第241回:織守きょうやさん

作家の読書道 第241回:織守きょうやさん

2012年に『霊感検定』で大14回講談社BOX新人賞Powers、15年に『記憶屋』で第22回日本ホラー小説大賞読者賞を受賞、後者は映画化もされた織守きょうやさん。昨年話題になった『花束は毒』のように驚愕の結末が待つミステリから、霊の記憶が視える探偵が主人公の『ただし、無音に限り』シリーズのように不思議な要素を盛り込んだ作品まで、さまざまなテイストを生み出すその源泉にある読書遍歴とは? リモートでお話をうかがいました。

その5「「活字倶楽部」とBOOKSルーエ」 (5/7)

  • 銀河英雄伝説 1 黎明編 (創元SF文庫)
  • 『銀河英雄伝説 1 黎明編 (創元SF文庫)』
    田中 芳樹,星野 之宣
    東京創元社
    880円(税込)
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  • 王都炎上―アルスラーン戦記〈1〉 (光文社文庫)
  • 『王都炎上―アルスラーン戦記〈1〉 (光文社文庫)』
    田中 芳樹,山田 章博
    光文社
    544円(税込)
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  • 極め道―爆裂エッセイ (光文社文庫)
  • 『極め道―爆裂エッセイ (光文社文庫)』
    三浦 しをん
    光文社
    544円(税込)
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  • アウターゾーン 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)
  • 『アウターゾーン 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)』
    光原伸
    集英社
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――大学進学で日本に帰国されたのですね。

織守:家族の帰国が決まっていたんです。一応、私はイギリスの大学に行ける資格は取っていたんですけれど、日本のほうが本が手に入りやすいし3分の1の値段で買えるし......と、自分も帰国したいと思い、東京の大学に進学しました。

――織守さんはのちに弁護士になるわけですが、法学部に進んだのですか。

織守:いえ、それが法学部のない学校に進学したんです。当時は別に何になりたいとも思っていなかったので、何回か帰国して見学して、そのなかでいちばん環境がいいなと思ったICU(国際基督教大学)だけ受けて進学しました。

――ああ、すごく環境がいいですよね。

織守:すごくのどかな学生生活を送りました。図書館も近くにあったのでいつも上限の冊数まで借りて読んでいました。行けば本がいっぱいあるので、天国かと思いました(笑)。当時、私の周りでは「銀英伝」(『銀河英雄伝説』)が流行っていました。友人が政治学の授業の間にこっそり「銀英伝」を読んでいたら、期末試験の設問が「この授業で学んだことを書きなさい」という一行だけで。友達は「銀英伝」のヤン・ウェンリーが言っていた「民主主義とは」「絶対君主制とは何が違うか」といったことを書いてA評価をもらったそうです。政治学の授業中に学んだには違いないよね、って(笑)。
 そんな感じで、のんびりと、小説を読んだり書いたりしていました。

――どんな本を読んでいましたか。

織守:田中芳樹さんをはじめ、それまで好きだったものを続けて読んでいました。『アルスラーン戦記』は今読み返しても最高です。『創竜伝』は最後の2巻は発売初日に買ってあるんですが、時間がある時に1巻から続けて読もうと思ってまだ取ってあります。
 それと、「活字倶楽部」という雑誌があったんですよね。捨てずにとってあるいちばん古い号が1999年春号なので、大学生に買い始めたのは間違いないです。この雑誌で面白そうな本を知って読む、という習慣がこの時期に始まるんです。それで、京極先生たちに限らず講談社ノベルスを片っ端から読むようになりました。摩耶雄嵩さんを読み、舞城王太郎さんの文体に痺れ...。
 たぶん、この頃に乙一さんも読み始めて、次々新刊が出るので買っていました。今好きな作家にはこの頃に出合っていますね。
 三浦しをんさんも「活字倶楽部」で知って、デビュー作の『格闘する者に〇』を読みました。その後、新刊を出たら追いかけている人です。それまで小説ばかり読んでいたけれど、三浦さんはエッセイも本当に面白いんですよね。笑い転げながら読んでいます。最初のエッセイ集の『極め道』とか、『しをんのしおり』とか。大好きです。
 北方謙三さんの「ブラディ・ドール」シリーズも「活字倶楽部」で知って読みました。それまでハードボイルドは読んでいなかったけれど、特集しているし読んでみるかと思って古本屋で2冊くらい買って「これは面白い!」となって、古本で買ったことを詫びつつボックスで買い直しました。「活字倶楽部」のおかげで読書が広がりました。
 子どもの頃に怖くて読めなかった漫画の『アウターゾーン』を読んだのもこの頃です。小さい頃は怖がりで、「世にも奇妙な物語」みたいなものは怖くて避けていたんですが、読んでやっぱり面白いなと思いました。

――ああ、それまでホラー系は『リング』以外はあまり読んでいなかったのですね。

織守:そうですね。大学生の時か院生の時かうろおぼえなんですが、図書館でたまたま手にとったのが朱川湊人さんの『都市伝説セピア』という短篇集でした。これがすごく面白くて、自分で単行本を買い直しました。でもみんなあまり知らなくて、「こんな面白い作家がいるのになぜ知らないの?」と思っていたんです。そうしたらそのちょっと後に直木賞を受賞されて、『都市伝説セピア』が単行本第一作だったと知りました。収録されている「昨日公園」は私にとってオールタイムベストに入る短篇です。

――「昨日公園」は、どんなところが織守さんに響いたんでしょうか。結末はネタバレになるので書けませんが。

織守:まず、1日が繰り返されるという設定ですよね。小学生の男の子が、友達が死んでしまう1日をループするなかで何度もその死を防ごうとする。どうしても止められないとなった時の彼の決断と行動にぐっと来た後に、もうひと展開あるんです。ぞっとして終わってもいい話なのに、こんなふうに終わるんだっていう。導入部分からずっと面白くて、どこかひとつとっても良いのに、さらに最後でこうなるのか、って。これまでに2回、「世にも奇妙な物語」でドラマ化されているんです。最初のドラマ化は恋人同士の話になっていて原作の良さが活かされていなくて、2番目のドラマ化では母と子の話でマシになっていますが、やっぱり原作がいちばんいいんです。すごく好きです。この頃になると自分の作風に近いものを読んでいるなと思います。

――海外小説は読みましたか。

織守:この頃は読んでいなかったんです。でも『ハリー・ポッターと賢者の石』が出た時は夢中になって読みました。海外ファンタジーは他も読みましたが、ハリポタが一番好きでした。1巻が出て2巻が出る直前くらいに読み始めて、1年に1冊出るのを楽しみにして、英語版を一足先に読んでから日本語版が出たらそれも読んでと、リアルタイムで楽しめたんです。作者がインタビューで「次の巻ではこういうことが起きます」みたいなことを話すので、それもひとつの仕掛けになっていたと思います。私は今幸せな読書をしているなって思っていました。

――小説以外は、三浦さんのエッセイの他にはどんなものを?

織守:笹公人さんという歌人の『念力姫』という歌集を吉祥寺のBOOKSルーエで見つけたんです。一首一首に物語性があって面白くて、そこから彼の既刊の作品を全部買って、新刊が出たら買うようになりました。今でも大好きな歌人さんです。短いなかに何をどう切り取るか難しいだろうけれど、言葉の選び方もすごくよくて。短歌って小説とは違う良さがあるし、学ぶところがすごくあるなと感じています。自分では作れませんが。
 BOOKSルーエではこれも買ったんですよ(と、本を掲げる)。マックス・エルンストの『百頭女』。絵に一言が添えられている独特な本で、たしか森博嗣先生のエッセイに出てきて興味を持っていたところ、ルーエにあったので買いました。
 もういらっしゃらないんですが、当時のルーエには花本武さんという書店員さんがいらしたんです。店頭の棚がすごくよくて、いつも「こ、これは...!」と思わせる選書なので、「あの素晴らしい棚はどなたが...?」と訊いたら「あ、僕です」って、花本さんが。花本さんの選書の棚で私はいろんな本を読みました。その後私も引っ越してルーエに行かなくなったんですが、2、3年前に偶然、文学フリマで花本さんにお会いしたんですよ。「織守と申します。以前お世話になりました」とご挨拶しました。

  • 都市伝説セピア (文春文庫)
  • 『都市伝説セピア (文春文庫)』
    朱川 湊人
    文藝春秋
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  • ハリー・ポッターと賢者の石<新装版>
  • 『ハリー・ポッターと賢者の石<新装版>』
    J.K.ローリング,佐竹 美保,松岡 佑子
    静山社
    1,980円(税込)
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  • 百頭女 (河出文庫)
  • 『百頭女 (河出文庫)』
    マックス エルンスト,Ernst,Max,国士, 巌谷
    河出書房新社
    1,320円(税込)
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