第251回: 永井紗耶子さん

作家の読書道 第251回: 永井紗耶子さん

『商う狼 江戸商人 杉本茂十郎』で新田次郎文学賞などを受賞、2022年は『女人入眼』が直木賞の候補作になるなど、時代・歴史小説で活躍する永井紗耶子さん。聞けば小学校低学年の頃にはもう歴史にハマっていたのだとか。研究熱心な永井さんは、どんな本を読んできたのか。こちらの知識欲を刺激しまくるお話、リモートでおうかがいしました。

その3「歴史に加え演劇にハマる」 (3/8)

  • 織田信長(1) 無門三略の巻(山岡荘八歴史文庫 10)
  • 『織田信長(1) 無門三略の巻(山岡荘八歴史文庫 10)』
    山岡 荘八
    講談社
    840円(税込)
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  • 伊達政宗 (1) 朝明けの巻 (山岡荘八歴史文庫 51)
  • 『伊達政宗 (1) 朝明けの巻 (山岡荘八歴史文庫 51)』
    山岡 荘八
    講談社
    770円(税込)
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  • 小説太平洋戦争(1) (山岡荘八歴史文庫)
  • 『小説太平洋戦争(1) (山岡荘八歴史文庫)』
    山岡 荘八
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    880円(税込)
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――中高生時代も時代小説は読んでいたのですか。

永井:相変わらず山岡荘八さんとかも読んでいたし、永井路子さんや田辺聖子さん、井上靖さんの戦国ものの短編などもめちゃめちゃ読んでいました。山岡荘八さんは『織田信長』とか『伊達政宗』とか『源頼朝』とか『小説太平洋戦争』とか。『坂本龍馬』も読んだかな。司馬遼太郎さんの『竜馬がゆく』も、もちろん読みました。
 そうそう、小学生の時に火の鳥伝記文庫で『織田信長』を読んだ後、山中恒さんが書いた小学生向けの『織田信長 血みどろの妖怪武将』を読んだんです。それは明智光秀側から書いてあるんですね。火の鳥伝記文庫の『織田信長』は信長を英雄として書いているんですけれど、こっちは本当にすごく残酷な人として書かれている。歴史上の人も、書き手と目線が違うとこんなに印象が違うんだって、衝撃だったんですよ。なので、1人の人物について知りたいと思った時には、その人について違う作家が書いた3、4冊の本を読むと決めています。
『むかし・あけぼの』という、田辺聖子さんが『枕草子』を小説化した作品も中学生の時に読んですごく好きでした。私はそれまでは、どちらかというと清少納言と紫式部だったら紫式部のほうが好きだったんです。でも『むかし・あけぼの』を読んで清少納言にドハマりして、清少納言について知りたくなって安西篤子さんの『悲愁中宮』を読んだりしました。これは清少納言が仕えた中宮定子の話なので。さらにその流れで永井路子さんが藤原道長を書いた『この世をば』など何冊かまとめて読むと、結構、立体的に見えてくるというか。その作業が楽しかったですね。なので、同じ時代が背景のものをまとめてどーんと読む、ということを繰り返していました。
 そうしていると今度は原典にあたりたくなるんですよね。学校が神保町の近くだったので、学校帰りに古本屋さんによって、読めるわけでもないのに『吾妻鏡』を探すと結構ボロボロのやつが安かったので買いました。それこそ『枕草子』も買いました。図書室で借りればいいものを、なぜか家に置いておきたい願望が強いんです。

――学校帰りに神保町に行けるっていいですよね。

永井:神保町が近くにあったことはすっごく幸せだったと思います。私は横浜から都内に通っていたので、あまり遊びまわるほどのエネルギーもなかったし、ファッションにも興味がなくて、お小遣いはほぼ書籍につっ込んでいました。試験が終わると友達と神保町に行って、紙袋いっぱいに何かしら買って帰る、みたいな。
 神保町では思いがけない本との出合いがあって楽しかったですね。浮世絵とか、誰かの直筆の文とか、不思議なものも売っている店もありましたし。

――古典や時代小説のほかには。

永井:漫画も好きでした。自分たちの世代での大ヒット作品ももちろん読んでいましたが、ちょっと前の世代のものとか。萩尾望都さんとか、森川久美さんの『南京路に花吹雪』とかもすごく好きでした。川原泉さんの『笑う大天使(ミカエル)』はミッションスクールに通っている人間からするともうたまらないツボでした。

――部活はやっていなかったのですか。

永井:最初、演劇部だったんです。でもその演劇部は宝塚が好きな方が多くて...。私はどちらかというと、下北系の演劇に興味があったんです。七つ年上のいとこの友達が下北沢で劇団をやっていて、親に付き合ってもらい下北沢の小劇場に行ったら、ものすごく面白かったんです。小劇場の演劇って、舞台装置が極限まで少ない状態で、話と芝居で引っ張っていくじゃないですか。それが面白かったと学校で友達に話したら、その子のお母さんもそういうのが好きで、「じゃあ野田秀樹さんの舞台を観にいこうよ」と誘ってくれて、野田さんの舞台を観たらもう、あまりの言葉遊びの巧みさに衝撃を受け、野田さんの書くものを読むようになりました。
 野田さんの「野獣降臨(のけものきたりて)」という舞台のビデオを借りてきて観たらあまりにも面白すぎて。シェイクスピアとか『古事記』とかアポロ計画とか、もういろんな要素が入っていたんですよ。これの元となっている話を読まなければと思って、『古事記』を読み、新潮文庫から出ていたシェイクスピアを全部そろえました。野田さんが『贋作・桜の森の満開の下』を書いていたのでそのまま坂口安吾の『桜の森の満開の下』を読んだりもしました。
 他には芝居が好きだから、泉鏡花も言葉がリズミカルでいいなと思いました。で、そのままの勢いで『謡曲百番』を読みだしたら独特の世界観が面白くて夢中になって。ハマれるものはすべてハマっていました。

  • むかし・あけぼの 上 小説 枕草子 (角川文庫)
  • 『むかし・あけぼの 上 小説 枕草子 (角川文庫)』
    田辺 聖子
    KADOKAWA
    880円(税込)
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  • 悲愁中宮 (集英社文庫)
  • 『悲愁中宮 (集英社文庫)』
    安西篤子
    集英社
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  • この世をば(上)
  • 『この世をば(上)』
    永井路子
    ゴマブックス株式会社
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  • 笑う大天使(ミカエル) 第1巻 (白泉社文庫)
  • 『笑う大天使(ミカエル) 第1巻 (白泉社文庫)』
    川原 泉
    白泉社
    649円(税込)
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  • 贋作 桜の森の満開の下/足跡姫: 時代錯誤冬幽霊
  • 『贋作 桜の森の満開の下/足跡姫: 時代錯誤冬幽霊』
    秀樹, 野田
    新潮社
    1,980円(税込)
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  • 桜の森の満開の下・白痴 他十二篇 (岩波文庫)
  • 『桜の森の満開の下・白痴 他十二篇 (岩波文庫)』
    坂口 安吾
    岩波書店
    1,001円(税込)
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