第263回: 浅倉秋成さん

作家の読書道 第263回: 浅倉秋成さん

2012年に『ノワール・レヴナント』で第13回講談社BOX新人賞Powersを受賞しデビューして以来、特殊設定であれ現代社会が舞台のものであれ、緻密に構築した作品で読者を魅了し、『六人の嘘つきな大学生』で大ブレイクした浅倉秋成さん。小学生の時に小説から遠ざかる経験をした彼が、その後どうして作家になったのか。その過程や愛読書についておうかがいしました。

その4「学びと読書と創作の楽しさに目覚める」 (4/7)

  • 容疑者Xの献身 (文春文庫 ひ 13-7)
  • 『容疑者Xの献身 (文春文庫 ひ 13-7)』
    東野 圭吾
    文藝春秋
    770円(税込)
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  • ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 (新潮文庫)
  • 『ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 (新潮文庫)』
    春樹, 村上
    新潮社
    737円(税込)
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  • グラスホッパー (角川文庫)
  • 『グラスホッパー (角川文庫)』
    伊坂 幸太郎
    角川書店(角川グループパブリッシング)
    649円(税込)
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――大学の学部はどのように選んだのですか。

浅倉:文学部の心理学科です。たぶんそれは心のどこかでお笑いを目指す気持ちがあったからです。心理学科ならメンタリストみたいなことが学べて、お笑いにも役立つだろうという気持ちがあったと思います。まあ、めちゃくちゃ心理学を勘違いしているんですけど(笑)。
 大学の勉強は面白かったです。僕はすごく真面目に勉強して、2年生の時は成績優秀者に選ばれて学費も半分返金されました。親に「ほら、返すわ」ってドヤ顔しました(笑)。僕の中のささやかな親孝行でした。
 頑張って勉強したというより、本当に勉強が面白くて仕方なかったんです。中学の時の国語の定期テストの「山」と訊かれて「川」と答えるみたいな内容ではなく、ちゃんと意味があることを教えてもらえる。自分の中で知の面白さが開花しました。と同時に、読書の面白さも知りました。

――読書の面白さを知ったきっかけは。

浅倉:大学1年生の時ですね。パサール幕張という、デパ地下みたいなパーキングエリアの和菓子店で生まれてはじめてアルバイトをして、おはぎを握っていたんです。いまだにおはぎの120gの感覚は憶えています。で、隣が崎陽軒で、お客さんがいない時に、そこの30歳くらいのお姉さんとよく喋っていたんです。その人が僕の19歳の誕生日に、なんか買ってくれると言って欲しいものを訊かれたんですけれど、何も浮かばなくて。そしたら本をくれたんです。東野圭吾さんの『容疑者Xの献身』と『秘密』でした。渡されて内心「うわー、本か...。でももらったからには読まないとな」という感じで。
 同じ時期、大学で、原作小説のある映画を観て感想を書けば単位をくれるという、めちゃくちゃ楽な授業をとっていたんです。その授業で映画の「容疑者Xの献身」を観たんですよ。これなら家に原作本があるなと思って開いてみたら、つるつると読めるんです。最後まで読めて、ちゃんと面白い。そこで「本って読めるんだ」という当たり前のことに気づきました。
 それで、大学の帰りに書店に行ったんです。文庫売り場なんて今までの自分にとっては何の意味もない空間だったんですけれど、見た瞬間、「うわ、ここにある本全部どれを読んでもいいんだ」、となりました。あの時の世界の広がり方は、筆舌に尽くしがたいですね。俺は今まで人生というゲームの一面しか知らなかったけど、人生には二面があるんだ、というような感じでした。
じゃあそこで何を読もうかとなった時に、同じ著者の本を選ぼうとは思いませんでした。『容疑者Xの献身』を読んだ時、「東野さんの本を読んだ」とか「ミステリを読んだ」というより、ただただ「本を読んだ」という感覚だったんです。テレビのラテ欄を見ただけでミステリだろうがラブコメだろうか知らないままいろんなアニメを見てきたので、ジャンルというものにも頓着がなかった。それで、次になんの本を読もうかとなった時に、ちょうどノーベル文学賞か何かで村上春樹さんが話題になっていたので、「村上春樹とか読んでみちゃう?」みたいな気持ちで『海辺のカフカ』を選びました。読んだことのない人間からすると、村上さんって日本文学の最高峰で、きっと難しいだろうなというイメージがあったんです。そうしたらとても読みやすいじゃないですか(笑)。最初書店で『海辺のカフカ』か『ねじまき鳥クロニクル』か迷ったんですが、後から思うと僕の選択は正しかったですね。
『海辺のカフカ』でさらに「本が読める」「面白い」となり、次は伊坂幸太郎さんを読もう、となりました。なぜかというと、ジャンボが「うちの兄貴、本好きなんだよね。村上春樹とか伊坂幸太郎を読むんだよ」って言っていたのを憶えていたんです。そのせいで、小説家のことを何も知らない僕の中では村上春樹と伊坂幸太郎は二大作家というか、セットのような作家さんなのだろうなというイメージになっていたんです。風神・雷神みたいな。それで伊坂さんを選んだんですが、この選択が素晴らしかった。最初に『グラスホッパー』を読み、次の『ラッシュライフ』でものすごく好きになりました。
それからもらった『秘密』も読み、村上さんも『ノルウェイの森』や『1Q84』なども読みました。森見登美彦さん、万城目学さんの作品も読みました。森見さんは『四畳半神話大系』のアニメがすごく好きだったんです。万城目さんは最初に『鴨川ホルモー』を読みました。
この頃からませてきて、アニメも、ラブコメも好きだけどもうちょっと格好いいパッケージの、深いことを言っていそうなものに惹かれるようになりました。『攻殻機動隊』とか。そのなかで『ひぐらしのなく頃に』とか『化物語』とかが結構好きだったんです。『化物語』は友達に借りて原作は読んでいましたが、『ひぐらしのなく頃に』はずっとアニメしか知らなかったんです。そこから、原作を出している講談社BOXのシリーズに興味がいくようになります。

――ああ、浅倉さんは後に講談社BOX新人賞Powersを受賞してデビューされますよね。小説を書きはじめたきっかけは何かあったのですか。

浅倉:小学生の時に漫画を回し書きしたり、お笑いのプレイヤーになろうとしたりと、何かを作りたい、何かをやる人になりたい、という欲はありました。漫画を沢山読んでいたしアニメが好きということもあって最初は漫画家になりたい欲も強かったんですが、ある一定以上から画力が向上しなかったんです。ギャグ漫画ではなくシリアスなものを描きたいと思っても、画力が足りなくてそれに合う絵が描けなかった。
大学3年生の時に選択授業で文芸創作講座をとったんです。自動販売機というテーマで評論を書いてください、その次は自動販売機というテーマで小説を書いてください、といった課題が出て、受講者の30人くらいが全員無記名で提出して、毎週感想を言い合っていました。なんか、たまらなく楽しかったですね。学生が書いているから格好つけたものだってあるんです。それさえも一生懸命に意味を見つけ出して、「ここがよかった」とか「ここをこうすればもっとよくなる」みたいなことを言い合う合評って、僕がはじめて知る世界だったんです。そこで友達を作るというわけでもなくて、ただただ毎週その教室で顔を合わせて合評するだけの関係が続く。そんなドライな感じも含めてよかった。僕以外の他の学生はほとんど日本文学科の人で、みんな文章がすごく上手いんです。自分の自惚れみたいなものは一切なくなって、負けないように頑張んなきゃ、となりました。その思いは今でもどこかにあります。たぶん、あの教室にいた人たちの方が、今でも俺より文章は上手いぞって。
 それで、小説なら漫画よりも高い次元で出力できると気づき、より一層本を読むようになりました。僕の中では、読む喜びと書く喜びが同時期に訪れたような感覚があります。

  • ノルウェイの森 (講談社文庫)
  • 『ノルウェイの森 (講談社文庫)』
    村上春樹
    講談社
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  • 1Q84 BOOK1〈4月‐6月〉前編 (新潮文庫)
  • 『1Q84 BOOK1〈4月‐6月〉前編 (新潮文庫)』
    春樹, 村上
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