第261回: 宮島未奈さん

作家の読書道 第261回: 宮島未奈さん

2021年に「ありがとう西武大津店」で第20回女による女のためのR-18文学賞の大賞、読者賞、友近賞をトリプル受賞、同作を収録した『成瀬は天下を取りにいく』が現在16万5000部に達している宮島未奈さん。大注目作家の幼い頃からの読書遍歴、デビューに至るまでの経緯とは? その来し方や、R-18文学賞出身作家へのあふれる思いなど語ってくださいました。

その3「大学生時代に読んだ現代作家」 (3/7)

  • 分権論 (国立図書館コレクション)
  • 『分権論 (国立図書館コレクション)』
    福沢諭吉
    Kindleアーカイブ
  • 商品を購入する
    Amazon
  • 学問のすゝめ (講談社学術文庫)
  • 『学問のすゝめ (講談社学術文庫)』
    福沢 諭吉,伊藤 正雄
    講談社
    1,386円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
  • コイノカオリ (角川文庫 か 39-50)
  • 『コイノカオリ (角川文庫 か 39-50)』
    角田 光代,島本 理生,栗田 有起,生田 紗代,宮下 奈都,井上 荒野
    角川書店
    565円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
  • バトル・ロワイアル 上 幻冬舎文庫 た 18-1
  • 『バトル・ロワイアル 上 幻冬舎文庫 た 18-1』
    広春, 高見
    幻冬舎
    660円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto

――大学は京都大学文学部に進学されていますよね。進路はどのように決めたのですか。

宮島:これはもう、まわりにのせられた、というのが私の実感です。私は名古屋が大好きで、名古屋大学に行きたかったんです。でもまわりに「成績がいいんだから京大行けるよ」って言われて、「ああ、京大のほうがネームバリューがあるのかな」と思ってしまって。なので京大目指して頑張ったという感じではないんです。塾とかにも行っていなかったし。

――あ、独学でしたか。

宮島:独学です。学校で渡されるプリントや教材で勉強してました。私、数学がすごく苦手だったんですけれど、ある時、教科書に載っている問題をちゃんとやってみようと思って全部やったら、できるようになったんです。
それ以前は20点くらいしかとれなかったんですが、教科書の問題が全部解けるようになったら80点くらいとれるようになったので、勉強不足だったんだなって思いました。

――私、数学がすごく苦手だったので耳が痛いです(笑)。

宮島:私の場合は、なんか、できるようになったんです。みんながみんなそうじゃないかもしれないけど、ちゃんとやれば数学ができるようになる人は多いと思います。

――その一方、高校生になったら国語が苦手になったとおっしゃってましたね。

宮島:国語は分からなかったですね。何を勉強してもいいかも分からなかった。文学部に入ったのは「小説家を目指すなら文学部かな」と思ったからなんですけれど、得意なのは数学でした。数学が得意になったから京大に入れたんだと思っています。得意科目の点数は落とせないからバリバリ演習をして、それで入試を乗り切りました。

――京都で一人暮らしが始まったわけですね。大学生生活はいかがでしたか。

宮島:ある時期から京大というと森見登美彦さんのイメージが強くなったと思うんですけれど、森見さんは私が二回生の時にデビューされたんです。なので私は森見さんを知らなくて京大に入った最後の世代だと思っています。
京大って変な人が多くて楽しいイメージがあるかもしれませんが、そうでもないというか。わりと人を見下す人が多くて、私も馬鹿にされていた感じがあって、本当に嫌でした。そうではない人もいて、その一人が今の私の夫です。それと、高校時代ほとんど友達がいなかったのに、大学に入ってからは少ないながらも友達ができたのはプラスでした。みんな大学に近いところで一人暮らしをしているから、集まってゲームをしたり飲み会をしたり、という思い出はもちろんあります。その時からの友人で、今でもLINEで連絡を取り合って応援してくれている友人が3人くらいいます。

――専攻は何だったのですか。

宮島:文学部の日本哲学史専修という、西田幾多郎で有名なところです。それを選んだのは、先生が優しそうだったから(笑)。
卒論は福沢諭吉でした。福沢諭吉の『分権論』という、地方自治について述べている論文に関する内容でした。なので福沢の『学問ノススメ』なども一応読みました。

――大学生時代の読書生活はいかがでしたか。

宮島:高校生の時よりは読むようになりました。私が二回生の頃に綿矢りささんが芥川賞を受賞したんですよね。それで綿矢さんの出身の賞である文藝賞の存在を知り、「文藝」を読むようになりました。
その頃文藝賞を受賞した方に、生田紗代さんがいました。生田さんの小説はすごく憶えているのですが、今小説は書かれていないようなので残念です。羽田圭介さんが文藝賞を受賞した『黒冷水』も、雑誌掲載時に読んですごいなって思っていました。
それと、この頃に『コイノカオリ』というアンソロジーを読んだんです。収録作の中でも、宮下奈都さんの「日をつなぐ」という短篇がすごく印象的でした。この人すごく面白い小説書くな、他の本も読みたいなと思って著作を探してもなくて、どうやらまだ単著が出ていない頃だったんですよね。あれは宮下奈都さんとの衝撃の出会いでした。のちのち宮下さんが賞を獲られているのを見て、「あっ、あの人だ」って思いました。「日をつなぐ」はワンオペで赤ちゃんを育てていて、夫とはすれ違っていて鬱屈している女の人の話なんですけれど、「えっ」というところで終わるんですよ。最近久々に読み返してみたら、やっぱり、すごく心に残る文章でした。
他にこの頃読んだものでは、『バトル・ロワイアル』がすごく面白かった。乙一さんが流行っていて結構読んだのも憶えています。恩田陸さんの『六番目の小夜子』を読んだ記憶もありますね。
それと憶えているのは、ポケビをやっていた千秋さんが文庫本で出した『HAPPYを攻略せよ』。私はポケビ世代だったんです。夢の叶え方についての章があって、「その夢をずっと思っていること」って語っているんですよね。夢に向かって努力するとかではなく、千秋さんの場合は歌手になりたいってずっと思っていたから歌手になれた、みたいなことが書いてあって、そういうことってあるんだって思ったんですよね。それはすごく憶えています。

――わりと芸能界の方々の著作も結構読まれている印象ですね。

宮島:そういう意味でミーハーなところがあります。そういう本は好きですね。

――大学時代にもやはりご自身で書くものは恋愛小説が多かったのでしょうか。

宮島:多かったと思います。それと、大学生の日常みたいなものを書いていたかな。それこそ森見登美彦さんの『太陽の塔』を読んで、自分も京大生の日常小説みたいなものを書いた記憶がありますが、短すぎて新人賞に応募するということはなかったです。でも友達に読んでもらったら、「今女性作家でこういうの書いている人いないからいいと思うよ」って言われたんですよね。なんか、文章が面白い、みたいなことを言っていました。コメディではなかったんですけれど、ユーモアのある文章だったんだと思います。その子とは今も連絡をとりあっていて、私が作家になったことをすごく喜んでくれています。

» その4「あの名作を読み筆をおく」へ