第263回: 浅倉秋成さん

作家の読書道 第263回: 浅倉秋成さん

2012年に『ノワール・レヴナント』で第13回講談社BOX新人賞Powersを受賞しデビューして以来、特殊設定であれ現代社会が舞台のものであれ、緻密に構築した作品で読者を魅了し、『六人の嘘つきな大学生』で大ブレイクした浅倉秋成さん。小学生の時に小説から遠ざかる経験をした彼が、その後どうして作家になったのか。その過程や愛読書についておうかがいしました。

その7「自作と今後について」 (7/7)

  • ショーハショーテン! 1 (ジャンプコミックス)
  • 『ショーハショーテン! 1 (ジャンプコミックス)』
    小畑 健,浅倉 秋成
    集英社
    528円(税込)
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  • ノワール・レヴナント (角川文庫)
  • 『ノワール・レヴナント (角川文庫)』
    浅倉 秋成
    KADOKAWA
    1,320円(税込)
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  • フラッガーの方程式 (角川文庫)
  • 『フラッガーの方程式 (角川文庫)』
    浅倉 秋成
    KADOKAWA
    1,078円(税込)
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  • 六人の嘘つきな大学生 (角川文庫)
  • 『六人の嘘つきな大学生 (角川文庫)』
    浅倉 秋成
    KADOKAWA
    814円(税込)
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  • 俺ではない炎上
  • 『俺ではない炎上』
    浅倉秋成
    双葉社
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――読書記録はつけていますか。

浅倉:大学生の頃から読んだ本のタイトルは記録しています。このインタビューを受けるために一覧を見返した時、涙が出そうになりました。今僕にとって物語は研究材料でもありますが、学生の頃は物語を物語として素直に消費して、それがとんでもなく楽しかったと思い出しました。キラキラした思い出です。

――今、一日のタイムテーブルはどんな感じですか。執筆時間は決まっているのか、朝型なのか夜型なのか...。

浅倉:たぶん緩めの夜型人間なのだと思いますが、睡眠不足になると覿面に体を壊すので、ほどほどに規則正しい生活を心がけています。朝の9時半くらいに起きて、準備ができたら仕事を始める。PCの前に座ったら必ずタイマーをスタートさせて、70分が経過したらどれだけキリの悪いところでも仕事は中断してソファに寝っ転がるようにしてます。これ以上座って作業していると、肩こり、腰痛、眼精疲労にいぼ痔と、とにかくありとあらゆる不調に悩まされることになるので(笑)。70分やったら20分と少し休憩して、また70分作業。これの繰り返しを続けて、やがて深夜の2時くらいになったら寝るという形ですかね。ま、本当はもう少しテレビゲームをやったりしてサボったりもしています。そんなにガチガチに働きづめではありません。

――浅倉さんは「ジャンプSQ.」に連載中の小畑健さんの漫画『ショーハショーテン!』の原作も担当されていますよね。高校生の男の子二人がお笑いコンビを結成して成長していく話ですけれど、人がどういう時に笑うのかものすごく分析してロジカルに説明されていて面白いです。

浅倉:お笑いもずっと分析していました。M-1で勝った人のネタを全部書き下して、ボケが何個あるのか、何分に1回ボケているかを数えたりしました。そこまでしなくても、傾向は結構見えるんですよね。去年はこうで今年はこうだった、とか。お笑いが好きな人なら分かる転換点っていっぱいあるんですよ。笑い飯さんの登場はすごく衝撃的だったし、南海キャンディーズも転換点だと思うし。自分でやっていてある時気づいたのは、ヘロヘロの私服で行くとウケないということでした。パキッとキメた格好で出ていくとプロだと勘違いされるのかウケるんです。それでジャンボと二人でスーツを着てやってみたらウケ方が変わりました。見た目で変わるのを実感して、これが人間なんだと思いましたね。

――小説でも、ロジックがしっかり組み立てられているところも浅倉作品の魅力のひとつです。それに最初の頃は特殊な設定が多かったですよね。デビュー作の『ノワール・レヴナント』は人の背中に幸福度を表す数字が見える能力を持った少年ら、不思議な能力を持った人たちの話。第二作の『フラッガーの方程式』は、それこそ日常をアニメのようなドラマティックなものに変えるシステムが出てくるし。大ブレイクした『六人の嘘つきな大学生』が、はじめての特殊設定なしのミステリでした。

浅倉:アニメを見てきたせいか、特殊な設定を考えるほうが楽だったんです。『六人の嘘つきな大学生』は編集者から「就活について書きませんか」と提案されたんです。それまで大学生の話は書いたことがなかったので、チャレンジする意義があるなと思いました。自分も就職活動はしましたし、当時の実体験や疑問も反映させました。

――その次の『俺ではない炎上』は、SNSで殺人犯の疑いをかけられて大炎上し、逃亡する男の話です。新作の『家族解散まで千キロメートル』も、家族観や結婚観を今一度考えさせる内容になっている。現代社会の風潮や検証が必要であろう価値観などを提示したい、という意識はありますか。

浅倉:別に社会に対して物を申したいから書きました、ということはないんです。『俺ではない炎上』も逃亡劇をやってみたかったというのがあるし、『家族解散まで千キロメートル』は編集者から「次は家族小説ですね」と提案されたのが始まりですし。それを僕なりに書くとこうなる、という感じです。それに、「友達を大切にしましょう」みたいな、これまでにもう何度も言われたことをまた小説で書くより、せっかくなら"言われてみれば考えたことがなかったな"と思ってもらえたほうがいいな、みたいな気持ちもあります。

――『家族解散まで千キロメートル』はやはり家族小説というのが出発点だったのですね。実家の解体が決まり家族がばらばらになる予定の喜佐家で、倉庫から謎の仏像が見つかる。どうやら厄介者の父が青森県の神社から盗んだご神体らしいと気づいた一家は、山梨県から青森県まで車でご神体を返しにいこうとする。解散寸前の家族が一致団結してトラブルを乗り切る話かと思いきや、意外なことが次々起こりますね。

浅倉:いま家族の話を書くとすると、ほっこりする話か毒親が出てくるドロドロした話になりがちな気がしたんです。どちらでもない道を選びました。長距離移動する話にしたのは、自ら一緒にいたいと望んだわけではない人と同じ箱に入れられて進んでいく様子が、家族のメタファーになるなと思って。

――物語は、車で仏像を返しに行く「くるま」のパートと、実家に残った姉たちが意外なものを見つける「いえ」のパートが交互に進行していきます。ここに仕掛けがあるんですよね。物語の中で明確に真相は明かされますが、読み終えた後も仕掛けに気づいていない人もいるようですが...。でもまさに、これがどういう物語なのか気づかせてくれる仕掛けですよね。痺れました。

浅倉:やはり読者のニーズを考えると、どんでん返しは何かあったほうがいいんじゃないかなとは思っていました。それで考えているうちに、作品の中で書きたいことと合致する仕掛けを思いついたんです。途中で真相に気づく人がいるんじゃないかと不安で仕方ないですけれど(笑)。

――やはりずっと「伏線の狙撃手」と呼ばれている身としては、やらねば、と。

浅倉:まだライフルは置けないな、と。

――あはは。では最後に、今後のご予定を教えてください。

浅倉:おそらく遠くないうちに『俺ではない炎上』が文庫になって双葉社さんから刊行されるものと思われます。文庫派の方はぜひお手にとっていただければ幸いです。あとは「ジャーロ」さんで定期的に書かせていただいていた変な短篇たちが、年内には短篇集にまとまってくれると思われます。「変なの書いてください」という指示に対して本当に律儀に変な小説を書いたので、伏線もどんでん返しもないのですが、果たしてこれでよかったのだろうかと不安になる問題作です......。反応が怖いのですが、個人的には楽しい創作でした。あとは小畑健先生とタッグを組ませていただいている『ショーハショーテン!』が引き続き「ジャンプSQ.」にて掲載される見込みです。雑誌でも単行本でも構いませんので、ご興味のある方はチェックしていただけると嬉しいです。楽しいインタビュー、本当にありがとうございました!

(了)