第255回: こざわたまこさん

作家の読書道 第255回: こざわたまこさん

2012年に「ハロー、厄災」(単行本収録時に「僕の災い」に改題)で第11回女による女のためのR-18文学賞の読者賞を受賞、2015年に同作を収録した『負け逃げ』で単行本デビューを果たしたこざわさん。最近では新作『教室のゴルディロックスゾーン』が話題に。大家族で育ち、姉や兄の影響も受けたこざわさんの読書遍歴は。社会人2年目で小説家を志したきっかけや、観劇が趣味というだけに演劇関連のお話など、たっぷりうかがいました。

その3「高校は演劇部」 (3/8)

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――高校は地元の学校に進学されたのですか。

こざわ:そうです。学校がそんなに多い地域ではないので、大学進学を考えている人が行くならこの高校だよね、という学校に入りました。
高校では演劇部に入ったんです。なので読書より演劇にのめり込んでいました。中学校時代の先輩が入っていて、「人手もいないし入ってみない?」という誘いを受けたのがきっかけです。実際、部員は多くても10人くらいで回しているような演劇部でした。性格的に人前に出るのが好きじゃないので、「大道具とかだったらいい」と言って入ったんですが、"人数の少ない演劇部あるある"で、人手が足りないので出るほうもやりました。
でも、役者もやってみたら意外と楽しかったです。練習しておけば、人前に出ても固まらずにできるんだというのが分かったので。

――脚本は既存のものが多かったのですか、それともオリジナルを作ったのですか。

こざわ:少ない人数でできるものだと限られてくるので、オリジナルが多かったですね。
私もちょっと書いたりはしました。

――どんな内容の脚本を書かれたのですか。

こざわ:父と息子の話です。ちょっとやさぐれている高校生の男の子が主人公で、そのやさぐれた理由が、幼い頃に尊敬する父親が家を出ていってしまったことにあるんですね。その父親と再会するところから始まるんです。尊敬していたはずの父親がすごく落ちぶれていて、その父とのやりとりの中で主人公が変わっていく、みたいな話なんですけれど、実は、その落ちぶれた父親だと思っていた人物は未来の自分だったとわかるという。

――うわ、刺さるオチですね。

こざわ:乙一さんをすごく読んでいたので、そういうのがやりたかったんですよね(笑)。
既存の脚本では、キャラメルボックスさんの演目で、いわゆる普通の2時間の演劇だけではなくて、高校生でもできる1時間の劇もあったんです。そのなかで比較的人数が少ないものをやったりしました。

――キャラメルボックスの舞台を観る機会はあったのですか。

こざわ:田舎だからやはり、生では観られなくて。でもその頃、「キャラメルボックスTV」という、キャラメルボックスの舞台を放送する番組があったんですよ。それを先輩なり同級生なりが録画してビデオを回してくれました。それではじめて「演劇ってこういう感じなんだ」と知り、そこからBSなどで放送している他の演劇も観るようになりました。三谷幸喜さんの「笑の大学」とか「12人の優しい日本人」とか。三谷幸喜さんは兄が教えてくれたのかな。私が演劇部に入ったと知った兄がいろいろ教えてくれたんです。イッセー尾形さんの一人芝居の映像をビデオに落としたものを貸してくれたりして。あと部内では、後藤ひろひとさんという、『パコと魔法の絵本』っていう映画の原作を書かれた方の演劇が流行っていました。『ダブリンの鐘つきカビ人間』とか。小説でも漫画でも映画でもない、自分にとって新しいものに触れられるのがすごく楽しかったですね。

――高校時代は完全に読書からは遠ざかっていたのですか。

こざわ:いえ、また兄の部屋を探索していくようになるんです(笑)。今度は青年誌にがっつりはまりました。「アフタヌーン」とか「ビッグコミックス」とか。その中で、土田世紀さんの『編集王』という漫画家漫画が編集者側からの視点で描かれていて、新人作家がものすごく辛い思いをしていて。希望を見出していく話ではあるんですけれど、それでも、ものすごくえぐくて。これはちょっと漫画家になるのは無理だなと思いました(笑)。

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