第256回: 王谷晶さん

作家の読書道 第256回: 王谷晶さん

ノベライズやキャラクター文芸を発表した後、2018年に刊行した短篇集『完璧じゃない、あたしたち』で注目を集め、2020年刊行の『ババヤガの夜』は日本推理作家協会賞の長編部門の候補にも選出された王谷晶さん。本があふれる家で育ち、学校に行かずに読書にふけっていた王谷さんに影響を受けた作品とは? 20代のご本人いわくの「バカの季節」、作家デビューの経緯などのについてもおうかがいしました。

その6「デビュー後の読書生活」 (6/7)

  • サバイバー〔新版〕 (ハヤカワ文庫NV)
  • 『サバイバー〔新版〕 (ハヤカワ文庫NV)』
    チャック・パラニューク,池田 真紀子
    早川書房
    1,320円(税込)
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  • 眠れる美女たち 上 (文春文庫 キ 2-67)
  • 『眠れる美女たち 上 (文春文庫 キ 2-67)』
    スティーヴン・キング,オーウェン・キング,白石 朗
    文藝春秋
    1,749円(税込)
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  • 異能機関 上
  • 『異能機関 上』
    スティーヴン・キング,白石 朗
    文藝春秋
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――その後の読書生活は。

王谷:好きなのはチャック・パラニューク先生。今年読み返していたんですが、やっぱり『サバイバー』がいちばん好きですね。ハードだけど青春だなと思えるロマンチックな話で。
それと映画が話題になったジェイムズ・サリスの『ドライブ』。原作小説は映画とはちょっと違って、もっとドライでソリッドで、短い話なんですけれどすごくよくて。これも年に一回くらい読み返しています。
ずっと読んでいるのは深町秋生先生とか、黒川博行先生とか。『ババヤガの夜』はその影響下にあるかな。他にも、北方謙三先生とか、花村萬月先生とか。中学生くらいの頃に花村先生の『ブルース』がすごく話題で、こんな小説あるんだなと思って他の作品も読むようになりました。こうして話すと、やっぱり男性作家が多いですね。

――しかも骨太な、ハードボイルド系というか。

王谷:味が濃いものが好きなんです。最近では川上未映子さんの『黄色い家』が骨太でハードボイルドで味が濃くてすっごく良かったです。90年代の東京の風景の書き方も素晴らしかった。世代的にも自分とほぼ近い主人公の話だったのでぐっときました。
最近はありがたいことにいろんな版元さんがたまに本を送ってくれるので、手があき次第読んでいます。今さらハン・ガンを読み始めて、めちゃくちゃ面白いなと思いました。
それと、もっと本を読まなきゃいけないなと思って、最近は枕元にレイモンド・カーヴァーの短篇集を置いて寝る前に3、4篇読んでいます。

――なぜカーヴァーというチョイスだったのでしょう。

王谷:もともと短篇は好きですし、寝る前にまるまる一冊長篇を読むのはきついから短篇にしよう、短篇の名手といえばカーヴァーだ、ということで(笑)。今さらはまっています。
ジョー・ヒルも好きです。スティーヴン・キングの息子ですね。長篇も書かれていますけれど短篇集が好きです。やっぱり自分は短篇のうまい人が好きなのかもしれない。最初はなにかのきっかけで文庫の『20世紀の幽霊たち』を読んだんですよ。あれは本当にいい本でした。
キングともう一人の息子、オーウェン・キングが共作した『眠れる美女たち』の帯を書かせていただいたんですが、あれも良かったです。あそこの家に生まれて小説家を目指すなんてすごいなと思います。自分だった絶対、全然違う仕事を選んでしまいます(笑)。

――キング自身、精力的に書き続けているんだからすごいですよね。

王谷:こないだ邦訳の新刊『異能機関』が出ていましたが、あんな分厚い本をずっと書いているんですからね。前に、SNSでキング先生がキーボードにいちごジャムをこぼした、みたいな話をしていて、先生もなにか食べながら仕事するんだな、って思いました(笑)。
キング先生で思い出したんですけれど、小説のハウツー本も好きんなんですよ。キング先生の『小説作法』(※新訳版のタイトルは『書くことについて』)とか、ディーン・R・クーンツの『ベストセラー小説の書き方』とか、最近だとル=グウィン先生の『文体の舵をとれ』とか、ああいう作家が書く小説ハウツー本を読むのは、なんというか、マゾヒスティックな快感がある(笑)。「ぜってえこんなのできねえ」っていう劣等感を刺激されると、ちょっとやる気が出るんです。だから、村上春樹さんが毎日必ずジョギングして必ず10枚書くっていう、そういう話が大好きなんですよ。自分は絶対そんなことはできない。

――「あなたもすぐ小説が書ける」みたいな指南書は面白くないわけですね(笑)。

王谷:実際に書くだけなら、それは誰にでもできる楽しいことなので。やっぱりトップクラスの人たちの「普通」、つまり「異常な普通」を見せられるのって、豪華客船を見ているような、あるいは石油王の暮らしを見ているような、変な快感があります(笑)。だからハウツーとして読んでいるのとはちょっと違うかもしれません。書くためというよりは、石油王の御宅訪問みたいな感じ。実際になにかを書くためには、結局読んで書いて、それを続けていくしかないと思うから。

――1日のルーティンは。

王谷:一応午前中には起きるようにしています。1回デスクに座れば気力が切れるまで座っているんですが、1日何も書けない時もあります。ムラがあって、1日50枚くらいの時もあれば、2日間くらいひたすらぼーっとしているだけの時もあります。

――1日50枚って、ゾーンに入っていそう。

王谷:そういう時はさすがに30時間くらい起きてたりしますね。1日10枚とか20枚とかコンスタンスに書ける人に憧れがあります。ただ、ムラはありますが、睡眠時間は確保するようにはしています。

――睡眠大事。本を読むのは寝る前が多いですか。

王谷:そうですね。昼間も書くのに飽きたらなにか読むことはあります。なので、手の届くところに本だけはいっぱいあります。だいたいみなさんそうだと思うんですけれど。

――読書記録はつけていますか。

王谷:全然つけていないです。忘れちゃうので書かなきゃとは思うんですけれど。というのも、エビデンスがあるわけではないのですが、バカの季節を過ごした後、明らかに記憶力ががくっと落ちたんです。なので基本的にスケジュールとかは三か所くらいにメモして、「メメント」みたいに忘れないようにしているんですが。

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