第251回: 永井紗耶子さん

作家の読書道 第251回: 永井紗耶子さん

『商う狼 江戸商人 杉本茂十郎』で新田次郎文学賞などを受賞、2022年は『女人入眼』が直木賞の候補作になるなど、時代・歴史小説で活躍する永井紗耶子さん。聞けば小学校低学年の頃にはもう歴史にハマっていたのだとか。研究熱心な永井さんは、どんな本を読んできたのか。こちらの知識欲を刺激しまくるお話、リモートでおうかがいしました。

その7「ライター仕事と作家デビュー」 (7/8)

  • 月の影 影の海 (上) 十二国記 1 (新潮文庫)
  • 『月の影 影の海 (上) 十二国記 1 (新潮文庫)』
    小野 不由美,山田 章博
    新潮社
    572円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
  • 部屋住み遠山金四郎 絡繰り心中 (小学館文庫)
  • 『部屋住み遠山金四郎 絡繰り心中 (小学館文庫)』
    永井 紗耶子
    小学館
    680円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
  • 大奥づとめ: よろずおつとめ申し候 (新潮文庫 な 107-1)
  • 『大奥づとめ: よろずおつとめ申し候 (新潮文庫 な 107-1)』
    永井 紗耶子
    新潮社
    693円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto

――小説はまた書き始めたのですか。

永井:そうですね。民俗学とホラーとミステリをミックスした話を書きました。佛教大学の生協に、小野不由美さんの『十二国記』があって、スクーリングで京都に行っている間に、全巻一気に読破して、「こういうのを書いてみたい!」と、学びたての仏教文化を取り入れて......。一応、応募をしたところ、編集者さんからお声かけいただいたのですが、お仕事にまでは至らず。そうこうしているうちに、ライターの仕事がえらく軌道に乗ってきたんです。

――どんな媒体でどんな記事を書いていたのですか。

永井:「GQ」っていう、「VOGUE」の男性向け雑誌の立ち上げに先輩が関わっていたんです。政治やビジネスに関することを書く人がいなかったようで、これがめちゃくちゃ楽しかった。
 それと同時に、自分が体を壊したということもあって、健康雑誌の仕事もはじめたんです。ヨガの先生の連載の担当となり、先生と仏教系の話で盛り上がったりして(笑)。その連載は長らく担当させていただいたんですが、独特の感性の先生で、すごく面白かった。その雑誌には自分の趣味と実益を兼ねる企画をねじ込みました。「和の動きって興味ありません?」とか言って、日本舞踊の先生に取材に行ったり、殺陣師の人に「なにかエクササイズを考えてください」ってむちゃくちゃなことを言ったりして(笑)。ビジネス誌のほうでは老舗を取材させてもらっていて、そうすると「うちは400年、江戸時代から続いています」というお話をうかがって。その取材も面白かった。
 ライターの仕事では現代の面白さもいろいろ教えてもらいました。ものの見方が変わりました。ファッションは興味がなかったんですけれど、デザイナーさんやクリエイターさんに取材すると、「あ、これは哲学なんだ」「アートなんだ」と気づいたりして、そうすると服が面白くなる。ブランドも歴史や背景を知ると面白いし、美術でもコンテンポラリーアートの面白さを知ったりして。
 いただいた仕事はちゃんとやろうと決めていたので、本当に忙しかった。インプットとアウトプットが同時に進んでいく感覚でした。でも、楽しかったので。このまま、ずっとライターを続けていくのかな、と思ったりもしました。

――その後、状況の変化があったということでしょうか。

永井:リーマン・ショックです。ライターの仕事が激減したんですよ。なくなる媒体もあったし、WEBに移行するものもあった。原稿料ががくっと下がったり、外注ライターは使わずに社員でまかなうようになったりして。この調子でいくとさらに仕事が減るなと思った時に、「そもそも私は何がしたかったんだっけ」となりました。
 それで「やっぱり小説を書こう」となって、書いて、応募して。時代ものの賞があまりなかったので、ノンジャンルで募集していたていた小学館文庫小説賞に送りました。営業するみたいな気持ちでもし最終選考まで残って、編集さんの名刺とかがいただけたら、持ち込みでもなんでもしようと思っていたんです。おかげさまで受賞し、デビューさせていただくことができました。それで、とりあえずライターとの両輪でやっていくことになりました。

――あ、じゃあ受賞作の『部屋住み遠山金四郎 絡繰り心中』がはじめて小学館文庫小説賞に応募した作品だったのですね。平安や鎌倉、戦国が好きな永井さんですが、これは江戸もので、しかも、主人公は遠山の金さんですよね。

永井:そうですね。それまでずっと鎌倉とか戦国とか書いていたんですよね。ただ、資料で、遠山金四郎が若い頃に歌舞伎の笛方をやっていたというのを見たことがあって、いつかネタにしようとぼんやり思っていたんです。で、みんなが知ってる江戸の人を考えた時に、遠山の金さんかなって。ものすごラフに決めました。あとから小学館の人に、「この人はものすごく江戸時代に詳しい自信家か、ものすごく詳しくないかのどっちかだと思った」と言われて(笑)。
 そこからは必死で、江戸時代について勉強して、今日に至ります。少しは詳しくなったかな?と...。

――デビュー後、しばらくライター業と兼業だったわけですか。

永井:6作目の『大奥づとめ』が出る頃まで兼業でした。その次の『商う狼 江戸商人 杉本茂十郎』が、お声がけいただいてから出すまでにだいぶ時間がかかったのは、私が「すみません今月はムックで12人分のインタビューを1カ月でまとめなきゃいけないんで1か月は小説の仕事ができません」とか言っていたからです。「永井さん、いつまでライターを続けるんですか」と言われてはじめて、「あ、私どっちが重要なんだっけ」と気づいたという。
 でも、ライターの仕事も楽しかったんですよね。クリエイターさんとお話するのはすごく好きでした。私が江戸が好きだからといって歌舞伎など伝統芸能系のお仕事を振っていただいたりもしたし。
 一回、「ロシアからテトリスの開発者が来るんですがインタビューしませんか」って言われて「します!」って言ったり、「クドカンのインタビューしませんか」「やります!」とか、時々、すごく面白いネタが降って来る。雑誌の取材であり、小説のネタ集めにもなり...なかなかやめられませんでした(笑)

» その8「自作について」へ