第256回: 王谷晶さん

作家の読書道 第256回: 王谷晶さん

ノベライズやキャラクター文芸を発表した後、2018年に刊行した短篇集『完璧じゃない、あたしたち』で注目を集め、2020年刊行の『ババヤガの夜』は日本推理作家協会賞の長編部門の候補にも選出された王谷晶さん。本があふれる家で育ち、学校に行かずに読書にふけっていた王谷さんに影響を受けた作品とは? 20代のご本人いわくの「バカの季節」、作家デビューの経緯などのについてもおうかがいしました。

その5「作家デビューの経緯」 (5/7)

  • 探偵小説には向かない探偵 (集英社オレンジ文庫)
  • 『探偵小説には向かない探偵 (集英社オレンジ文庫)』
    王谷晶,yoco
    集英社
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  • あやかしリストランテ 奇妙な客人のためのアラカルト (集英社オレンジ文庫)
  • 『あやかしリストランテ 奇妙な客人のためのアラカルト (集英社オレンジ文庫)』
    王谷 晶,うにこ
    集英社
    605円(税込)
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  • ババヤガの夜 (河出文庫 お 46-1)
  • 『ババヤガの夜 (河出文庫 お 46-1)』
    王谷 晶
    河出書房新社
    748円(税込)
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――アルバイト生活から、作家デビューまでの経緯は。

王谷:自分はいずれ作家になるんだからと思ってフラフラしていたんですが、30歳になった時にさすがにちょっとやばいなと思って。そういう時って、入魂の一作を書いて投稿するのが普通というか、そうすべきなんでしょうけれど、そういう発想が全然なくて。ネット上で知り合った編集系の人に、「小説書くんで仕事ください」って営業をかけたんです。その頃ってちょうど電子書籍の第一次ブームで、電子書籍オンリーのレーベルがちょこちょこ出てきていたんです。それでちょっと書いたりしていました。携帯ゲームが流行り始めて、そのゲームのシナリオライターが人手不足で、運よくその仕事ももらえました。そういうことをやっているうちに、出版とかゲーム業界の知り合いが増えていって、「じゃあうちでもちょっとやってみる?」みたいなことがどんどん増えていって、いつの間にかデビューしていたという...。人の縁で生かさせていただいています。ある意味、飲み会によく顔を出していたから作家になれたタイプです。

――営業をかけただけではそこまで仕事はもらえないのでは。ブログ的なものとか、なにかで王谷さんの文章が彼らの目に留まったのでは?

王谷:「こういうものが書けます」ということで、ポートフォリオ的にそれまでに書いた同人誌とかもぼんぼん出していたんです。元ネタがわからなくても文章力を見てもらえると思って。「エロくないのもエロいのもやります」と言って、普通のおじさんにも18禁エロ同人誌を渡していました(笑)。

――そうした流れの中でノベライズを手掛けたりして、オレンジ文庫からも小説を出されていますよね。『探偵小説には向かない探偵』とか『あやかしリストランテ 奇妙な客人のためのアラカルト』とか。

王谷:キャラクター文芸とかライトノベルといったエンタメのほうでやってきたいと思っていたので、オレンジ文庫で書けるとなってすごく嬉しかったんですね。でも、まあ売れなかった。2冊目を出した後に、これで集英社との縁は終わったなと思いました。でも今、「小説すばる」で連載やらせてもらっているんですけれども。
でもその時は、これで集英社とは終わったな、この先どうしよう、また派遣をやるか、みたいな気持ちでした。そんな時に、当時ポプラ社にいて今河出書房新社にいる編集者さんから「WEBで何かやりませんか」と声をかけていただいて連載を始めることになりました。人に楽しんでもらおうと思って書いた2冊が売れなかったので、この連載はもう枠を外して好き勝手に書くことにしました。それが単行本になったらはじめて重版がかかって、「あれっ」と思っているうちに「文學界」とかにも書けるようになって、よくわからない場所にいる感じです。

――重版かかった本というのが、『完璧じゃない、あたしたち』ですね。いろんなパターン、いろんなテイストで女の人と女の人の関係が描かれ、登場する一人一人がステレオタイプではないところがよくて。

王谷:女と女の話、くらいしか決めていなかったんですよ。あとはもう自由にやっちゃってくださいということだったので、SFもホラーもなんでもありっていう。

――「WEBで何かやりませんか」と声をかけてくれた編集者は、王谷さんの何を読んでいたのでしょう。

王谷:なんだったかな。noteに3000字くらいの短篇をいくつか載せていたんです。それもやっぱりクィアな話が多かったんです。というか、それ以外の話は意識しないと書けない。たしかそれを見てくださって、WEBの連載も3000字くらいでやりませんかという話でした。作家の方って、ほっとくとどんどん長く書いてしまうと言う方が多いんですが、私は逆で、刈り込んでしまうので長く書くのが大変で短ければ短いほど書けるんです。

――そして、『ババヤガの夜』が大変な評判となります。めっぽうケンカの強い新道依子が、腕を買われて暴力団会長の一人娘を護衛することになる、という話。びっくりの仕掛けもあって本当に見事な作品でした。順調に活動されていますね。

王谷:鬱って、なんか水虫みたいにずっと菌が潜伏している感じで、たまにカクンと落ちたりはするんです。でも病気との付き合いも長いので、そうなったらどうすればいいのか対処法がちょっとわかってきました。まず、酒を飲まないっていう。最近は人と会う時以外は飲まないようにしていて、とてもクリーンな生活をしています。

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