作家の読書道 第273回:荻堂顕さん

2020年に「私たちの擬傷」(単行本刊行時に『擬傷の鳥はつかまらない』に改題)で新潮ミステリー大賞を受賞、第2作『ループ・オブ・ザ・コード』が山本周五郎賞候補、第3作『不夜島(ナイトランド)』で日本推理作家協会賞受賞、第4作『飽くなき地景』が直木賞候補、吉川英治文学新人賞候補と、注目度が高まり続ける荻堂顕さん。作家志望ではなかった荻堂さんが、小説を書きはじめたきっかけは? 国内外の愛読書とともに、来し方を教えてくださいました。

その1「小学生の頃に読んだ青い鳥文庫」 (1/8)

  • かいけつゾロリのドラゴンたいじ (1) (かいけつゾロリシリーズ ポプラ社の小さな童話)
  • 『かいけつゾロリのドラゴンたいじ (1) (かいけつゾロリシリーズ ポプラ社の小さな童話)』
    原 ゆたか,原 ゆたか
    ポプラ社
    990円(税込)
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  • 星の王子さま (新潮文庫)
  • 『星の王子さま (新潮文庫)』
    サン テグジュペリ,河野 万里子
    新潮社
    528円(税込)
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  • 三丁目が戦争です
  • 『三丁目が戦争です』
    筒井康隆,永井豪
    スローガン
    2,970円(税込)
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  • ねらわれた学園 (講談社文庫 ま 3-8)
  • 『ねらわれた学園 (講談社文庫 ま 3-8)』
    眉村 卓
    講談社
    682円(税込)
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――いつもいちばん古い読書の記憶からおうかがいしております。

荻堂:絵本や児童書はあまり読んでいなくて、本当に記憶がなくて。僕と同世代の人は小さい頃に『かいけつゾロリ』とかを読んでいると思うんですけれど、僕は一切読んでいないんです。
いちばん古い読書の記憶は、村上春樹が訳したシェル・シルヴァスタインの『ぼくを探しに』なんです。欠けた丸が転がっていくという絵本ですけれど、すごく好きで何度も読んで、今も手元に置いてあります。最初に読んだのが小学校に入る前。幼稚園にあったから読んだんじゃないかな。

――なぜそんなに好きだったのでしょう。

荻堂:なんでだろう。幼い頃からひねくれていて、幼稚園でも読み聞かせで物語調の話を聞くのがわりと嫌だったんです。『ぼくを探しに』は色使いも多くないし、こちら側がどう解釈するかで受け取り方が変わる話だと思うんです。そういうものが小さい頃から好きでした。でも『星の王子さま』は好きじゃなかったんですよね。

――帽子に見えるけれど実は象を飲み込んだウワバミです、というところとか?

荻堂:そうそう。そこまでいくと、お洒落なやつが好きそうなものを書いているな、という感じで。そこまで押しつけがましくない『ぼくを探して』くらいのものが好きでした。

――言葉で説明されるよりも、イメージをかき立てるようなものが好きだったんですかね。

荻堂:好きでしたね。小さい頃から小学校高学年までずっとレゴブロックが好きだったんですが、それに通じるものがあるかもしれないです。

――小学校に上がってからは、学校の図書室を利用したりしましたか。

荻堂:僕、人生の中で図書室とか図書館を利用したことがほぼなくて。ずっと、本は一人で読むものという感覚があります。図書室とかって図書カードがあって、この人はこの本を借りた、というのが分かるじゃないですか。あれが耐えられなくて。好きな本は自分だけのものにしたい、というわけではないけれど、自分が読んでいる本や読んだ体験を人と共有したいという感覚がなかったんです。
本は無限に与えてくれる家だったので、たいてい新刊を買ってもらって読んでいました。

――自分で書店に行って選ぶのですか、それとも親御さんが買ってきてくれるのでしょうか。

荻堂:最初の頃は親がレコメンドしてくれたものを読んでいて、中学生くらいからは自分で買っていました。中学生の頃はお年玉とかも図書カードでもらうことが多かったので、それで買っていたんです。子供の頃は、そんなに他に欲しいものもなかったんで。

――荻堂さんは東京の世田谷区のご出身ですよね。近所に書店も結構あったのでは。

荻堂:いやいや。最寄り駅が成城学園前だったんですけれど、小さい頃は近所にすごく小さな書店しかなかったです。デアゴスティーニの雑誌とか、大きな知恵の輪といった知育玩具が多くて、文芸コーナーは小さかったです。

――そのなかで、どのように本を選んでいたのでしょうか。

荻堂:同世代で読んでいた人は多いと思うんですけれど、松原秀行さんの「パスワード探偵団」シリーズとか、はやみねかおるさんの「名探偵夢水清志郎事件ノート」シリーズとか。青い鳥文庫ですね。それらを読んでミステリやSFを読む人間に育つ下地ができたと思います。
青い鳥文庫バージョンで筒井康隆さんの『三丁目が戦争です』とか、眉村卓さんの『ねらわれた学園』なども面白く読みました。

――アニメや映画などはよく見ていましたか。

荻堂:のちに一人暮らしをしたり結婚したことであれは珍しいことだったと気づいたんですけれど、うちの家は毎晩、映画を一本観ながら食事していたんです。だから夕食に2時間とかかけていました。ご飯が終わったらデザートとかお菓子とか食べて、必ず映画が終わるまで観ていたんです。自分からアニメや映画を観るようになったのは小学校の終わりから中学校に入るくらいからです。

――夕食時間にどんな映画を観ていたのでしょうか。荻堂さんが小さい頃は児童向けの映画を選んでくれたのですか。

荻堂:いや、うちはそういうことは気にしていなかったですね。観るのは洋画が多かった。ケーブルテレビに入っていたんで、WOWWOWとかで海外のものをよく観ていました。

――その頃はインドア派とアウトドア派と、どちらだったと思いますか。

荻堂:インドアですかね。あまり外で遊ぶ子供じゃなかったですね。

――荻堂さんはジムのトレーナーの経験もあるので、運動することがお好きだったのかと思ってました。

荻堂:いや、身体を鍛えるのが好きな人ってインドアタイプが多いと思いますね。僕もずっと本を読んだり映画を観たり、ゲームをしたりしていました。

――習い事とか部活とかは。

荻堂:怠惰な子供だったんで、習い事も部活もやっていなかったです。親も、強く言ってやらせるタイプじゃなかった。ただ、中学受験はしたんです。中高大一貫校しか受けませんでした。親に「受かったらもうずっと受験勉強しなくていいんだから」と言われて、その言葉だけで受験したんです。だからやっぱり、怠惰なんです。
でも小学6くらいの頃には、「RPGツクール」というゲームを作るソフトを買って、それに夢中になりました。受験ギリギリまでゲームを作って遊んでいたので、さすがにこのままじゃ駄目だと言って禁止されたんですが、親からなにか禁止されたことがあるのって、それくらいでした。

――お年玉が図書カードというので教育熱心な親御さんだったのかと思いました。

荻堂:いや、親も図書カードのほうがラクだろう、というくらいの感じで、うちは放任主義でした。子供が自発的に「このままじゃまずい」と気づくので、僕は放任主義のほうがいいんじゃないかと思っています。

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