第255回: こざわたまこさん

作家の読書道 第255回: こざわたまこさん

2012年に「ハロー、厄災」(単行本収録時に「僕の災い」に改題)で第11回女による女のためのR-18文学賞の読者賞を受賞、2015年に同作を収録した『負け逃げ』で単行本デビューを果たしたこざわさん。最近では新作『教室のゴルディロックスゾーン』が話題に。大家族で育ち、姉や兄の影響も受けたこざわさんの読書遍歴は。社会人2年目で小説家を志したきっかけや、観劇が趣味というだけに演劇関連のお話など、たっぷりうかがいました。

その8「新作と今後」 (8/8)

  • 教室のゴルディロックスゾーン
  • 『教室のゴルディロックスゾーン』
    こざわ たまこ
    小学館
    1,870円(税込)
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  • 負け逃げ(新潮文庫)
  • 『負け逃げ(新潮文庫)』
    こざわたまこ
    新潮社
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――毎日、何時から何時まで書くといったタイムテーブルはありますか。

こざわ:何だかんだで私は夜型で、執筆する日は9時ぐらいに起きてちょっと家事をして、お仕事を始めるけれどうまくいかなくて、お昼の時間になり、ご飯を食べた後も乗らないなと思いながらパソコンとスマホを見比べて「うんうん」唸って、ようやくエンジンがかかるのが午後3時とかです。そこから7時か8時の夕食まで頑張ります。でも結局、すごく集中して書けるのは夜10時11時以降なんですよね。こんなんじゃ駄目だなって思ってます。毎日決まった時間に決まった分量書けるようになりたいです。

――本を読むのはどんな時が多いですか。

こざわ:寝る前が多いんです。あとは、「本を読む日」と決めて読みますね。1日の間にアウトプットとインプットの切り替えがうまくできないので。なので読む日は朝から夕方とかまで読む。なるべく1日か2日で1冊読み切りたいという気持ちもあります。自分の性格的に、読み終えないと次の本に行けないんですよね。1回途中で止まるとその本をずっと抱えてしまうので、短時間で読み切りたいんです。

――2018年以降、新刊の『教室のゴルディロックスゾーン』まで刊行がなかったですが、その間、いったい何を...?

こざわ:長篇のご依頼をいただいて書き始めたら全然うまくいかず、それは今も続いてるんですが、すごく苦戦しているうちにだんだん短篇も書けなくなって、もう自分に何が書けて何が書けないのか、何を書きたいのか分からなくなっていたんです...。どんどんスランプにはまっていくなかで、小学館の方から依頼をいただいて取り組んだのが『教室のゴルディロックスゾーン』でした。

――中学生の少女たちの、教室内での距離感が繊細に描かれる連作集ですよね。

こざわ:絶賛スランプ中の自分に何が書けるんだろうと考えた時に、たぶん、10代の女の子たちなら書けると思って。10代の高校生の男女はもう『負け逃げ』で書いたので、まだ書いたことのない中学生でどうですか、ということになりました。
あと、『負け逃げ』を書いた時に、自分ではそういうふうには思っていないんですけれど、「閉塞感がピカイチ」と言っていただけることが多くて(笑)。自分に書けるものを探っていた時にそれを思い出して、私は閉じた関係性を書くのが得意かもしれないな、と。それを書くには学校って最適な舞台だなとも思いました。

――中学生の依子は仲良しだったさきちゃんとクラスが離れ離れになり、教室に馴染めず空想の世界に逃げている。誰にでも分け隔てなく接する伊藤さんと学校外で偶然親しくなりますが、教室内の伊藤さんは一番目立つグループに所属していて近づけない。依子やさきちゃん、伊藤さんらの心情や関係の変化が丁寧に綴られる連作集です。

こざわ:最初に考えたのは主人公の依子でした。今までなかなか主人公になることはなかった、引っ込み思案で内向きで、空想好きな女の子を据えてみようと思いました。
そこから依子とさきちゃんの関係性を起点に物語を考えていきました。はじめて人間関係が疎遠になる瞬間ができるのがクラス替えだと思うし、それは10代にはすごく大きなことですよね。なので2人が離れて、そこからどうなるのかを描きたかったです。
それと、クラス内でまったく別の立ち位置にいる女の子たちが、相手に何を見て仲良くなるのかも考えました。ただ、仲良くなるにしても、親友になるというのとは違う形で書きたいな...などと思ううちに、人間関係が広がっていった感じです。

――友達同士にも微妙な距離があっていい、四六時中くっつかなくても、均衡をとりながらでいいんだと思わせてくれるところがよかったです。

こざわ:そうですね。たまにぐらついたりしながら、その均衡がとれている状態を保っていくのが人間関係だと思うんですよね。ぴったりくっついた状態でずっと一緒にいて、いきなり「はいさようなら」とかでもなくって。だから、ゴルディロックスという語句の意味である、「ちょうどいい」という距離を探っていく話にしたいなと、語句の意味を知った時に思いつきました。

――この先は、ずっと取り組んでいる長篇にまた戻るのですか。

こざわ:その前に、もうひとつ、カドブンで連載させていただいたものがあるんです。書き終えた後に、これでは駄目だと思って全面改稿することにしてプロットも立て直しました。俳優を志している女の子が主人公の物語です。今回こそちゃんと長篇が書ける気がしています。

――スランプは抜け出せそうですね。

こざわ:これからは1対1の関係をたくさん書いてみようと思っています。スランプになる前は、それがすごく嫌だったんですよ。なんで自分は「僕と君」や「私とあなた」みたいな、1対1の関係しか書けないんだろうって思っていました。その外に社会だとか世界とかがあるのに、なぜ自分はそれが全然書けなくて、いつも個人と個人の関係に集約されてしまうんだろう、って。
作家の奥田亜希子さんとお会いしたときにその悩みを打ち明けたら、「でも僕と君の関係をたくさん書いていけば、それが繋がって社会になるから」とおっしゃってもらえて、そうだよなって思って。なので今は、今の自分が書けるものを積み重ねていって、その先に、社会であるとか、君と僕の関係以外のものも書けるようになりたいなと思っています。

(了)