作家の読書道 第255回: こざわたまこさん

2012年に「ハロー、厄災」(単行本収録時に「僕の災い」に改題)で第11回女による女のためのR-18文学賞の読者賞を受賞、2015年に同作を収録した『負け逃げ』で単行本デビューを果たしたこざわさん。最近では新作『教室のゴルディロックスゾーン』が話題に。大家族で育ち、姉や兄の影響も受けたこざわさんの読書遍歴は。社会人2年目で小説家を志したきっかけや、観劇が趣味というだけに演劇関連のお話など、たっぷりうかがいました。

その1「大切な児童書」 (1/8)

  • はじめてのおつかい(こどものとも傑作集)
  • 『はじめてのおつかい(こどものとも傑作集)』
    筒井 頼子,林 明子
    福音館書店
    990円(税込)
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  • せんたくかあちゃん (こどものとも傑作集)
  • 『せんたくかあちゃん (こどものとも傑作集)』
    さとう わきこ,さとう わきこ
    福音館書店
    990円(税込)
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  • あさりちゃん (1) (てんとう虫コミックス)
  • 『あさりちゃん (1) (てんとう虫コミックス)』
    室山 まゆみ
    小学館
    417円(税込)
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  • 金田一少年の事件簿File(1) (講談社漫画文庫)
  • 『金田一少年の事件簿File(1) (講談社漫画文庫)』
    さとう ふみや,天樹 征丸,金成 陽三郎
    講談社
    660円(税込)
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――いちばん古い読書の記憶を教えてください。

こざわ:実家に福音館書店さんの絵本が何冊かあったのを憶えています。『はじめてのおつかい』とか『せんたくかあちゃん』とか。それを母が読み聞かせしてくれたみたいなんですけれど、その記憶はなくて。
小学校に上がるくらいの頃、自分で本が読めるようになってから、家にある絵本を読み返したというのが一番古い読書の記憶です。

――本が好きな子どもでしたか。

こざわ:そうだと思います。本を与えておくとおとなしくしていてくれるからと、誕生日には本をもらったり、図書カードをもらったりする機会が多かったように思います。
小学校の低学年の頃は買い与えられた本を読んでいた気がしますね。藤真知子さんの「まじょ子」シリーズやまだらめ三保さんの「おひめさま」シリーズとか。元気な女の子がお菓子の国に行って冒険するといった物語も楽しみましたが、絵が可愛らしくて書き込みも細かくて、それを眺めて想像を膨らますのが好きでした。

――その後、小学生時代はどのような本を読みましたか。

こざわ:世界名作シリーズなども読んでいたんですが、中学年くらいの頃に読んだ井上よう子さんの『夢猫うらない あめのちはれ』がすごく面白くて。
内気で真面目なあかねちゃんという女の子のクラスに大ちゃんという男の子が転校してくるんですけれど、その子はあかねちゃんと正反対で、何でも適当なんです。いつも遅刻ギリギリに入ってくるし、忘れ物するし。あかねちゃんは最初、大ちゃんに対して「それってどうなの?」と思うんですけど、大ちゃんの忘れ物を家に届けに行った時に会った大ちゃんのご両親が、あかねちゃんの考えるお父さんお母さんはこういうものだという規範とはちょっと違うんですね。お父さんは髪が長くて、民族衣装のスカートをはいていて、昼間から家にいる。お母さんはすごく若くて、聞いてみると、大ちゃんの生みのお母さんは亡くなっていて、今のお母さんののりちゃんは、お父さんの仕事のパートナーで再婚した相手だという。
すごく憶えているのは、あかねちゃんが大ちゃんに、本当のお母さんじゃないから大ちゃんは「朝起こしてね」とか「雑巾縫ってね」とか頼みづらかったんだね、みたいなことを言うんですよ。そしたら大ちゃんが「関係ねえよ。うちののりちゃん、家事が大きらいで、そのうえ忘れっぽいんだ。でも、絵はうまいしファミコンもうまいし、楽しいんだぜ」って言う。
そのやりとりを通じて、自分が普通の家族だって思ってたものとか、自分が当たり前だと思ってたものって、本当に普通なのかなっていうことに気づいたんです。自分の杓子定規的な考え方や価値観って、絶対じゃないんだろうなと思わせてくれたお話でした。

――小学生の頃にそういう話を読むってすごくいいですね。

こざわ:世界名作シリーズなどはあまり感情移入せずに物語を楽しんでいたんですけれど、その物語は「あかねちゃんは自分だ」と思って読んだんですね。それが、読書体験としてすごく大きくて、自分にとって大事な本になっています。

――児童書以外に漫画なども読みましたか。

こざわ:小さい頃は『あさりちゃん』とか『金田一少年の事件簿』を読んでいました。『金田一少年~』はちょっとするとドラマも始まったので、自分だけでなく周りの子たちも読んだり見たりしていた記憶があります。

――ごきょうだいはいらっしゃいますか。何か読書に影響があったかなと思って。

こざわ:うちは田舎の8人家族だったんですが、兄も姉もひとまわり以上離れていて、私が小学校に上がった頃にはもう家を出ていました。
兼業農家で家に人の出入りも多かったですね。小さい頃はそうでもなかったんですけれど、思春期に入ってくると自分の家に常に人の気配があるのがちょっと嫌になってくる。本を読んでいる時間が一人になれる時間というか、まわりがシャットアウトされる感じがして心地よかった気がします。それで、姉や兄の部屋に勝手に入って、本棚から本を借りていました。小学校中学年くらいの頃は姉の部屋のほうによく入っていました。

――8人家族ですか。

こざわ:祖父母、祖父の弟の大叔父、両親、姉と兄と私です。大叔父が聴覚障害を持っていたんですね。赤ん坊の頃にお風呂に落ちて、そのまま障害が残ってしまったらしいです。家族全員、手話は習っていなくて、ボディランゲージと筆談でコミュニケーションをとっていました。
それも自分の中では結構大きくて。大叔父さん、私は「おんちゃん」と呼んでいたんですけれど、おんちゃんがめっちゃ明るい性格だったんですよ。うちの家系の男性は極端に無口か、ちゃらんぽらんかどっちかしかいなくて(笑)、おんちゃんはもともとの気質としてすごくちゃらんぽらんな人でした。いつも明るくて、お酒飲んでけらけら笑ってて、私のこともすごく可愛がってくれて。若い頃に事故かなにかで、指を二本くらい落としていたんですけれど、すごく手先が器用で地元の伝統工芸品の担い手をやっていて、私にも竹とんぼを作ってくれたり、工作を教えてくれたりしました。なので、24時間テレビやドラマの中で語られる障害を持っている人たちの像みたいなものとは何か違うなと感じていました。それと、耳が聞こえない人と一緒に暮らしているというと、「手話できるんでしょ」みたいに言われるんですけれど、そういう人や家族全員が使えるわけじゃないんだよ、と思ったりして。

――ご出身は福島ですよね。

こざわ:福島です。本当に田舎です。山奥まではいかないけれど山の麓で、いわゆる五人組とかがあるような田舎です。駅まで歩くと1時間以上かかるような場所でした。

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