第261回: 宮島未奈さん

作家の読書道 第261回: 宮島未奈さん

2021年に「ありがとう西武大津店」で第20回女による女のためのR-18文学賞の大賞、読者賞、友近賞をトリプル受賞、同作を収録した『成瀬は天下を取りにいく』が現在16万5000部に達している宮島未奈さん。大注目作家の幼い頃からの読書遍歴、デビューに至るまでの経緯とは? その来し方や、R-18文学賞出身作家へのあふれる思いなど語ってくださいました。

その6「R‐18文学賞出身作家は箱推し」 (6/7)

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――受賞して、「連作にしましょう」と言われて、他の話を考えていったのですか。

宮島:そうです。1作目の『成瀬は天下を取りにいく』、略して「成天(なるてん)」の各短篇は本当に手探りで書いていった感じです。書いたけれど単行本に収録していない短篇もありますし。行き当たりばったりでした。今、2冊目の『成瀬は信じた道をいく』を出した後に「成天」を読むと「もう少しああすればよかった」と思うことが結構あります。あの時点では2冊目を出すと考えていなくて、成瀬シリーズは1冊で終わりのつもりだったんですね。続編の予定があったら島崎は引っ越さないと思います。
連作にすると決まった後、R-18文学賞の先輩たちの作品を片っ端から読みました。受賞作からどう連作を派生させていくか、みなさんすごく工夫を凝らされていて勉強になりました。私が「成天」とわりと近いと思っているのは深沢潮さんの連作短篇集『ハンサラン 愛する人びと』(※文庫で『縁を結うひと』に改題)ですね。お見合いおばさんの話で、おばさんが出てこない短篇でもおばさんがそこにいる世界だと感じさせるんですよね。深沢さんの作品も大好きです。
R-18出身の方々は、今となっては箱推しです。交流がなくて寂しいです。

――デビュー後、会う機会はなかったのですか。

宮島:私が受賞した2021年はコロナ禍だったので大きな授賞式がなくて。新潮社の会議室で選考委員の三浦しをんさんと辻村深月さんにはお会いできたんですけれど、他は編集者だけで、10人くらいでやったんです。翌2022年は大きなパーティではなかったんですが、一応ホテルで開催されたんですね。それは招かれて行ったんですけれど、まだ本も出していない無名作家で、知り合いもいないし、一人ぽっちで辛かったんですよ。それで、2023年は授賞式をさぼったんです。そうしたら、その頃にはもう『成瀬は天下を取りにいく』が出ていたので、「みんな宮島さんに会いたがってましたよ」と言われました。

――デビューしてからの読書生活は。

宮島:周りから「よく読んでますね」と言われるから、結構読んでいるとは思います。出版社さんから新刊を送ってもらえることがあって、ありがたく読ませてもらっています。
少し前に読んですごいと思ったのは今村夏子さん。『むらさきのスカートの女』が特に好きで、ああいうものを自分も書きたいですね。

――成瀬シリーズのトーンからするとちょっと意外な気が。

宮島:今振り返ると、もともと書いていたのはわりと暗い感じだったと思います。「成天」はつとめて明るく書こうとしたんですよね。そうしたら書けたので、なんでも書けるという自信になったかもしれません。
R‐18文学賞出身作家の話に戻るんですが、殿堂入りで好きなのは豊島ミホさんで、次に好きなのが蛭田亜紗子さんです。最近出された短篇集『窮屈で自由な私の容れもの』も最高でした。『凛』とか『愛を振り込む』とか『自縄自縛の私』とか、蛭田さんの小説はほとんど読んでいるんですけれど、本当に好き。ちょっと暗いんですけれど、その暗さがちょうどいいというか、暗すぎないというか。その感じが私の気分と合って、すごくしっくりくるんです。めちゃめちゃ好きです。蛭田さんのXを見ていると、執筆のことはほとんど発信せず、パンを焼いたり洋服を作ったりされていて、そういうところもいいなって思っています。まだお会いしたこともなくて、憧れです。
最近はR-18の先輩たちが特にご活躍なので嬉しく見ています、吉川トリコさんも本当に好きですね。最近だと『あわのまにまに』も良かったし、私は『夢で逢えたら』がすごく好きです。南綾子さんも『婚活1000本ノック』がドラマ化されて話題になっていますけれど、もっともっと話題になってほしいくらい。『ダイエットの神様』も好きでした。宮木あや子さんは『花宵道中』がR-18受賞作の中で抜群に面白いし、最近の『令和ブルガリアヨーグルト』も本当に笑っちゃいました。さきほど言った深沢潮さんも最近の『李の花は散っても』が良かったし、山内マリコさんももちろん好きです。山内さんも地方女子の話を書かれていますが、「成天」とは全然別のアプローチで、それがすごく面白いなと思っています。木爾チレンさんは最近の『神に愛されていた』が小説家の話で、いろいろ重ね合わせて読んでしまうところがありました。『みんな蛍を殺したかった』も好きでしたね。文章が若々しいというか、すごく好きです。
それと、真似ができないなと思うのが町田そのこさん。『夜明けのはざま』も重い話だし『52ヘルツのクジラたち』も悲惨な環境が書かれているけれど、なんか読まされるというか、読んだら面白いというか。すごいなと思っています。
それと、清水裕貴さん。私が最初に最終落ちした第17回で大賞を受賞されたのが清水さんだったんですよ。その時はちょっと悔しい気持ちがあったんですが、1冊にまとまった『ここは夜の水のほとり』を読んだら、もう素晴らしくて。受賞されたのは幽霊の話なんだけれど、連作になったら金魚視点の話があったりして、独特なんですよ。でも何年に何があってという年表はちゃんと辻褄が合っていて、すごく面白い。清水さんは今もたまに「小説新潮」に連作短編を書かれているので、はやく本にならないかなと思っています。
R-18文学賞の受賞作は、手に入るものは全部読んだんですけれど、やっぱりデビュー作って大事だなって思いました。今目覚ましい活躍している人はデビュー作から輝いていますよね。

――宮島さんの「ありがとう西武大津店」も輝いてますから。その後、成瀬はものすごく人気者になりましたね。

宮島:ここまで人気になるとは全然思っていませんでした。

――2作目の『成瀬は信じた道をいく』も、もう、ものすごく面白かったです。2作目がこんなにはやく出るとは思っていませんでした。

宮島:「成天」を書いた時は設計図がなかったけれど、「成信(なるしん)」の時はもう勝手が分かっているというか、完成図がちょっと見えていたので。
それに、実は「成天」はもっと早く出るはずだったんです。時間をかけて大事に売っていこうという話になって発売が延びました。発売前プルーフの段階で、書店員さんたちから『続編が読みたい』という声を多くいただいたこともあり、「続きを書きましょう」となって、書き始めていたんです。「成天」の発売時には「成信」の短篇も2本くらい書けていました。

――今回も、成瀬と出会う人たちの話ですよね。小学生やクレーマー女性、観光大使になった女子大学生らが、なにかしら成瀬と関わることになる。成瀬のお父さんの話があるのも面白かったです。成瀬家ってこんな感じなんだと思って(笑)。

宮島:自分でも読んでいて上達したなって思うんです。前よりも勘所が分かってきている感じがあります。「成天」ももちろんいいんですけれど、「成信」はさらに楽しくなっていると思います。

――東京に行ってしまった島崎も出てきますしね。「成天」で2人の友情にキュンとしていたので、出てきてくれて嬉しかったです。

宮島:そこはもう読者の期待を裏切らないように意識しました。

――さらなる続篇の予定はあるのですか。

宮島:とりあえず今は、3作目まで目指して走ろう、という気持ちです。

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