第271回:坂崎かおるさん

作家の読書道 第271回:坂崎かおるさん

2020年に短篇「リモート」で第1回かぐやSFコンテスト審査員特別賞を受賞後、数々の公募賞で受賞・入賞。2024年には短篇「ベルを鳴らして」が第77回日本推理作家協会賞短編部門受賞、『海岸通り』で芥川賞ノミネートと、小説のジャンルを越えて高評価され注目される坂崎かおるさん。実に多彩な作品を発表しているこの書き手は、どんな本を読んできたのか? 読書遍歴と執筆遍歴について、お話をおうかがいしました。

その2「創作を始める」 (2/8)

  • 新装版 マリオネットの罠 (文春文庫) (文春文庫 あ 1-27)
  • 『新装版 マリオネットの罠 (文春文庫) (文春文庫 あ 1-27)』
    赤川 次郎
    文藝春秋
    759円(税込)
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  • 忘れな草 (角川ホラー文庫)
  • 『忘れな草 (角川ホラー文庫)』
    赤川 次郎
    KADOKAWA
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  • 桃尻語訳 枕草子 上 (河出文庫 は 1-21)
  • 『桃尻語訳 枕草子 上 (河出文庫 は 1-21)』
    橋本 治
    河出書房新社
    924円(税込)
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  • マダムとミスター 1 (白泉社文庫)
  • 『マダムとミスター 1 (白泉社文庫)』
    遠藤淑子
    白泉社
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  • 王ドロボウJING新装版(1) (コミックボンボンコミックス)
  • 『王ドロボウJING新装版(1) (コミックボンボンコミックス)』
    熊倉裕一
    講談社
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  • ロックマンX
  • 『ロックマンX』
    岩本佳浩,カプコン
    復刊ドットコム
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――中学校に入ってからは、読書傾向に変化はありましたか。

坂崎:中高一貫の学校に行ったんですが、学校の図書室の本が著者の五十音順に並べられていて、あ行の一番端にが赤川次郎作品がずらっとあったんですね。「三毛猫ホームズ」のシリーズとか。家にあった赤川さんの本を読んで面白いなとは思っていたので、中学の初めの頃に「よし、これを全部読もう」と決めたんです。そこから1日1冊か2日に1冊のペースで、なぜか義務のように読んでいました。結局、図書館にあった50~60冊の赤川さんの本は全部読みました。赤川さんのシリーズって、今はヤングアダルト枠のつばさ文庫にも入っていますし、当時の表紙は大人向けでしたけれど読みやすかったです。ちょっと怖いし、エロティックなところもあるし、どんでん返し系で推理ものの面白さもあるし、エンターテインメントとして完成されていたなという印象です。全部の作品を憶えているわけではないですが。『マリオネットの罠』や『忘れな草』などは憶えています。

――図書室の赤川作品を制覇した後は、どうされたのですか。

坂崎:面白い先生が多かった中学校だったので、先生が薦めてくれた本を読むことが多かった気がします。橋本治さんの『桃尻語訳 枕草子』とか。当時の図書室の貸し出しカードが実家にあるはずなんですが、いま手元になくてあまり憶えていなくて...。
姉の影響で少女漫画もすごく読みました。姉はあまり王道を読んでいないんですよ。姉の本棚で私がいちばん好きだったのは、遠藤淑子さんという漫画家です。『マダムとミスター』という、「花とゆめ」で連載されていた漫画がすごく好きでした。お金持ちの家に嫁いだけれどすぐ夫に死なれたグレースと、その家の執事の話です。二人でドタバタするコメディみたいな内容ですが、ほろっとさせられるし、小道具の使い方がすごく上手なんですよね。短い話ばかりなんですけれど、どれもすごく出来がいいんです。姉の本棚から勝手に借りて読んだら面白かったので、遠藤さんの他の作品を自分で買うようになりました。
小学生の頃から漫画は読んではいて、「コミックボンボン」が好きでした。小学生がよく読む「コロコロコミック」とはまた違うんですよね。『王ドロボウJING』とか、『ロックマンX』などを憶えていますが、全体的に何か話が暗いんです。人も死んじゃうし。そういうのが好きな小学生でした。

――悲劇的な話や怪奇っぽいものに惹かれる子供だったようですが、怖い話が好き、というのとはちょっと違いますよね。

坂崎:そうなんですよね。お化けとか幽霊とか妖怪といった方向には行かなかったんです。それよりも人の心が怖い話というか、人の心が働きかけて何か悲しいことが起きる話のほうが、自分にぴったりきていた気がします。

――小中学生の頃って、将来なりたいものとかありましたか。

坂崎:小学校の頃に、宇宙飛行士になりたいと言っていたことがありました。毛利衛さんが宇宙に行った頃だったんです。何にでも影響を受けやすい子供だったので、いいなと思う人がいるとすぐ影響を受けていました。宇宙飛行士になりたいという夢はすぐに忘れて(笑)、音楽のミキサーになりたいと言っていたこともありました。なんでそう言っていたのかまったく分からないです。要するに、人と違ったことをしたがる子供だったんだと思います。
ただ、文章を書いていたくせに、小説家になりたいって思ったことはないんですよ。中学生の頃は周りも自分が書いていることを知っていたので「作家になれば」みたいなことを言われたことはあるんですけれど、それを進路の選択の中に入れることはなかった。どうしてなのかは、自分でもよく分からないです。

――あ、中高の頃から創作を初めていたのですか。

坂崎:最初に書いたのは小学校高学年の頃だったと思うんですけれど、中学校に上がってからはちょいちょい書いて、隣の席の子とかに勝手に読ませていました。周りもいい人で、結構「面白かったよ」とか言ってくれたりして。一時期は、毎日メールで一篇ずつ友達に送っていたんですが、今思うとあれは迷惑だったろうなっていう(苦笑)。表立って馬鹿にする人がいなかったから続けられていました。

――毎日一篇って、その頃から筆が速い。

坂崎:父のお古のWindows3.1があって、それで書いていたんです。当時は赤川次郎を読んでいたから、ちょっとミステリっぽい話だったような気がします。毎日書いて送って、感想をもらってまた続きを書く、ということをやっていました。内容はほとんど思い出せませんが、どこかにフロッピーディスクが残っています(笑)。

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