第255回: こざわたまこさん

作家の読書道 第255回: こざわたまこさん

2012年に「ハロー、厄災」(単行本収録時に「僕の災い」に改題)で第11回女による女のためのR-18文学賞の読者賞を受賞、2015年に同作を収録した『負け逃げ』で単行本デビューを果たしたこざわさん。最近では新作『教室のゴルディロックスゾーン』が話題に。大家族で育ち、姉や兄の影響も受けたこざわさんの読書遍歴は。社会人2年目で小説家を志したきっかけや、観劇が趣味というだけに演劇関連のお話など、たっぷりうかがいました。

その2「姉と兄の本棚から」 (2/8)

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――お姉さんの本棚からは、どんな本を読んでいたのですか。

こざわ:ティーンズハートの折原みとさんの作品と、さくらももこさんのエッセイとの出会いは大きかったですね。折原みとさんは最初に読んだのが『時の輝き』だったと思います。主人公は看護師の卵で、久しぶりに再会した初恋の男の子が骨肉腫になっていて...という話なんですが、小説を読んで初めて号泣して。姉が持っていた折原さん作品を全部読んだ後は、親にねだって買ってもらっていました。
さくらももこさんはユーモアのある文章が好きで、読書感想文を真似した文章で書いてみたりしました。思い浮かんだ物語の冒頭シーンやクライマックスシーンをティーンズハート文庫を真似て1行アキにして、女の子の喋り口調で書いてみたりもしていました。

――学校の国語の授業は好きでしたか。

こざわ:わりと好きでしたね。読書感想文も好きだったんですが、私は自信過剰で、絶対に賞を獲れると思っていたのに、ひとつも獲れず「あれー?」って(笑)。さくらももこさんが漫画やエッセイの中で、ちょっと面白おかしい文章を書いたら先生に「現代の清少納言だ」と言われた、みたいなエピソードを書かれていたんですよ。小学4年生か5年生の時にそれを読んで憧れて、私もそうなれるかもしれないと思っちゃったんですよね。でもまったくそんなことはありませんでした(笑)。

――その時、将来作家になりたい気持ちはあったのでしょうか。

こざわ:職業としてはあまり考えていなくて、「自分にもなにか才能があれば」みたいな憧れがありました。でも小学校高学年の頃にぼんやりと「小説家という職業もあるのか」と認識しだして、文集の将来の夢には「作家」と書いた気がします。でも、「絶対なるぞ」という感じではなかったです。

――その時認識した小説家というのは、ティーンズハート系の小説家だったんですかね。

こざわ:です(笑)。あの頃は、自分にとっての小説というと、児童文学かティーンズハートという感じでした。

――田舎とのことでしたが、近所に書店はありましたか。

こざわ:私が住んでいた町は合併して南相馬市になったんですけれど、隣接する町の中では比較的人口が多い町でした。子どもの頃は個人経営の書店さんも全国チェーンのお店もいくつかありました。なので、親が買いものに行く時についていって書店をのぞくという感じでした。

――さて、中学生時代は。

こざわ:電撃文庫にどっぷりとハマりました。中学生になると、クラスのちょっとオタクっぽい子とかは、少女漫画や少女小説というより、「ジャンプ」や電撃文庫を読み始めたんですよ。なので私も、友人に薦められて『ブギーポップは笑わない』とか『キノの旅』のシリーズを読んでいました。それと、乙一さんが流行りだしたのも憶えています。『夏と花火と私の死体』とか『平面いぬ。』とか。『バトル・ロワイアル』も流行っていました。
「ジャンプ」は『HUNTER×HUNTER』や『ONE PIECE』が人気で、ちょっと早い子は同人誌の二次創作の文化にも触れていましたね。友人がスクリーントーンとかを学校に持ってきていたのを憶えています。私はなぜかそこにはあまりハマらなかったんですけれど。
いくつかグループがあったんですよね。二次創作とかやる子たちは「ジャンプ」を読み、文芸っぽいものが好きな子たちは白泉社の「花とゆめ」や「LaLa」を読み、そこまでオタク趣味がなくてファッションに興味がある子たちは安野モヨコさんや矢沢あいさんを読み。私はどのグループにも一人ずつくらい友達がいたので、全部を読めたのがすごく良かったです。

――ご自身では創作はしていなかったのですか。

こざわ:ルーズリーフやノートに自分の書きたいシーンを書いたりはしていました。私、美術部だったんですれど、活動があってないような美術部で、みんな自分の持っている漫画を持ち寄って回し読みするのがメインの活動みたいな感じだったんですね。そうしたなかで、物語の切れ端みたいなものを書くことはありました。

――美術部を選んだのは、絵画というより漫画を描こうと思って?

こざわ:そうです。その頃、だんだん読めない本が出てきたんですよね。自分は読書好きだと思っていたのに、『人間失格』と『ゲド戦記』を最後まで読み終えることができずに図書館に返したのが挫折の記憶になっています。小説家は大量の本を読んでいる人がなるものだと思っていたし、太宰治や『ゲド戦記』はクリエイターの人たちが大切にしている作品というイメージがあるのに、それが読めなかったってことは小説家になるのは無理だろうなと思いました。
『人間失格』はたぶん、主人公に感情移入できなかったんです。なにをこんなに苦しんでいるのか分からなかった。自分も自意識過剰な年頃だったので同族嫌悪だったのかもしれません。後にまた読むようになるんですけれど。『ゲド戦記』は第一巻を読んでいる途中で、「これが何巻も続くのか...」と思って挫けました。
それで、漫画なら兄の影響で周りの子が読んでいないものも読んでいるし、量も読んでいるからそっちに重心を置こう、という気持ちが強くなりました。

――お兄さんの影響とは。

こざわ:中学に上がると姉の部屋だけでは満足できなくなって、兄の部屋に入るようになるんですね。兄が結構多趣味な人で、今でいうサブカルチャーとかが好きな人だったんですよ。兄の本棚にあった黄金期の「ジャンプ」とか「ガロ」系の漫画とか、エログロ系の漫画を読み始め、みんなと回し読みする本として学校に持っていっていました。

――具体的にはどのあたりの作品ですか。

こざわ:ジャンプ系の漫画は、『ドラゴンボール』、『幽☆遊☆白書』、『SLAM DUNK』。あと、ジャンプ系ではないんですが、あだち充作品がほとんどあったのも大きかったですね。『タッチ』とか『H2』とか。なんかもう、私が知っている漫画と全然違う!となりました。
ガロ系だと山田花子さん、エログロ系だと駕籠真太郎さんとか丸尾末広さんとか。あとはしりあがり寿さんとか、シュールなギャグ漫画っぽいものも読んでいました。
それと、兄は小説も少し読む人だったんです。なので、その頃兄の本棚にあった村上春樹さんなども読みました。ただ、私が中学生の時に読んで、ライトノベルとは別にはまったのは村上龍さんでした。

――村上龍さんのどの作品あたりでしょうか。

こざわ:初期の頃の、風俗嬢とかSMを題材にしたものに興味を持っていかれた時期がありました。『トパーズ』という短篇集の中に「ペンライト」という作品があって。主人公は風俗嬢で、自分の中にいるもうひとりの自分に語りかけているような文体なんです。話が進むにつれて自分と他者の境界が曖昧になっていって、自分か他人かもわからないひとりの女の身体が客の男に損壊されていく様子を、もうひとりの自分が見ている、みたいな話で。その頃たしか『バトル・ロワイアル』がニュースとかで取り上げられてて、倫理的にこれを子どもに読ませるのはどうなのかと言われていたんです。私は『バトル・ロワイアル』よりももっとインモラルなものがあるぞと思い、夢中で読んだ気がします。怖いもの見たさとか、性的なものへの興味もあったと思います。

――春樹さんはいかがでしたか。

こざわ:中高と、まわりの友人が結構読んでいて、私もいわゆる初期の『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』の三部作や『ノルウェイの森』は読みました。でもみんながそっちを読んでる分、「私は村上龍派なので」みたいな気持ちがあって。
それに、当時の自分は春樹さんの比喩とか隠喩とかをそこまで理解しきれてなかったような気がします。

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