第241回:織守きょうやさん

作家の読書道 第241回:織守きょうやさん

2012年に『霊感検定』で大14回講談社BOX新人賞Powers、15年に『記憶屋』で第22回日本ホラー小説大賞読者賞を受賞、後者は映画化もされた織守きょうやさん。昨年話題になった『花束は毒』のように驚愕の結末が待つミステリから、霊の記憶が視える探偵が主人公の『ただし、無音に限り』シリーズのように不思議な要素を盛り込んだ作品まで、さまざまなテイストを生み出すその源泉にある読書遍歴とは? リモートでお話をうかがいました。

その4「ロンドンで講談社ノベルスに出合う」 (4/7)

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  • 『銀の檻を溶かして 薬屋探偵妖綺談 (講談社文庫)』
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――高校時代はロンドンで過ごされたわけですよね。こちらでもインターナショナルスクールに通ったのですか。

織守:そうです。アメリカ資本の学校で、みんなアメリカン・スクールと呼んでいました。イギリスなのに英語もアメリカンでした。
 この頃に、講談社ノベルスに出合ってしまうんです(笑)。有栖川有栖先生、森博嗣先生、京極夏彦先生にがっつりハマりました。何が最初だったか憶えていないのですが、森先生の『すべてがFになる』が1996年刊行なので、16歳の時だったのかな。京極先生の『塗仏の宴 宴の始末』は発売を待って買った記憶があるので、1998年にはもうハマっていました。日本語の新聞の広告に載っているのを見て誕生日プレゼントにねだって、日本に出張していた父親に買ってきてもらったんです。高里椎奈さんの『薬屋探偵妖綺談』シリーズにもハマりましたが、これは第一弾が1999年刊行なので少し後の話ですね。
 高校生の時は、ロンドンの自宅から徒歩でいけるところに日本語の本屋さんがあったんです。その頃はお小遣いをもらっていたので、もらうと握りしめてその本屋さんに行っていました。そこで有栖川先生の『46番目の密室』とか『ダリの繭』を買ったのは間違いないです。本にポンドの値段シールがついていますから。
 あとすごく憶えているのが、その本屋さんで宮部みゆきさんの『龍は眠る』を買ったこと。なんの先入観もなくあらすじを読んで、超能力、少年、苦悩、ミステリ...といった内容に惹かれて買いました。それがすごく面白くて。宮部さんがデビューされてまだそれほど経っていない頃で刊行点数も多くはなかったので、『魔術はささやく』など既刊を全部読み、「この人の作品は全部面白いぞ」となってその後は新刊が出るたびに買うようになりました。宮部さんが書いているからと、『本所深川ふしぎ草紙』ではじめて時代小説も読みました。
 それと、たしかこの頃、NHKで北村薫さんの『覆面作家は二人いる』がドラマ化されて放送していたんですよね。ドラマ版は「お嬢様は名探偵」というタイトルで、主演のともさかりえさんが可愛くて。それもミステリというより名探偵の魅力で見ていたんですが、原作を読んで「この作家の作品が好き」となり、「円紫さんと私」のシリーズを手にとりました。

――近所の書店に日本の本があってよかったですね。

織守:ちょこっとだけ日本の本を扱っている古書店もありました。海外で日本の新刊本を買うと高いので、古本屋さんで面白そうな本があるととりあえず買っていたんですが、そこで出合ったのが長野まゆみさんでした。それまでミステリやエンタメばかり読んでいたんですけれど、それとはまた違う、長野さんのなんともいえないあの素敵な世界観に魅了されました。私にしては珍しいハマり方でしたが、長野さんファンってきっとみんなそうですよね。文章も漢字にあえて難しい字を使っていたりして、食べ物も美味しそうで。一時帰国の際には長野さん作品のポストカードや鉱物が売っているお店でいろんなグッズを買いました。

――その頃、英語の本も読まれましたか。

織守:読んでいましたが、はやく読めるので日本語の本を読むことが多かったですね。でも授業で時々、すごく面白い短篇に出くわすことがありました。大人になってから海外の短篇集を読んでいると、「あ、あの時読んだのはこれだ!」ということがあります。
 よく憶えているのが4作あるんです。アンソロジー『八月の暑さのなかで』の表題作と、シャーリイ・ジャクスンの「くじ」。それと「The Chaser」というタイトルの短篇で、主人公の青年が片想いに悩んで、なんでも望む薬が手に入る店に来るんです。人を殺す薬は高いけれど、惚れ薬は安い。主人公は喜んで惚れ薬を買うんですが...。ちょっと不穏な感じで終わる話です。それは、ジャック・コリアの『予期せぬ結末 ミッドナイト・ブルー』を読んでいたら「またのお越しを」というタイトルで出てきて、「これだー!」って思ったんですよね。
 まだ邦訳に出合えていないのが、うろおぼえですが「mist」というタイトルの短篇です。キングの「ミスト」じゃないんですよ。悪いことをした主人公が霧の中で人に会って、悪事を見られたと焦ってどうにかしようとするのだけれど...という話です。ぼんやりとしか憶えていないんですが、いずれ名のある作家の短篇だったんだろうと思います。

――読書以外で好きだったことってありますか。

織守:人並に音楽も聴いていたし、乗馬もやっていましたが...。なんだろう。ああ、演劇でしょうか。イギリスでもブロードウェイミュージカルを上演しているので、せっかくだから観られるうちにいろいろ観よう、ということで「オペラ座の怪人」やアガサ・クリスティーの「ねずみとり」などを観ました。最後に「このオチは口外しないでください」って言われる舞台ですね。私の初アガサ・クリスティーはその舞台だったかもしれません。ミュージカル音楽も好きで、CDを買って聴いたりしていました。

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