第261回: 宮島未奈さん

作家の読書道 第261回: 宮島未奈さん

2021年に「ありがとう西武大津店」で第20回女による女のためのR-18文学賞の大賞、読者賞、友近賞をトリプル受賞、同作を収録した『成瀬は天下を取りにいく』が現在16万5000部に達している宮島未奈さん。大注目作家の幼い頃からの読書遍歴、デビューに至るまでの経緯とは? その来し方や、R-18文学賞出身作家へのあふれる思いなど語ってくださいました。

その2「恋愛小説が好き」 (2/7)

  • 失楽園(上) (角川文庫 わ 1-35)
  • 『失楽園(上) (角川文庫 わ 1-35)』
    渡辺 淳一,角川書店装丁室
    KADOKAWA
    607円(税込)
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  • 阿寒に果つ (中公文庫 わ 6-26)
  • 『阿寒に果つ (中公文庫 わ 6-26)』
    渡辺 淳一
    中央公論新社
    748円(税込)
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  • 天使の卵 エンジェルス・エッグ (集英社文庫)
  • 『天使の卵 エンジェルス・エッグ (集英社文庫)』
    村山 由佳,村上 龍
    集英社
    429円(税込)
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  • おいしいコーヒーのいれ方 (1) キスまでの距離 (集英社文庫)
  • 『おいしいコーヒーのいれ方 (1) キスまでの距離 (集英社文庫)』
    村山 由佳,志田 正重
    集英社
    550円(税込)
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――中学生時代はいかがですか。学校の図書室は利用していましたか。

宮島:中学校は校舎が古くて、図書室も暗い感じだったのであまり行っていなかったです。
中学生の時にこれを読んだ、というので浮かぶのは渡辺淳一さんの『失楽園』です。中2の時にすごくブームになって、単行本上下巻を買ったんだったか買ってもらったんだったか分からないんですけれど持っていて、先生に「貸して」って言われて貸した記憶があります。なので確実にその時期に読んだし、なんか、うまく言えないけれど、面白いなって思ったんですよね。最近読み返したんですが、すごく吸引力がありました。そこから「この人ほかにどんなものを書いているんだろう」と思って渡辺さんの他の本も読むようになり、『阿寒に果つ』を読んだんです。一人の天才少女画家に振り回された男たちの話で、章ごとに別の男の視点で書かれてあって。中学生でそれを読んだ時に、こういう書き方があるのかって思いました。中心人物である純子という少女について男たちは語っていくけれど、本人は語らない。でも、それぞれの男にどんな面を見せたか視点を変えて書いていくことによって、純子という人物が浮かび上がってくる。考えてみたら、私はそれを『成瀬は天下を取りにいく』でやっているんですよね。『阿寒に果つ』を思い出した時、そうか、これが元だったのか、と。もちろんそういう形式の小説は他にもたくさん読んできましたが、その形式をはじめて知ったのはこの作品でした。

――中学生時代はどのようなものを書いていたのですか。

宮島:「ロミオとジュリエット」の文庫本を読んで、それを見ながらロミオとジュリエットの名前を身近な人の名前に変えて書いたりしていました。誰にも見せなかったんですけれど。
それと、中学生の頃、「公募ガイド」の存在を知るんです。この出合いは大きかったですね。いろんな公募の賞があることを知って、自分も何か応募できるかもと思いました。だけど小説の賞というと原稿用紙100枚といったものが多かったので、「そんなに長いものは書けない」と思い、川柳コンクールとか標語コンクールに葉書で応募して参加賞をもらったりしていました。手紙文の賞に応募したら入選して、授賞式に招待されたこともありました。

――その後の読書生活は。

宮島:記憶が曖昧で中学時代か高校時代か分からないんですが...。10代の頃読んでいた記憶があるのが村山由佳さん。『天使の卵』を読んでいいなと思ったんですよね。やっぱり自分も恋愛小説を書いていたから、読むのも直球な恋愛小説が好きだったんです。『天使の卵』は今も好きですけれども、その頃読んですごく刺さりました。そこから『BAD KIDS』とか、『おいしいコーヒーのいれ方』のシリーズなども読み、村山さんの小説は今に至るまでずっと読んでいます。
それと、小説家になりたいという気持ちがあったので、久美沙織さんの『新人賞の獲り方おしえます』という小説家志望の人に向けた指南書のシリーズをすごく読んでいました。印象に残っているのが、うろ覚えですが、自分が泡立てようとしているのが生クリームなのか牛乳なのかはかき混ぜてみないと分からない、みたいな話。その人が作家になれるかどうかは、作家にならないと分からないっていうことの比喩ですよね。作家デビューした時にそれを思い出して、ああ、私は生クリームだったんだって思ったんです。
久美さんは氷室冴子青春文学賞の選考委員をされているんですが、その選評で『成瀬は天下を取りにいく』に触れてらしたんですよ。もうすごく驚きました。
他には、当時モーニング娘。がすごく流行っていて、私も好きでテレビを見たりCDを聴いたりしていたので、つんくさんがメンバー一人一人を掘り下げて書いた『LOVE論―あなたのいいトコ探します』も読んで、すごく好きでした。この前新潮社に行った時に、10万部売れた本の棚に『LOVE論』が入っていて、新潮社の本だったってその時はじめて気づきました。

――高校時代、小説は書いていたのですか。

宮島:文芸同好会に入っていました。3人しかいないので部ではなく同好会で、私・男・男という謎の3人組で。お金がもらえなくて部誌も自腹で作っていました。印刷したものをホチキスで留めただけの薄い冊子でしたけれど、一応そういう活動はしていました。
当時はワープロの東芝ルポを使っていました。その時に書いたものはテキストデータで残してあるので今も読めます。読み返してみたら、下手だけれど読めるというか。私の小説だな、って思います。大幅に改稿したら今後どこかで出せるかもしれないです。

――どんな話なんですか。

宮島:友達のお父さんを好きになる話です。友達というのは男の子で、その子は「私」のことが好きで、三角関係なんです。
そのお父さんとお母さんは別居していて、「私」はそのお父さんのことをわりとガチで好きになってしまい、具合が悪くなるという話です。

――ああ、やはり恋愛小説だったんですね。

宮島:そうですね。書くのも読むのも恋愛小説が好きだったので、やはり私の源流がそっちのほうだと思います。
高校時代の読書の話に戻ると、私、爆笑問題の本がすごく好きだったんです。『爆笑問題の日本原論』は漫才形式で進んでいく内容で、面白くて今でもたまに読み返します。
その後太田光さんが出した『カラス』という自伝的小説もめちゃくちゃ好きで。太田さんって、高校時代に友達が一人もいなかったというエピソードをよく話されていますが、それをこの小説でも書いているんです。私も高校時代に友達がほとんどいなかったので、「太田さんも耐えていたし私も3年間耐えよう」と、精神的な拠り所にしていたくらい好きな作品です。

――お笑いは好きでしたか。

宮島:はい。高校生の時には「爆笑オンエアバトル」が流行っていたかな。中学生時代に流行っていたのは「ボキャブラ天国」で、それはお笑いの文脈というよりダジャレ大会という感じでしたが、「オンエアバトル」が始まってからは、漫才というものが自分の中に入ってくるようにりました。もう毎週ビデオ録画して見ていました。今に至るまで大好きなのがアンタッチャブルです。「M-1」が始まったのが大学生になった頃。それも第一回から見ています。
当時、全国各地をまわる人力舎ライブツアーがあって、静岡公演は毎年見に行っていました。アンタッチャブルとかドランクドラゴンとかおぎやはぎといった人力舎の人たちが出ていました。

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