第261回: 宮島未奈さん

作家の読書道 第261回: 宮島未奈さん

2021年に「ありがとう西武大津店」で第20回女による女のためのR-18文学賞の大賞、読者賞、友近賞をトリプル受賞、同作を収録した『成瀬は天下を取りにいく』が現在16万5000部に達している宮島未奈さん。大注目作家の幼い頃からの読書遍歴、デビューに至るまでの経緯とは? その来し方や、R-18文学賞出身作家へのあふれる思いなど語ってくださいました。

その5「執筆再開のきっかけ&デビュー」 (5/7)

  • ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 (講談社文庫)
  • 『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 (講談社文庫)』
    辻村 深月
    講談社
    817円(税込)
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  • ランチのアッコちゃん (双葉文庫)
  • 『ランチのアッコちゃん (双葉文庫)』
    柚木 麻子
    双葉社
    590円(税込)
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  • ナイルパーチの女子会 (文春文庫 ゆ 9-3)
  • 『ナイルパーチの女子会 (文春文庫 ゆ 9-3)』
    柚木 麻子
    文藝春秋
    825円(税込)
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――執筆を再開されたのは、何がきっかけだったのですか。

宮島:その頃、私は在宅ワークでブログを書いたり何かのライティングをして収入を得ていたんですけれど、そこに行き詰まりを感じたんですよね。まったく売れないわけじゃないけれどくすぶっているというか。やることが単調で、なんか面白くないなと思っていました。
その時に、「そういえば私、小説家を目指していたな」って思い出したんです。
ほかにも理由はいくつかあるのですが、森見登美彦さんの『夜行』を読んだのも大きかったです。『夜行』は表の世界と裏の世界がある話ですよね。夜行の世界と曙光の世界があって、自分は夜行の世界で生きているけれど、いなくなった人たちは曙光の世界にいる、というような話だったじゃないですか。それを読んで、向こうの世界の私は小説家をやっているかもしれないって思ったんですね。それで、何か書いてみようって気になりました。
それが2017年の秋くらい。その頃にふと、女による女のためのR-18文学賞を思いだしたんです。豊島ミホさんのプロフィールでR-18文学賞のことは前から知っていましたから、そういえばそんな賞があったなと思ってパソコンで検索したことははっきり憶えています。新潮社のページを見たら、第10回までは官能がテーマでしたが、その時は第17回を募集していて、もう官能がテーマから外れていたんです。締切まであと1か月半くらいで、規定枚数が30枚から50枚だったので、頑張れば書けると思いました。
それで応募したら、いきなり最終選考に残ったんですね。今思うといきなり最終に残るなんて上出来なんですけれど、当時は落選したのが悔しくて、もうやめようかなとも思いました。なぜ続ける気になったかというと、「SASUKE」の山田勝己ですね。山田勝己は1回落ちても絶対に諦めない。だから私も諦めずに頑張ろうと思いました。

――最終選考まで残ったのはどんな小説だったのですか。

宮島:「卒業旅行」というタイトルで、ずっと片想いしている相手と一緒に旅行する話です。主人公の「私」は別の男と結婚することが決まっているんですけれど、その前に好きだった人と旅行に行く。今読むと下手だし、よくこれで最終に残ったなって思っちゃうんですけれど。
その頃は子供が生まれて読書からも遠ざかっていたんですが、最終候補になってやる気が出て、「小説読もう」って決意しました。

――なにを読まれたのでしょう。

宮島:実は私、その時点で選考委員の辻村深月さんの本をほとんど読んだことがなかったんです。ミステリーとかホラーとか、怖い話ばかり書いていると勝手に思い込んでいて。でも図書館に辻村さんの『ツナグ』があったので読んでみたら、全然そんなことなくて、こんな小説を書かれる方だったんだって驚いて、そこから大好きになりました。『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』も大好きだし、その後もどんどん新しい感じの作品を出してこられるし、すごいなって思っています。
この頃、さらに衝撃を受けたのが柚木麻子さんの作品です。『ランチのアッコちゃん』を読んでなんて面白い本があるんだと思い、そこからはまって柚木さんの小説を読んでいきました。『ナイルパーチの女子会』が大好きです。いちばん好きと言ってもいい。商社勤務の女性とブロガーの主婦が親しくなる話ですが、運営している自分のブログを全部閉鎖しようかと思ったくらい(笑)。あの小説は二周するといいと思う。二周目に読むと、2人が仲良く回転寿司に行くシーンとか、怖くて怖くてしょうがないですから。そういう感覚を味わわせてくれるので、柚木さんの作品、最高。大好きですね。
それと、今さらながらはまったのは東野圭吾さん。私、それまでミステリーを読んでいなかったんですよ。意味が分からないと思いこんでいて。でも東野さんの本を読んで、「あ、意味が分かる」と気づいて、東野さんの小説が新刊が出たらすぐに読むようになりました。
そうした作品はどれも、小説家を目指す勉強のための読み方はしていなくて、ただ楽しく読んでいました。

――そしてR-18にまた挑戦したのですか。

宮島:他の賞にも応募しました。第17回ではじめてR-18文学賞に落選した後、2018年にコバルト短編小説新人賞に応募して受賞しました。「二位の君」という話で、今も検索すればネットで読めます。これは学校のテストでずっと学年二位の女の子が主人公で、文化祭のミスターコンテストで毎年二位の男の子が隣の席になって、ちょっと仲良くなるという話です。恋愛要素はなくて、友達になる話ですね。その時の選者が三浦しをんさんだったので、すごく嬉しかったです。コバルトの賞を獲ったことはめちゃくちゃ自信になりました。最初にR-18の最終選考に残った時はまぐれかもしれないと思ったんですけれど、コバルトを獲ったことで見込みがあると思えたんですよね。ここで三浦さんに認めてもらえたんだという気持ちで、R‐18の第18回に応募しました。それも片想いの話で、昔好きだった人が自分の妹と結婚することになって、その結婚式に行く話でした。それも最終に残ってまた落とされちゃうんですけれど。
その後、第19回は最終の手前で落ちて、2020年になってコロナの時期に入ります。8月31日に西武大津店が閉店して、その2ヶ月後に第20回のR-18の締切があったんですが、そこで書いてみようかなと思ったのが、「ありがとう西武大津店」でした。

――『成瀬は天下を取りにいく』の巻頭の短篇ですね。

宮島:「ありがとう西武大津店」が第20回のR-18文学賞の大賞と読者賞と友近賞をすべて獲るという、とても光栄な結果になりました。それが2021年3月のことでした。
もしも最初の応募ですんなり受賞していたら成瀬という人物は現れなかったと思います。ちょっと運命めいたものを感じます。

――あえて恋愛小説ではないものにしよう、と思ったのですか。

宮島:R-18文学賞は1人3本まで応募できるので、いつも3本送っていたんです。だから「ありがとう西武大津店」を送った時も、他に大学生の男女の話と、社会人の女性の恋愛ものも送っていました。「ありがとう西武大津店」を書いたのは、「二位の君」が恋愛要素のない青春小説だったので、自分はそっちのほうがいいのかな、という気持ちがありました。それでもう一度青春小説を書いてみることにしたんです。

――どこまでもマイペース、そして何事も極めてしまう成瀬あかりというキャラクターは自然と出てきたんですか。

宮島:あんまり憶えていないですね。モデルもいなくて、行きつ戻りつしているうちにできていきました。最初のうちは成瀬が普通の口調で喋る場面もあって、後から統一したほうがいいよね、と思って直したりしたんです。

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