第241回:織守きょうやさん

作家の読書道 第241回:織守きょうやさん

2012年に『霊感検定』で大14回講談社BOX新人賞Powers、15年に『記憶屋』で第22回日本ホラー小説大賞読者賞を受賞、後者は映画化もされた織守きょうやさん。昨年話題になった『花束は毒』のように驚愕の結末が待つミステリから、霊の記憶が視える探偵が主人公の『ただし、無音に限り』シリーズのように不思議な要素を盛り込んだ作品まで、さまざまなテイストを生み出すその源泉にある読書遍歴とは? リモートでお話をうかがいました。

その6「突然、弁護士を目指す」 (6/7)

  • 記憶屋 (角川ホラー文庫)
  • 『記憶屋 (角川ホラー文庫)』
    織守きょうや
    KADOKAWA/角川書店
    660円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
  • 黒野葉月は鳥籠で眠らない (双葉文庫)
  • 『黒野葉月は鳥籠で眠らない (双葉文庫)』
    織守きょうや
    双葉社
    770円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
  • ぼぎわんが、来る (角川ホラー文庫)
  • 『ぼぎわんが、来る (角川ホラー文庫)』
    澤村伊智
    KADOKAWA
    748円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
  • デュラララ!! (電撃文庫 な 9-7)
  • 『デュラララ!! (電撃文庫 な 9-7)』
    成田良悟
    KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
    693円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto

――大学生時代、小説家になりたいと思っていましたか。その後弁護士になられたのは、どういう経緯だったのでしょう。

織守:大学生の頃には、いつかは小説家になりたいと思っていました。
 4年の時に、ふと日本では就職活動は3年の時に始めるものだと気づき、もう間に合わないと思って。出遅れたということもありますが、出版社は憧れるけれどハードルが高いし、それ以外特に行きたい会社もないなとなった時、資格をとって仕事をしながら小説を書いたほうがいいのでは、と考えたんです。でも、医者といっても私は理系ではないし、警察官は身長と体重でたぶん難しいし...などと思いながら調べていたら、ちょうどロースクールができると知って。ロースクールの試験は読解とIQテストみたいなものだけなので、これはいけるかもしれないと思ってロースクールに進み、3年勉強して司法試験を受けました。

――わあ。それまで法律の勉強をしてきたわけではないですよね?

織守:そうなんです。ロースクールは3年勉強して司法試験に合格するための学校だと謳われていたので、それを馬鹿正直に信じて入ったわけですよ。でも周りはみんな法学部卒業だったりして、入ってから話が違うと思って。授業でも、みんなが分かっていることを私だけ全然分からないんです。「六法の六は何ですか?」と訊かれて「憲法と民放と刑法...」と止まって、「刑法と言えば?」と言われてようやく「ああ、刑事訴訟法と民事訴訟法」となり、最後まで「商法」を思い出せないまま、という感じで。参考書も伊藤塾からいろいろ出ていることを知らないので、賢そうな人に訊いて教えてもらいました。なんとかなってよかったです。

――その間の読書と執筆は。

織守:最初の1、2年は読んだり書いたりしていたんですけれど、最後の半年はまったく書かず読まずで勉強していました。
 ロースクールに入る直前か直後くらいに、カドカワエンタテインメントNext賞に応募して、即デビューには至らなかったけれど担当はついたんです。でもその方が異動したり、私も試験前の半年間何も書かずに勉強しているうちに、連絡がつかなくなりました。私も、弁護士になって仕事をしながら書き続ける立場になりたかったので、まずは試験勉強を頑張ろうと思っていたので。

――弁護士になってからは。

織守:東京の弁護士事務所に就職しました。面接の時に「7時が定時とありますが本当ですか?」などと確認して社長の言質を取りました(笑)。初日も、最初が肝心なので、自分の仕事を終えて7時になったら「帰ります!」と言って。先輩に「帰るの?」と訊かれて「ええ、おつかれさまです!」と言って、この人は定時になると帰るんだなと印象づけました。そうして帰宅して小説を書いていました。新人賞の応募も始めましたが、働きながらなのでそんなにいっぱい書いていたわけではないです。

――その頃はどのようなものを書いていたのですか。

織守:いろんなものを書いていろんなところに出そうとしていました。そのなかでデビュー作となった『霊感検定』は最初、ライトノベルに寄せたつもりで書いて、ライトノベルの賞に出したんです。そこは一次選考に落ちても評価を教えてくれる賞で、一次で落ちたんですがコメントに「面白く読んだけれどライトノベルの文体ではないと思う」みたいなことが書かれていて。じゃあこれは一般文芸に出したほうがいいのかなと考え、ちょこっと手直しをして、同じように応募作全作に評価を出してくれる講談社BOX新人賞"Powers"に応募しました。ただ、BOX新人賞は尖った作品が多いから、パンチが足りないと言われると思っていたんです。次に応募する作品でパンチを出してふり幅を見せようと思っていたら、思いがけずデビューできることになりました。

――『霊感検定』でデビューが決まったのに、その後プロでも応募できる日本ホラー小説大賞に応募して『記憶屋』で読者賞を受賞されましたよね。それはどうしてですか。

織守:デビュー後3冊出したのですが、3冊目の途中で担当編集者さんが異動したことと、BOXレーベルからの刊行点数が減ってきたことで、次の本は出ないかもしれない気配を感じたんです。担当者さんの異動先の「小説現代」で弁護士もの(『黒野葉月は鳥籠で眠らない』)を書き始めたりはしていたんですけれど、その人がもしまた別の部署に異動になったら私は消えるな、と思いました。
 その頃、同じくBOX新人賞からデビューしていた岩城裕明さんが日本ホラー小説大賞で佳作に入ったんです。『牛家』という作品です。なるほど再デビュー組でも応募できる賞なんだなと思って、『記憶屋』を応募して、翌年読者賞を受賞しました。私が応募したのは澤村伊智さんの『ぼぎわん』(刊行時タイトルは『ぼぎわんが、来る』)と同じ回だったんですよ。読んだらめちゃくちゃ面白くて誰がどう読んでも大賞だと思ったので、読者賞を獲れてよかったです。
 BOX新人賞は、才能があるのに時代の流れで本が出にくくなった人がいっぱいいるんです。浅倉秋成さんもそうでしたし。消えずによかったね、と話しています。

――能力に差はあれど霊感を持つ生徒たちと、生徒に霊感検定を受けさせる図書室の司書が成仏できない霊の相手をする『霊感検定』も、忘れたい記憶を消してくれると噂される謎の人物をめぐる『記憶屋』も、シリーズ化しましたよね。応募する時にシリーズ化は頭にありましたか。

織守:『霊感検定』はかなりキャラクターを立てたので、書けと言われたら書けるとは思っていました。「続篇を書いて」と言われて嬉しかったです。『記憶屋』はぜんぜんシリーズ化するとは思っていなかったんです。KADOKAWAホラーのファンの方から「ぜんぜん怖くない」と言われるだろうから、次にすごく怖い話を書いて「私は怖いものも書けるんですよ」とプレゼンするつもりでした。そうしたら担当者から「『記憶屋』の切ない感じが好きで読もうとする人が混乱するから怖くしなくていい。続篇を書きましょう」と言われて。続篇は考えていなかったので最初は動揺しました(笑)。

――ところで、ペンネームの由来は。

織守:BOX新人賞に出す時、書き上げてから慌てて考えたんです。ちょっとライトノベルっぽくかっこつけて奇抜さがあって、でも派手すぎない名前がいいなと思った時に「キリハラ」とか「オリハラ」という苗字が浮かんだんですが、当時大人気だった『デュラララ!!』の大人気キャラと被るから避けることにして。でも音の感じが気に入ったのと、『タイガー&バニー』の推しが折紙サイクロンだったので、「『オリガミ』って響きは可愛いな」と思って......適度にかっこつけていて、かつ派手すぎない感じの字を当てました。下の名前は男性か女性か分からない感じにしようと考えているうちに「きょうや」の響きが気に入りました。漢字も考えましたが「鏡」や「響」は画数が多いし、いっそひらがなでいいのでは、と。慌てて適当につけたものでしたが、受賞が決まった時に担当者からも「名前はこれでいきましょう」と言われ、そのままペンネームになりました。

  • TIGER & BUNNY Blu-ray BOX
  • 『TIGER & BUNNY Blu-ray BOX』
    平田広明,森田成一,寿美菜子,楠大典,井上剛,津田健次郎,伊瀬茉莉也,岡本信彦,遊佐浩二,さとうけいいち
    バンダイビジュアル
  • 商品を購入する
    Amazon
    HMV&BOOKS

» その7「デビュー後の読書と自作」へ