第263回: 浅倉秋成さん

作家の読書道 第263回: 浅倉秋成さん

2012年に『ノワール・レヴナント』で第13回講談社BOX新人賞Powersを受賞しデビューして以来、特殊設定であれ現代社会が舞台のものであれ、緻密に構築した作品で読者を魅了し、『六人の嘘つきな大学生』で大ブレイクした浅倉秋成さん。小学生の時に小説から遠ざかる経験をした彼が、その後どうして作家になったのか。その過程や愛読書についておうかがいしました。

その3「アニメとお笑いと受験」 (3/7)

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――ところで、高校でも野球部だったのですか。

浅倉:野球がものすごく強い高校に進学したので、僕には無理だろうと思い、バレーボール部に入りました。それも半年くらいで辞めちゃいました。
僕、高校受験で大失敗したんです。偏差値64と62と37の高校を受験して、37の学校に行くことになり...。今はもっと偏差値が上がっている学校なんですけれど。それでもう受験に失敗したくなくて、大学受験のための勉強をちゃんとしようと思っていました。
 ただ、この頃から深夜アニメを見始めます。おさがりのテレビデオをもらって、自分の部屋でテレビが見られるようになったんですね。深夜アニメといっても当時は夜の10時台から0時台という、起きていられる時間帯に放送されていました。その頃はまだ、アニメを見ていると言うとちょっと恥ずかしい空気がありました。だから家族にも知られないように、音をちいさーくして耳を澄ませながら見ていました。ラテ欄しか情報がなかったので、内容も知らないまま、なんでも見ましたね。「涼宮ハルヒの憂鬱」とかが放送されていた頃です。「Fate/stay night」とかが記憶に残ってます。当時オタクの間で「『Fate』は文学、『CLANNAD』は人生」と言われていた二大アニメの片方の作品です。

――高校時代、ジャンボさんとお笑いの活動もされていたそうですが。

浅倉:前から2人で遊んでいる時に漫才の真似事はしていたんです。中3の時も、公立高校の試験の前日に担任が「誰かになにか景気いいことやってほしいな」って無茶振りをして、クラスの中心人物でお笑いスターといえばジャンボですから、ジャンボと僕で漫才を披露したことがありました。
ジャンボとは別々の高校に進んだんですが、3年生になってあいつはAO入試で早々に大学が決まり、暇になったといってちょっかいを出してきたんです。当時は今の「ハイスクールマンザイ」が「M-1甲子園」という名前で開催されていて、「それに出ないか」って。それで一緒に電車とバスを乗り継いで地区予選会場の成田のイオンまで行きました。僕らは他の誰にも出ると言わなかったんですが、他の子たちは家族とか友達とかいっぱい呼んでいて、明らかにアウェイの空気でした。それでもトリでめちゃくちゃ爆笑をとったんです。こんなに気持ちいいものかと思いました。僕らが舞台を降りた後、他の出場者が集まってきて、「すごかったです!」って言ってくれて。「何年やってらっしゃるんですか?」「いやあ初舞台ですけど~?」と話していたら結果発表になって、全然違う番号が呼ばれました。さっきまで「すごい」と言ってくれてた子たちが選ばれて、僕たちはポカーンとなって。審査員の一人が、「高校生らしさを何より大事にしました」って言うんですよ。確かに僕たちがやったのは居酒屋でビールを飲むというネタでした。軟骨のから揚げがどうのとかいう内容でした。
二人で帰りながら、大人はこういう時にお酒を飲むんだろうなって思いましたね。結局、下戸でお酒飲まない大人になりましたけれど。ただその後も、その時の会場で声をかけてきた人に誘われて小さな大会に出て賞を獲ったりはしましたし、大学生になってからも何回かお笑いの地区大会には出ました。

――そんな活動をしながらも、大学受験は無事に合格したのですねえ。

浅倉:無事合格して、学校は結構盛り上がってくれました。偏差値37の高校なんで(笑)。うちのクラスには一般受験する生徒が3人しかいなかったんです。他の人たちはみんな専門学校の推薦入学とか就職が決まっていたので、何も決まっていない奴は劣等生扱いだったんです。「みんなもう進路が決まっているのに、お前らは全然決まらないな」って感じで。試験日が先なのでしょうがないのに。一生懸命勉強しているんだから褒めてほしいのに、針のむしろでした。授業も受験向きの内容ではなかったので、3年生の時は出席日数が足りているかを確認してから、夏すぎから健全な不登校となり、朝起きて制服着てドトールとかに行って勉強して、14時くらいから河合塾にいって勉強して家に帰っていました。私服で塾に行くと浮くので、そのためだけに制服を着てたんです。先生には「病弱なんで」と嘘ついて、「この日だけは登校しなさい」と言われた時だけ学校に行ってました。
 で、まずセンター試験で何点以上だと合格になる私立大学があったので、そこに願書を出しておいたら受かったんです。学校に報告しに行ったら、「やったー!!」「このまま頑張れー!!!」という反応で。僕の銅像が建ちそうな勢いでした。

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