第255回: こざわたまこさん

作家の読書道 第255回: こざわたまこさん

2012年に「ハロー、厄災」(単行本収録時に「僕の災い」に改題)で第11回女による女のためのR-18文学賞の読者賞を受賞、2015年に同作を収録した『負け逃げ』で単行本デビューを果たしたこざわさん。最近では新作『教室のゴルディロックスゾーン』が話題に。大家族で育ち、姉や兄の影響も受けたこざわさんの読書遍歴は。社会人2年目で小説家を志したきっかけや、観劇が趣味というだけに演劇関連のお話など、たっぷりうかがいました。

その4「大学生時代の観劇、創作、読書」 (4/8)

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――高校卒業後についてはどうしようと思われていたのですか。

こざわ:田舎を出たいと思っていました。東京で就職したいというのが最終目標としてあり、東京の大学を出れば東京で就職できるかなと考え、文学部の文芸創作のゼミがある東京の大学に進学しました。文芸創作を選んだのは小説家を目指すためではなく、最後のモラトリアムなんだから好きなことをやろうという感覚でした。好きなことをやってから就職しよう、と。

――東京生活はいかがでしたか。

こざわ:私の大学が小田急線沿にあったので、下北沢が近かったんですね。下北といえば演劇の町じゃないですか。高校演劇とはまた違う小劇場の世界があると知り、大学時代はそれにがっつりのめりこんでいきました。大学に入った後も演劇を続けるつもりはなかったんですけれど、迷った末に演劇サークルに入ることにして、観劇が趣味になりました。

――この人あるいはこの劇団の芝居が面白かった。というのはありますか。

こざわ:大学に入ってすぐの頃に追いかけたのは本谷有希子さん。これも兄の部屋で見つけたんですけれど、「COMIC CUE」っていう漫画雑誌があって。最初の頃は江口寿史さんが責任編集されてて、毎月決まった漫画が連載されるのではなく、出される号ごとにテーマが変わって、個性派の漫画家さんたちが号ごとに集まって描くような漫画雑誌でした。その雑誌の、漫画の間にあるちょっとした読み物のコーナーに本谷さんが出てらっしゃったんですよ。栗山千明さんと対談されていました。本谷さんは「売れない劇団をやっているフリーターです」みたいな感じで出てたんですけれど、東京に出てきた時に本谷さんの活躍を知って、「売れてなくない!」と思って(笑)。『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』の舞台を発表された後の時期だったと思います。乙一さん原案で本谷さんが舞台化した『密室彼女』も観に行き、追いかけていました。

――演劇サークルに入ったとのことですが、演じたり書いたりされていたのですか。

こざわ:大学の演劇サークルでは役者のほうがメインでした。サークルだと比較的人数が多くて自由が利いたので、普通の戯曲として出版されているものをやったりしました。高橋いさをさんとか永井愛さんとか。

――文芸創作の授業では小説を書いていたのですか。

こざわ:1年の時に創作の授業をとったのですが、そこは半年に1回、原稿用紙10枚から20枚くらいのものを一人一作発表する形式でした。初めて小説を小説として最後まで書けたのは、その時だったかもしれません。もっと書きたいなと思い、2年生に上がる時にそのまま、もともと志望していた創作ゼミに入りました。

――その頃はどんなものを書いていたのですか。

こざわ:重松清さんや村山由佳さんの小説が好きで読んでいたので、お二人からの影響が強いものを書いていた気がします。お二人は田舎の家族とかも書かれているのが自分の中で大きくて、それで読んでいたんですよね。
村山由佳さんの作品で私が一番読み返したのは『BAD KIDS』です。二作目の『海を抱く』の主人公が花農家の娘なんですよ。農家の娘が主人公の本を読んだのははじめてでした。重松さんも、主人公がサラリーマンであっても、その人の実家は田舎で、核家族ではない家庭で育った人を書かれたりするので、その影響を受けていたように思います。重松さんの作品で好きなのは『トワイライト』と、あと田舎とは関係のない話ですがやっぱり『エイジ』も好きでした。

――そうして書いた小説を発表して、講評しあうのでしょうか。辛辣なことを言う学生さんとかいそう...。

こざわ:もちろんいました。私も言っていたと思います(笑)。そのゼミでは小説家志望の人もいたと思うんですけれど、私は演劇の人と思われていた節があり、自分でもそう思っていました。なのであまり合宿とかにも行かなかったんですよね。だからデビューした時にゼミの小林恭二先生に報告したら「あなたは演劇の人だと思っていたからびっくりしました」と言われました。

――え、小林恭二先生って、『ゼウスガーデン衰亡史』とか『日本国の逆襲』とかのあの小林恭二さんですか。

こざわ:そうですそうです、『電話男』とかの小林先生です。小林先生はゼミでもあまりぐいぐい書き方を細かく教えるタイプではなく、「とにかく最後まで書きなさい」とおっしゃっていましたね。「ぐちゃぐちゃでもいいからとにかく最後まで完成させることをまず目標にしなさい」って。それは本当に、今でも大事なことだなって思っています。

――小林さんは俳句とかもやってらっしゃいますよね。

こざわ:そうです。俳句の授業にも出ていました。小林先生には今でも本が出た時はお送りして、近況を報告するようにしています。その時に一度「先輩として来たらどう?」とおっしゃってくださって、ゼミにもお邪魔しました。

――大学生時代には他にどのような本を読まれたのですか。

こざわ:ゼミやサークルでまわりに小説好きの人たちがいたので、今まで読んできたものとは違う小説をたくさん教えてもらって、世界が広がった感じがありました。
その頃たぶん、豊島ミホさんの『青空チェリー』を知って追いかけはじめたんです。

――『青空チェリー』の表題作は、のちにご自身が応募する「女による女のためのR‐18文学賞」の読者賞受賞作ですよね。

こざわ:そうです。それ以降、R‐18賞を獲った作家さんも読むようになって、その流れで窪美澄さんとかも知ったんですよね。
あとはちょっと背伸びして吉村萬治さんの『ハリガネムシ』とか『クチュクチュバーン』、花村萬月さんの『ゲルマニウムの夜』や、車谷長吉さんの『赤目四十八瀧心中未遂』を読んだり。メフィスト賞から出てきた舞城王太郎さんや佐藤友哉さんにも夢中でした。

――幅広いですね。

こざわ:大学生になって自由になる時間が増えたこともあって、いろいろ読む時間があったんです。お恥ずかしいことに、そこではじめて宮部みゆきさんと東野圭吾さんを読みました。それで、なんて面白いんだろうと思って。
東野さんの『白夜行』とか宮部さんの『火車』とか『模倣犯』とかを読み、ページをめくる面白さというものを知りました。それまで長篇は「最後まで読めなかったらどうしよう」という気持ちがあって、連作短編のほうが好きだったんです。でも、もう長篇もぜんぜん怖がることはないじゃんと思い、おふたりの作品を読み進め、その流れで奥田英朗さんの『最悪』とか『邪魔』を読み、町田康さんの『告白』を読んでものすごく衝撃を受けました。河内十人斬りを題材にした小説ですが、私はこれをタイトル回収本だと思っているんですね。こんな美しいタイトル回収の仕方があるんだろうかと思ったんです。これもすごく長いのに、一気に読めました。
それと、スティーヴン・キングも読みました。『アトランティスのこころ』や『不眠症』も好きですが、一番好きなのは『IT』です。

――それこそ大長篇ではないですか。しかもめっちゃ怖い。

こざわ:私、デビュー作で自転車に乗っている男の子を書いたんですけれど、自分の中では、そのイメージがすごく『IT』のラストで主人公が自転車を漕ぐシーンとかぶっているんです。もうだいぶ年を重ねた主人公が、老いた体で妻を自転車の後ろに乗せて、少年時代の心を取り戻すために漕いでいくシーンがあって、そこは何回も読み返しました。
自分も、ああいうものが思い浮かぶ期待を持って書いた記憶があります。

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