第251回: 永井紗耶子さん

作家の読書道 第251回: 永井紗耶子さん

『商う狼 江戸商人 杉本茂十郎』で新田次郎文学賞などを受賞、2022年は『女人入眼』が直木賞の候補作になるなど、時代・歴史小説で活躍する永井紗耶子さん。聞けば小学校低学年の頃にはもう歴史にハマっていたのだとか。研究熱心な永井さんは、どんな本を読んできたのか。こちらの知識欲を刺激しまくるお話、リモートでおうかがいしました。

その4「博士ちゃん並みの取材力」 (4/8)

  • 今昔物語集 (光文社古典新訳文庫 Aン 2-1)
  • 『今昔物語集 (光文社古典新訳文庫 Aン 2-1)』
    作者未詳,大岡玲
    光文社
    1,738円(税込)
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  • 三国志 (1) (吉川英治歴史時代文庫 33)
  • 『三国志 (1) (吉川英治歴史時代文庫 33)』
    吉川 英治
    講談社
    880円(税込)
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  • 銀河英雄伝説 1 黎明編 (創元SF文庫)
  • 『銀河英雄伝説 1 黎明編 (創元SF文庫)』
    田中 芳樹,星野 之宣
    東京創元社
    880円(税込)
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  • 王都炎上―アルスラーン戦記〈1〉 (光文社文庫)
  • 『王都炎上―アルスラーン戦記〈1〉 (光文社文庫)』
    田中 芳樹,山田 章博
    光文社
    544円(税込)
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――広く浅くではなく、広く深くという感じですね。

永井:凝り性なんでしょうね。で、今度はそういうものを自分が書きたいと思うようになりました。書くためには何が要るんだろう、どうしたら書けるんだろうと、ずっとぐるぐるしてましたね。今もしてるけど(笑)。
 中学3年生の後半くらいから鎌倉時代にハマっていたので、自分も鎌倉時代の小説を書こうと思ったんです。それで永井路子さんを読み、『吾妻鏡』を読み。そうして書いたものが、高校1年生の時に、学生向けのコンクールで入賞したんですよ。義経の話だったんですけれど。その時の資料をベースに書いたのが昨年出した『女人入眼(にょにんじゅげん)』でした(笑)。もちろんその後新しい研究も出てきているんですけれど、『吾妻鏡』の解釈本など基本的な古典の資料に関してはその当時の資料を使いましたね。

――どれだけ細かい資料を集めていたんだっていう...。

永井:親に東北に連れていってもらったりもしました。奥州平泉で、毛越寺に行ったり、江刺に行ったり、「衣川ってこの角度からはこう見えるんだ」とか言って一人でテンション上げながら写真を撮ったりして。牛車とか流鏑馬の写真も撮りました。
 装束も着て重さを確かめたいと言って、体験をさせてもらったりもしましたね。ちょっとした「博士ちゃん」みたいな感じでした。

――あはは。もしもその頃「博士ちゃん」みたいな番組があったら、永井さん、絶対出演していましたね(笑)。

永井:母がよくあの番組を見て「あなたもこんな感じだった」って言ってます。

――調べたこととは自分でみっちりノートにまとめたりして。

永井:そうです。年表を作ったりして。そうしたものや、当時の付箋を貼ったままの『吾妻鏡』や、新人物往来社の鎌倉関連の『歴史読本』などはずっととってあったんです。三谷幸喜さんが大河で鎌倉をやると聞いた時に「資料があったはず」と思って探してみたら出てきたんですね。それで、「資料があるんで書きたいんです」って出版社に電話して、『女人入眼』を書きました。

――当時、読書記録はつけていましたか。

永井:自分では全然つけていなかったです。でも学校でつけろと言われて提出したものがあって、その記録が、永井路子永井路子田辺聖子杉本苑子という感じで(笑)、それに加えて西行とか「密教のすべて」みたいな本があって。先生も感想を書きようがないようで、「またなにか調べているんだなと思いました」「テーマが決まっていていいですね」みたいな言葉が添えられて返ってきました。中学3年から高校1、2年まではそんな感じで、先生も「永井さんまたなんかやってるな」と思っていたみたいでした。
 それと、当時から昔話コレクションをしていて。旅行に行くたびにこういうものを集めています。

――いま見せてくださっているのは『京都の昔ばなし』という、山口青旭堂の和本ですね。

永井:旅行するたびに、この本のような、その地元に伝わるお話をまとめたものを集めています。
 大学に入ってから見つけたのが『ふるさとの伝説』という、ぎょうせいから出ているシリーズで、それとあわせて読むようになったら一層面白くなりました。
『十訓抄』とか『今昔物語集』といった説話も、ものすごく好きなんですね。説話を現代解釈したものも好きです。芥川龍之介の短編なども結構ありますよね。そういう民俗学的なものが好きで、鬼の話とか伝説とかも集め出しました。修学旅行でもそういうものを買っていたら、国語の先生が「私もそういうの好き。語りましょう」と言って、「こういう伝説があって」「いやあの解釈は」という話を楽しくしていました。

――修学旅行はどちらに行かれたのですか。

永井:中学の時は東北で、高校は京都奈良でした。もう楽しくてしょうがないっていう。

――小説は書いていたのですか。

永井:戦国ものを書いたりはしていましたが、中学3年生の時には中華ファンタジーを書きました。『三国志』を読んで中国史にハマっていた時期だったし、友達に薦められて田中芳樹さんの『銀河英雄伝説』や『アルスラーン戦記』を読んでファンタジーにもハマっていたので。田中芳樹さんの大河小説は歴史好きにとってはたまらないです。
 他には、公募ガイドなどで10枚くらいの童話の公募を見つけて応募して、ちょこっと載せてもらったりとかもしました。
それと、学園祭でお芝居をやることになり、「脚本やる?」「やるやる」となってコントみたいなシンデレラを書きました。下北小劇場好きの流れで、いかに笑いとるか必死に考えました。わざとアイドルの曲を使ってみたり、最後にシンデレラと王子が結婚するところは記者会見シーンみたいにしたりして。
 はじめて大人の新人賞に応募したのは高校2年生の時でした。講談社の時代小説大賞で、もちろん落ちたんですが、それで、大学に入ったら絶対にまた出すんだと思っていて。
 高校の時、そういうことばかりやりすぎて授業中ずっと寝てて、成績がガタ落ちしたんですよ。親に「そろそろいい加減にしなさい」と言われ、自分でもまずいなと思い、歴史の暗記をする間に、これはネタになる人、これはネタにならない人などとリストを作りながら、大学に入ったら書くぞと我慢しながら受験勉強をしていました。

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