
作家の読書道 第241回:織守きょうやさん
2012年に『霊感検定』で大14回講談社BOX新人賞Powers、15年に『記憶屋』で第22回日本ホラー小説大賞読者賞を受賞、後者は映画化もされた織守きょうやさん。昨年話題になった『花束は毒』のように驚愕の結末が待つミステリから、霊の記憶が視える探偵が主人公の『ただし、無音に限り』シリーズのように不思議な要素を盛り込んだ作品まで、さまざまなテイストを生み出すその源泉にある読書遍歴とは? リモートでお話をうかがいました。
その3「ドイツ時代にハマった日本人作家」 (3/7)
-
- 『ハイスクール・オーラバスター 天使はうまく踊れない (集英社コバルト文庫)』
- 若木未生,杜真琴
- 集英社
-
- 商品を購入する
- Amazon
-
- 『風の大陸 第一部 邂逅編 (富士見ファンタジア文庫)』
- 竹河 聖,いのまた むつみ
- KADOKAWA
-
- 商品を購入する
- Amazon
――中学時代はドイツとのことでしたが、どちらだったのですか。
織守:デュッセルドルフです。日本人が多い場所で日本語の本を揃えた書店もありました。学校はインターナショナルスクールに通っていたので授業は英語でしたが、英語でドイツ語を教える授業もありました。
――え、大変だったのでは。
織守:そうなんです。そもそも英語ができなかったので、英語でドイツ語を説明されても分からないという。最初の何か月かは英語ができない人のクラスで英語の勉強をして、もう大丈夫となったら普通のクラスに移されるはずだったんですが、私はまったく大丈夫じゃないのに先生が「積極的にコミュニケーションをとるタイプだから外に出たほうがいいだろう」と判断して、短い期間でそのクラスを出されちゃったんです。その時はそういうものだと思いましたが、その結果、もう半泣きでしたね。大変でしたが、でもなんとかなりました...というか、辛いことはあまり憶えていないです。
――読書生活はいかがでしたか。
織守:小学生の時から好きだったものを続けて読んでいました。それと、一時帰国した時に、たしかジュンク堂で田中芳樹さんの『創竜伝』を見つけたんですよね。小学校高学年の頃にCLAMPさんを知ってからハマっていたんですが、講談社文庫の『創竜伝』のカバーがCLAMPさんだったんです。それで買ったらもちろん中身も面白くて。政治的な諷刺がいっぱいあるのも新鮮で、そこから田中芳樹さんの作品をかなり読みました。
住んでいる街に、私は通っていなかったんですが日本人学校みたいなところがあって、そこでフリーマーケットが開かれるんです。日本の漫画雑誌の古い号も売っていたりして、なかなか手に入らないものだから買ったんです。「LaLa」でした。そこに若木未生さんの『ハイスクール・オーラバスター』のコミカライズが載っていたんですよ。連載の途中でしたけれど、モノローグが格好よくて印象的で、それで高いのに「LaLa」を取り寄せて読むようになり、原作も買いました。"沼"ですよね(笑)。
このシリーズは昨年完結したんですよね。たぶん、私が最初に読んだコミカライズは『セイレーンの聖母』(シリーズ第2巻)でした。文章がすごく好きだったので、フレーズを書き写したりしていました。文体にハマった最初の作家は若木未生さんかなと思います。
その頃、日本人女子の間では講談社のティーンズハートが流行っていました。折原みとさんや倉橋燿子さんの作品を回し読みしていましたが、私は結局ファンタジーのほうが好きで、田中芳樹さんの作品を読んでいたりしました。
あと、CALMPさんがイラストというだけの理由で、『NIGHT HEAD』の単行本も買って、超能力者たちの暗い話にハマり、新刊を待ち望んで買うようになりました。海外にいたからドラマは観られなくて、あとからVHSで追いかけました。
それと、中高生くらいの時に、先輩に借りて富士見ファンタジア文庫から出ている竹河聖さんの『風の大陸』とか麻生俊平さんの『ザンヤルマの剣士』のシリーズとか、そのあたりを読んでいます。今のライトノベルとはまた違う感じで、文章もお話がすごく骨太で、すごいな、面白いなと感嘆しながら読みました。スニーカー文庫では深沢美潮さんの『フォ-チュン・クエスト』も世界観が作り込まれていて好きでした。講談社のホワイトハートで小野不由美さんの『十二国記』も読みました。それと、この頃はホラーはほとんど読んでいなかったんですが、なぜか『リング』は読んだんです。旅行先に持っていって、両親がゴルフか何かをしている間にホテルで読んだんです。映画版はちょっと違いますが、原作は呪いの正体を推理で解き明かしていくんですよね。それが面白くて、その頃は小説家志望でもないのに、「これを書いたのが私だったらよかったのに」と思ったんです。「こんなに面白いもの、書けないよー」って。
――その頃もご自身で小説は書いていたのですか。
織守:書いていました。黒歴史ですが(笑)。ノートに書くだけで、賞に送ったりはしていません。コバルト文庫にありそうな、高校生とか中学生の間で緩やかな事件が起きる青春ものとか、ファンタジーとか...といってもハイファンタジーではなくて、サーカスの人たちと街に住む女の子が交流する話で、その女の子の問題を解決してサーカスが去っていく話とか。誰にも見せられませんが、探せば家にノートが残っていそうで怖いです(笑)。