第261回: 宮島未奈さん

作家の読書道 第261回: 宮島未奈さん

2021年に「ありがとう西武大津店」で第20回女による女のためのR-18文学賞の大賞、読者賞、友近賞をトリプル受賞、同作を収録した『成瀬は天下を取りにいく』が現在16万5000部に達している宮島未奈さん。大注目作家の幼い頃からの読書遍歴、デビューに至るまでの経緯とは? その来し方や、R-18文学賞出身作家へのあふれる思いなど語ってくださいました。

その7「デビュー後の思い」 (7/7)

――一日のルーティンみたいなものは決まっていますか。

宮島:書く時間は朝の9時から12時までで、Wordの画面で3枚、原稿用紙でいうと10枚くらいと決めています。毎日ではないですよ。土日は家族がいるから休むし、ほかの用事もあるので稼働日は実質、月に15日くらい。でもそれを続けるとなんとか月に100枚くらい書ける。ただ、小説を楽しく書いているかというとそうでもなくて、3時間の間、結構苦しんで書いています。

――デビュー後、書く喜びみたいなものを感じる瞬間はありますか。

宮島:やっぱり受賞した時がいちばん嬉しかったです。2021年に受賞の電話がかかってきて、トリプル受賞と言われた時は腰を抜かしたんですよ。本当に立てなくなるんだって思いました。3浪して4回目で合格した感じだったんですけれど、全部回収できた気分でした。
「ありがとう西武大津店」が「小説新潮」に載った時点でも結構反響があったんですけれど、『成瀬は天下を取りにいく』が出た時にお祭り騒ぎが来て、やっぱりちょっと嫌なことも結構あって。正直嬉しい気持ちばかりではないし、この先どうなるんだろうという不安もあります。そういう意味では、わりとネガティブなところがありますね。
2作目の「成信」が出て、「まだまだ続篇が楽しみです」って言ってもらえるのは嬉しいけれど、成瀬が独り歩きしてしまって、それを生み出さなきゃならない怖さも感じているところです。それを誰かに言っても「売れないよりはいいよね」みたいな反応が返ってくるだけので、なかなか相談相手がいない難しさも抱えていますね。だから、あまり大津市から出ないで、家の中で普段通りの生活をするようにしているんです。イベントとかサイン会も大津市近辺で完結させるよう心掛けているところです。

――本当に面白かったので読者としてはつい「続篇が読みたい」と言ってしまいますが、生みの苦しみもあるんですね...。本当に書いてくださってありがとうございます。

宮島:それは嬉しいです(笑)。今はほっとしている気持ちのほうが大きくて。2作目を出す時に、絶対「1作目のほうが面白かった」という人がいると思っていたんですけれど、2作目のほうが良かったと言ってくれる人も多いし、両方良かったと言ってくださる人も多くて、本当にほっとしています。

――大津の方々も喜んでいるのではないですか。

宮島:地元の人がいちばん喜んでくれていますね。顔見知り程度の人でも「本買ったよ」とか言ってくれるんですよ。私のことを気にかけてくれているんだなって、ありがたいです。一昨日もサイン会をやったんですけれど、本当に近所の人が多かったです。「膳所から来ました」「草津から来ました」と言ってもらえて、地元でサイン会やってよかったって思いました。

――「成天」と「成信」を読むと、大津に行ってみたくなりますもの。

宮島:そう言ってもらえるのはすごく嬉しいですね。でもだからこそ、観光ガイドにならないように気をつけています。「成信」では成瀬が観光大使になりますが、やりすぎないように考えて書かなきゃと思っていました。

――成瀬シリーズ以外では、やっぱり恋愛小説を書きたいですか。

宮島:ああ、書きたいですね。各社すごく声をかけてくださるなか、まだ恋愛小説というオーダーは来ていないし、時代的に昔と比べて恋愛小説の重要度が下がっている印象は受けるんです。でも、よく「書きたいものがあんまりなくて」とか言っているんですけれど、言われてみれば、恋愛小説はいつか絶対に書きたいです。

――今、成瀬シリーズ以外で進行しているものは。

宮島:「別冊文藝春秋」で「婚活マエストロ」という連載を書いていて、それがいずれ本になります。それは婚活の話ですけれど、婚活する人の話ではなく、婚活パーティをする運営側の話です。
その次に、小学館で高校生の部活ものを始める予定です。過去にない部活の話になるんじゃないかなと思っています(笑)。
それとNHKの「基礎英語」のテキストで小説の連載を始めます。依頼をいただいた時は意外に思ったんですが、私自身も「基礎英語」は聴いていたのでお引き受けしました。一年間、毎月8枚の連載なので、それならなんとかできるかなと。もう半年分は書いてあります。

(了)