
作家の読書道 第248回:阿部暁子さん
2008年に『屋上ボーイズ』でデビュー、時間を超えた出会いを描く『どこよりも遠い場所にいる君へ』や車椅子テニスを題材にした『パラ・スター』二部作などで話題を集めた阿部暁子さん。幼い頃から物語が好きで、高校時代に歴史の参考書がきっかけで時代ものの短篇を執筆したという阿部さんが読んできた本とは? 新境地を拓いた新作長篇『金環日蝕』の担当編集者との出会いのエピソードが意外すぎます。楽しいお話たっぷりご堪能ください。
その1「物語が好きな子供」 (1/8)
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- 『美味しんぼ(1) (ビッグコミックス)』
- 花咲アキラ,雁屋哲
- 小学館
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――いちばん古い読書の記憶を教えてください。
阿部:「まんが日本昔ばなし」の絵本だったと思います。小さな正方形の絵本のシリーズで、母がどさっと買ってくれて。それを読んで育ちました。
――ああ、テレビでアニメが放送されていたシリーズの絵本版ですよね。阿部さんの小さい頃も放送されていました?
阿部:放送されていました。もう大好きでした。
それと、どこの出版社から出ていた本か分からないんですが、「ピノキオ」や「トム・ソーヤの冒険」などが載っている、藍色の地に金色で絵が入った表紙の綺麗で立派な本があったんです。まだ漢字が読めない頃だったので、それは絵を眺めていたように思います。
絵本ではないんですけれど、私、小さい頃から物語が異様に好きだったらしく、一桁の歳の頃、寝る前にいつも「こどもちゃれんじ」のテープを聴いていたらしいです。なにかのお話が入っていたんですよね。「こどもちゃれんじ」のテープか『ドラえもん』のお話のテープをかけていると、黙って聞いていつのまにか寝ていたそうです。
――阿部さんはどんな町で育ったのでしょう。
阿部:宮沢賢治が生まれた岩手県花巻市で育ちました。周りに自然が多いので、昔話を聞いていても普通にそのへんで起こりそうだなと感じていました。
小さい頃からわりと、空想力が強めだったようです。だから「まんが日本昔ばなし」でも怖い話が放送された時は頭の中でどんどんそれが展開して、夜眠れなくなったりしていました。なんか、昔話の怖い話って、骨の髄に沁みる怖さがありました。
――怖がりな子供でしたか。
阿部:人間は恐れないけれど、神仏幽霊は恐れるみたいなところがありました。「いちばん怖いのは人間だよね」みたいなことを大人が言っているとイラっとして「そんなことはない!」と食ってかかる子供でした。「そんなこと言って、ダイダラボッチが襲ってきたらどうするんだ!」って真剣に思っていました。
――小学校に入ってからは。
阿部:親が買ってきてくれた「クレヨン王国」のシリーズが大好きでした。『クレヨン王国の十二か月』が家にあったので読んだらもう面白くて、母に「これが面白い」ってすごく訴えたらシリーズをどさっと買ってきてくれたんです。
それと、私はぼんやりした子供だったので、学校に図書室があるということに気づいていなかったんです。そうしたら、最初の成績表に「図書室を利用しているか」という評価があって、ABCDでCをつけられたんですよ。それを見た時に、イラ~ッとしまして(笑)。「図書室がありますよ」とも「使っていいですよ」とも言われていないのにそんな評価をされても、と憤然としながら図書室に行ってみて、「なにこれ自由に読んでいいの?」とびっくりして。
図書室で借りた本でいちばん印象に残っているのは『コロッケ天使』でしょうか。ジョッキーを目指す男の子と、転校生の女の子の話だったと思います。熱々のご飯にコロッケをのっけてソースをかけて食べるというのがすごく美味しそうでした。私も食いしん坊だったのでよく憶えています。そういえば、その頃同時進行で父が持っていた『美味しんぼ』をよく読んでいました。
――国語の授業は好きでしたか。
阿部:国語はすごく好きで、教科書も舐めるように読んでいました。授業中も別のページを読んでいるので、当てられても分かっていないことがありました。
とにかくぼんやりした子供だったんですが、でもある時突然、先生に税金についての作文を書きなさいって選抜で命じられて、「なぜ?」と思いながら書いたらちょっと賞をもらったことがありました。でも、ちょっと理不尽な感じがするんですよね。私が書いたものに先生が赤を入れて書き直しさせられて、それで私の名前で賞をもらうっていうのもおかしな話だなって思っていました。
――ぼんやりしていた、と繰り返されていますが......。
阿部:本当にぼんやりしていたんです。「今日は学習発表会の練習があるから放課後は〇〇教室に行ってね」と言われて「はーい」って返事をしておきながら、ふらふらっと帰ろうとして「ちょっとなにやってるの」と言われたりする子供でした。
それと、土曜日の午前の授業が終わると走って帰って祖母と「遠山の金さん」を見ている子供でした。時代劇はよく見ていたんです。「遠山の金さん」「水戸黄門」「三匹が斬る!」「銭形平次」が時代劇四天王だと思っていました。ちなみに水戸黄門の二代目、西村晃が私の初恋の人で、「格好いい」と思いながら見ていました。
とにかくトレンドに追いつけていなかったですね。周りの女の子とあまり話を合わせられなくて、いつも静かに笑ってみんなの話を「うんうん」って聞いている感じでした。
――本や時代劇以外に、好きだったアニメやゲームなどはありましたか。
阿部:ジブリ作品は私の血であり骨である、みたいなところがあります。小さな頃から「風の谷のナウシカ」が大好きでした。親が「となりのトトロ」を見せようとしても「こっちがいい」と言って「ナウシカ」を見ていました。
うちではあまりゲームという文化がなくて、小学校5年生の時にはじめてゲームボーイを買ってもらったんですけれど、画期的すぎて我を忘れて1週間ずっとやっていたら視力がガタ落ちしたことがありました。
――空想力強めだったとのことですが、自分でお話を作って文章にしたことは?
阿部:それが、ないんです。小学校の時に自分でお話を作ってみましょうという授業があったんですけれど、私はその時何も浮かばなくて、教科書に載っていた話を、主人公の名前とストーリーの展開3か所くらいを変えただけのものを提出し、先生になにか言われるかなと思って1週間くらいドキドキしながら暮らしていました。だから、ぜんぜん、お話を作れるような子供じゃなかったんです。
――じゃあ、小説家になりたいとも思っていなかった...。
阿部:ぜんぜん思っていなかったです。