第241回:織守きょうやさん

作家の読書道 第241回:織守きょうやさん

2012年に『霊感検定』で大14回講談社BOX新人賞Powers、15年に『記憶屋』で第22回日本ホラー小説大賞読者賞を受賞、後者は映画化もされた織守きょうやさん。昨年話題になった『花束は毒』のように驚愕の結末が待つミステリから、霊の記憶が視える探偵が主人公の『ただし、無音に限り』シリーズのように不思議な要素を盛り込んだ作品まで、さまざまなテイストを生み出すその源泉にある読書遍歴とは? リモートでお話をうかがいました。

その7「デビュー後の読書と自作」 (7/7)

  • 獣の奏者 1闘蛇編 (講談社文庫)
  • 『獣の奏者 1闘蛇編 (講談社文庫)』
    上橋 菜穂子
    講談社
    692円(税込)
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  • 魔女の子供はやってこない (角川ホラー文庫)
  • 『魔女の子供はやってこない (角川ホラー文庫)』
    矢部 嵩,小島 アジコ
    KADOKAWA
    748円(税込)
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  • バトル・ロワイアル 上 幻冬舎文庫 た 18-1
  • 『バトル・ロワイアル 上 幻冬舎文庫 た 18-1』
    広春, 高見
    幻冬舎
    660円(税込)
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  • オクトーバー・リスト (文春文庫 テ 11-43)
  • 『オクトーバー・リスト (文春文庫 テ 11-43)』
    ジェフリー・ディーヴァー,土屋 晃
    文藝春秋
    1,045円(税込)
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  • 彼女。 百合小説アンソロジー
  • 『彼女。 百合小説アンソロジー』
    相沢 沙呼,青崎 有吾,乾 くるみ,織守 きょうや,斜線堂 有紀,武田 綾乃,円居 挽
    実業之日本社
    1,925円(税込)
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――さて、プロになってからの読書生活は。

織守:相変わらず昔から好きな作家さんたちを読んでいますが、最近は海外翻訳ものもわりと読むようになりましたし、人にお薦めを訊くようになりました。人の読書日記も好きで、桜庭一樹さんの「桜庭一樹読書日記」のシリーズはウェブでも読んでいたので、そこから面白そうだなという本を読んだりして、読書の幅が広がりました。
 読むものは仕事柄ホラーとミステリに偏ってはいますが、ジャンルに関係なく読むようにしています。30代になってからはじめて上橋菜穂子さんを読んだりしました。名前は前から知っていたんですが、たまたま『精霊の守り人』シリーズを読んだら最高に面白くて、『鹿の王』を読んだらこれもまた最高に面白くて。『獣の奏者』は全部買ってありますが、楽しみのために読まずにとっていたんです。でも今年、上橋さんが新刊の『香君』を出されたので、どちらかは読んでもいいかなと思っています。

――好きな作家の作品は何冊か未読のものを残しておくんですね(笑)。ホラー作家だとどういう方がお好きですか。

織守:恒川光太郎さん、澤村伊智さん。それと、ホラーとして楽しんでいるわけではないんですけれど、矢部崇さん。あまり新刊がないんですけれど、KADOKAWAホラー文庫や早川書房から本を出している方で、文章がすごく独特なんです。天才なので、狙って書いているわけではなのに狙わないと書けないような、癖になる文章を書く人です。『魔女の子供はやってこない』は電子書籍で読み、どうしても紙の本でも欲しくなったんですがなかなか手に入らなくて、こないだやっと重版がかかったので入手しました。人間の女の子と魔女の女の子が仲良くなる話、というと明るい内容に聞こえますが、それが血まみれのぐっちょんぐっちょんな展開になって、なのになぜか謎の感動があるんです。訳が分からないけれど面白いというか、一文を繰り返して読んでしまうという楽しみ方ができるんです。業界にファンが多くて、先日は青崎有吾さんが矢部さんに会って握手を求める姿を目撃しました(笑)。

――翻訳小説はどんな作品が好きですか。

織守:やっぱりミステリとホラーが多いですね。私、キングも大人になってから読んだんです。イギリスにいた頃にテレビで放映していたあの気持ち悪いドラマはキング原作の『痩せゆく男』だったんだなとようやく気付いたりして。
 好きなキング作品はなんだろう...。全作読んだわけではないのですが、『ファイアスターター』とか。「ミスト」は映画の衝撃が強かったしな...。あ、いちばん好きなのはリチャード・バックマン名義の『死のロングウォーク』です。『バトル・ロワイアル』のモデルになった小説とも言われていますが、一人だけ生き残るレースに参加してしまう少年の話で、どうせ主人公は生き残るんだろうなと思わせておきながら、その過程を飽きさせずに読ませるんですよね。それぞれが脱落していくシーンもすごく読ませる。
 それと、ジェフリー・ディーヴァーも読まずにきてしまったんですが、『オクトーバー・リスト』が評判だったので読んだら本当に面白くて。やっぱり面白いと言われている作家は読まなきゃいけないなと思いました。

――『オクトーバー・リスト』は、最後の場面から始まり、一章ごとに時間が遡っていく作りですよね。

織守:そうです。オチから始まっているのに、よくあんなサスペンスが成り立つなと思いますよね。他には、アガサ・クリスティーも英語で何冊か読んだだけだったのですが、何かの拍子に日本語版を読んだらすごく面白かったので、今は日本語版で1年に何冊か読んでいます。

――ところで、今のお住まいは神戸ですよね。東京から引っ越されたんですね。

織守:東日本大震災の直後、神戸で一人で暮らしている母親が帰ってきてほしそうだったんですよね。確かにお互いに心配だったんです。ちょうどその頃、働いていた事務所が神戸に支社を作るということになったので、そちらに移りました。そのままずっと二足の草鞋を続けていたんですけれど、去年の半ばに弁護士登録を消して専業になりました。黒字のうちは専業で、3か月平均が赤字になったらまた登録すればいいかな、と考えたんです。今村昌弘さんには「1回専業になったら兼業には戻れないよ」と言われていますが(笑)。
 専業になって劇的に何かが変わったということはないんですけれど、余裕はできました。弁護士だった頃は「明日は刑事裁判だ」と思うと寝るまでずっとそのことを考えていましたが、今は小説のことだけを考えていればいいので精神的に余裕ができたし、仕事も断らないですむようになりました。

――1日のタイムテーブルは。

織守:あまり決まっていないんですけれど、だいたい午前10時から書き始めて、お昼を食べてまた書いて...。外で考えようと思って出かけることもあるので、何時から何時まで書くと決めているというよりは、1日2000字は書こうとか、そんな感じです。

――夜型ではないんですね。

織守:ああ、12時半には寝てしまいます。作家仲間とzoom飲み会をして夜が明けることはありますが(笑)。前に呉勝浩さんと葉真中顕さんと芦沢央さんと読んだ本について語ろうということになったんですが、呉さんだけばっちり昼寝をしてたんですよ(笑)。芦沢さんはお子さんの世話もあって大変だし、2時半くらいになった頃に私が「そろそろ...」と言ったら葉真中さんも「織守さんよく言ってくれた」となって、そうしたら呉さんが、芦沢さんが今まさにハマっている竜王戦の話を出してきて、それで朝までになりました(笑)。下村敦史さんや今村昌弘さんも呉さんにつきあって朝になったという話を聞きますが、でも呉さんってああ見えて作風ほど無頼じゃないんですよ。お酒を飲んでも品があるというか、酔ったらさらに小説について熱く語るんです。新刊が出るから献本すると言っても「あんたたちの本くらい自分で買うよ」って言う人です。って、呉さんの話になってしまいました(笑)。

――織守さんはいろんな題材を扱っていますが、新作のテーマはどのように決めているのですか。

織守:前は「なんでもいいから」と言われることが多かったんですが、最近は「こういう路線で」と言われることが増えました。言われてから考えることもあれば、ストックの中から合いそうなものを持ってきてチューニングすることもあります。ミステリとかホラーの依頼が多いなかで、最近だと百合小説を書いてくれと言われて、あれは新鮮で楽しかったです。

――『彼女。百合小説アンソロジー』に参加されていましたね。ちなみに、ご自身の小説のジャンルについてどんな思いがありますか。

織守:弁護士ものの『黒野葉月は鳥籠で眠らない』に収録した「三橋春人は花束を捨てない」を『ベスト本格ミステリ2015』の収録作に選んでいただいた時に、はじめてミステリ作家と名乗ってもいいのでは、と思えました。そこから「ミステリやホラーを書いています」と言えるようになりました。
 それまでは、ミステリといえば本格ミステリ、という意識があって......自分が読む時は気にしないんですが、書く側としては、密室などのトリック、仕掛けがあって、推理を経てそれ以外ないよねという結論にたどり着くものでないと本格ミステリとはいえない気がしていて、私にとってはハードルが高かったんです。でも「広義のミステリ」という言い方もあるので、まあいいかなと思うようになりました。

――いつもミステリとして面白く拝読していますよ。謎が解けた時の「うわあ...」という点で『花束は毒』は怖かったですね(笑)。現時点での新刊は『だたし、無音に限り』の続篇『夏に祈りを ただし、無音に限り』ですよね。これは霊の記憶が視える探偵が主人公で、ただしその人が死んだ場所で眠らないと視えないし、音は聞こえないという。こういう不思議な設定がユニークですが、どのように作っているのですか。

織守:あれはどういう条件なら謎と解決が成立するか考えて、そこから逆算して設定を考えました。いつも、ファンタジーや魔法の要素を入れるにしても、なんでもアリにならないようにルールは作ります。世界観を作り込むというよりも、物語の成立に必要なところを矛盾ないように作る感じです。

――このシリーズはとっても聡明な少年、楓君とのコンビもいい味ですよね。さて、今後のご予定は。

織守:今年はデビュー10周年ということもあって、結構本が出るんです。4月に光文社からアンソロジー『Jミステリー2022 SPRING』が出たばかりで、5月には集英社から『短篇アンソロジー 学校の怪談』、6月にはKADOKAWAから男子高校生2人のバディもののライトミステリ『学園の魔王様と村人Aの事件簿』が出ます。これは2人の男の子の関係性に重きを置いて、そこにミステリ味をつけたような小説です。円居挽さんが『キングレオの帰還』を刊行された時に、似たようなことをおっしゃっていて、「なるほどその説明ならプレゼンしやすい!」と思っていました(笑)。
 他には7、8、9月の連続刊行で『黒野葉月は鳥籠で眠らない』と続篇の『301号室の聖者』の文庫新装版、新作の単行本が双葉社から出ます。もともとこのシリーズを出していた講談社と揉めたわけではなくて、講談社では別のエンタメ作品を書くことになったので、このシリーズは双葉社さんで続きを出すことになったんです。穏便です(笑)。
 それと今、年一回「オール讀物」で江戸時代を舞台にした本格ミステリっぽいものを書いているんです。昨年の7月号に一作書いて(「まぼろしの女」)今度の7月号にまた次の短篇が掲載されます。

――時代ものも書かれるんですか。

織守:時代ものじゃないとできないことがあるので書いてみたかったんです。呉さんや芦沢さんにも「どうやって書いたの?」と訊かれました(笑)。もちろん参考資料はいっぱい読みましたが、もし何か間違いがあったら時代小説に関して百戦錬磨の「オール讀物」の担当者さんが指摘してくれるので助かります。書く時はまず宮部さんの時代小説を読んで、気分を盛り上げてから取り掛かっています(笑)。

(了)

  • ただし、無音に限り (創元推理文庫 M お 14-1)
  • 『ただし、無音に限り (創元推理文庫 M お 14-1)』
    織守 きょうや
    東京創元社
    814円(税込)
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  • 夏に祈りを: ただし、無音に限り (ミステリ・フロンティア 111)
  • 『夏に祈りを: ただし、無音に限り (ミステリ・フロンティア 111)』
    織守 きょうや
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  • Jミステリー2022 SPRING (光文社文庫)
  • 『Jミステリー2022 SPRING (光文社文庫)』
    東野圭吾,知念実希人,芦沢央,青柳碧人,織守きょうや,今村昌弘,光文社文庫編集部
    光文社
    1,320円(税込)
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  • 短編アンソロジー 学校の怪談 (集英社文庫)
  • 『短編アンソロジー 学校の怪談 (集英社文庫)』
    織守 きょうや,櫛木 理宇,清水 朔,瀬川 貴次,松澤 くれは,渡辺 優,集英社文庫編集部
    集英社
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  • 黒野葉月は鳥籠で眠らない (双葉文庫)
  • 『黒野葉月は鳥籠で眠らない (双葉文庫)』
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  • 301号室の聖者
  • 『301号室の聖者』
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