女漫画雑誌も楽しく読んでいましたし、手塚治虫さんのアニメが沢山放送されていて面白かったので、漫画も読むようになりました。『ジャングル大帝』とか『青いブリンク』とか『三つ目がとおる』とか。『リボンの騎士』なんかはボロボロになるまで読み返して、ドレスを模写していました。同年代で漫画好きな子たちは、だいたい「セーラームーン」が好きだったので、あまり漫画の話ができませんでした。
 その頃は手塚作品も子ども向けのものしか読んでいませんが、オタクなので他にどんな漫画を書いているのかひたすら調べていました。この人は面白い漫画を描く人なんだなと、作家を認識するようになった最初の人だったと思います。実際に作家で選んで作品を集めるようになるのは中学生の時に夢中になったCLAMPさんなんですけれど。
 他に、妖怪が好きだった流れで水木しげるさんの妖怪図鑑や、『のんのんばあとオレ』なども読みました。『のんのんばあとオレ』は自伝的なエッセイですが、妖怪に詳しいおばあちゃんに教えを乞うスタイルだったので、主人公と一緒に自分も異界のものの知識を蓄えていく感覚で楽しんだんだと思います。

――ちなみに、ミステリの原体験といいますと。

織守:さきほど挙げた「放課後」シリーズはミステリではあるけれど、謎解きの楽しさよりキャラクターの魅力で読んでいました。謎を解く楽しさを知ったといえば、漫画と文章が混じったクイズブックみたいなものが最初かもしれません。世界のいろんな名作のトリックをかいつまんでクイズ形式で2ページくらいで紹介しているんです。最初のページに「こんな事件が起きました、意外な犯人とは?」とあり、次のページで探偵が登場して解説するという。面白く読みましたが、小学生の頃はそれがミステリだとは分かっていなかったかも。

――そういう本、ありましたよね。「現場から凶器が消えたのはなぜ?」「氷でできていたから」みたいな本ですよね。

織守:そうです。「被害者の死体が暖炉の煙突に詰め込まれていた。どうしてでしょう」「犯人は......」みたいな(笑)。有名な作品のネタバレがつるっと入っていて、ああいう本が世に出ていてよかったのか、と後から思いました。私、大学生になって『アクロイド殺し』を読んだ時、これまでまったくネタバレを踏まずにこれを読めてよかった、と心から思いました(笑)。

――あれはネタバレ踏みたくないですよね(笑)。

織守:そういえば、謎解きの原体験ではないけれど衝撃を受けたことがあって。小学生の頃、星新一や小松左京の作品もよく読んでいたんです。星新一は「おみやげ」だったか「おーい でてこーい」が教科書に載っていたりして。一度、「友好使節」が塾の読解テストの例題に出たんです。ショートショートだから全文載っていたんですが私は続きがあるものだと思い、どうしても先が知りたくて、はじめて大人向けの本を買いました。そうしたら、自分が読んだところでスパッと話が終わっていて。あれは衝撃でした。今では自分もそうした話を書くことがありますが、小学生の時は「ここからどうなるかって話なんじゃないの?」って驚いて、その衝撃はいまだに残っています。物語の技法というものにショックを受けた原体験かもしれないです。

――国語の授業や、文章を書くことは好きでしたか。

織守:好きだし得意でした。でも作文は賞を獲ったのが1回あったくらいで、ズバ抜けて上手だったわけではないです。
 一回、壁新聞みたいなものを作る授業があって、そこに物語を書いたんです。友達はすぐに飽きていたけれど、私は飽きもせず物語を書くようになりました。確か、ファンタジーで、すごく情けない王子がすごく強い女剣士を連れて王様の病気を治すための花か何かを探しにいく話でしたが、拙いものでした。
 それと週1回、放課後に緩い感じのクラブ活動があって、そこで漫画を描いたりもしました。内容はまったく憶えていませんが、登場するキャラクターが全部、鳥でした。なんでそんな作画しにくいものにしたのか分かりませんが(笑)、たぶん鳥の絵を描くのがブームだったんです。

――小学生の頃、将来何になりたいと思っていましたか。

織守:そんなに固まっていませんでした。いちばん古い学年の文集には、将来の夢は「ケーキ屋さん」と書いていました。ケーキを作りたいわけでも売りたいわけでもなくて、何か書かないといけないからなんとなく書いただけです。もうちょっと上の学年になると「漫画家」と書いたかもしれませんが、5、6年生の時は「声優」と書いた気がします。

――アニメもお好きだったんですか。手塚作品以外も観ていましたか。

織守:小学校高学年から中1でドイツに行くまではアニメも見ていました。手塚作品の他には、「アニメ三銃士」とか。このアニメ版では三銃士の一人、アラミスが女性で、オスカル様的な魅力があって格好よかったんです。映画版もあったんですがその情報を知らなくて公開時に観に行けなかったので、後にビデオを買ってもらいました。他にも、いつもロボットものを放送するアニメ枠を観たりとか。あ、そうそう、「幽☆遊☆白書」も好きでした。

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