第284回:石田夏穂さん

作家の読書道 第284回:石田夏穂さん

2020年に筋トレに励む女性が主人公の『我が友、スミス』で第45回すばる文学賞佳作を受賞しデビューした石田夏穂さん。実はその前は江戸川乱歩賞に応募していたのだとか。そんな石田さんが敬愛する作家は? 読書遍歴も創作についても、意外なお話たっぷりです。

その6「小説を書き始める」 (6/8)

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  • 『我が友、スミス (集英社文庫)』
    石田 夏穂
    集英社
    572円(税込)
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  • ケチる貴方 (講談社文庫 い 163-1)
  • 『ケチる貴方 (講談社文庫 い 163-1)』
    石田 夏穂
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  • 仮面の告白 (新潮文庫)
  • 『仮面の告白 (新潮文庫)』
    三島 由紀夫
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――大学時代、まだ小説を書こうとは1ミリも思ってなかったですか。

石田:髙村薫さんを読んでからは、自分でもこういうのが書きたいと思っていました。20歳くらいの時です。
当時書いたのは全部、主人公が悪いやつで、テロリストかスナイパーかスパイでした。何の意味もなく舞台がアメリカとかメキシコで。行ったこともないのに。

――その頃書いたもののデータ、残っていますか?

石田:残ってないです。

――うわー残念です。新人賞に応募はしましたか。

石田:しました。私、ずっと江戸川乱歩賞に送っていたんですよ。社会人になってからも、毎年じゃなくて三年に一回くらい。箸にも棒にもひっかかりませんでした。

――それにしてもあんなに新本格を読んでいたのに、テロリストかスナイパーかスパイの話だったんですね。

石田:本当ですね。新本格は夢中になって読んでいたんですけれど、心のどこかで、どの探偵も高等遊民だな、と思っていたんです。どうやって飯食ってんのかなとか、嘘くささを感じてしまっていたというか。いや、それ以上にひとつもトリックを思いつけませんでした。

――卒業後は就職されたわけですよね。

石田:建設会社に入りました。誰も本なんて読まないんですよ。私もそんな読まないんですけれど。でも、たまーーーに出張に行くおっさんがめっちゃ文庫とか持っている時があって、そういうときはときめきました。

――新人賞への投稿は続けていたわけですよね。小説家志望ではあったわけですか。

石田:なれたらいいなと思っていました。でもそれを食い扶持にしようとは思っていなかったです。そのために仕事を辞める、ということも思わなかったです。

――お仕事しながら長編を書ききるのは大変だったのでは。

石田:当時の自分、普通に500枚とかの長編を書いていたんですよ。今は100枚書いたら鼻血が出るんで、どうやって書いていたんだろう...。

――お仕事しながら、ジムには通っていたのですか。

石田:はい。運動習慣が全然なかったので、何かしないとやばいかなと思いました。当時、筋肉体操的なものが流行っていたこともあって、27歳くらいの頃からジムに通いはじめました。それで、結構はまりました。

――それが小説に繋がるわけですものね。2021年に第45回すばる文学賞佳作を受賞した『我が友、スミス』はボディー・ビルの大会のために肉体改造していく女性が主人公。このデビュー作は芥川賞の候補にもなりました。テロリストやスパイやスナイパーから作風を変えて純文学の賞に応募したのは、何かきっかけがあったのですか。

石田:ずっと乱歩賞に送っていたんですけれど、ぜんぜん駄目で。それでなんとなく、違う話を書いてみたんです。女性が脂肪吸引を繰り返す話を書いて、当時あった大阪女性文芸賞という地方の賞を雑誌で見つけて送ったんですよ。それがうまいこと当選して。その時の審査員が町田康さんで、「純文学の賞に送ったほうがいいよ」と言ってもらえたんです。その時は「なんでだろう」と思ったんですけれど、その後『我が友、スミス』を書いてデビューできました。

――大阪女性文芸賞を受賞された脂肪吸引の話は、『ケチる貴方』に収録された「その周囲、五十八センチ」ですよね。脂肪吸引のことが細かく書かれていて、取材されたのかなと思うくらいでした。

石田:恥ずかしいんですけれど、自分は28歳のころ思春期で、足が太いのが嫌だなと思ってたんです。そんな悩みはもっと若い時に乗り越えておくべきなんですけれど。で、美容クリニックみたいなところに行ったんです。結局なにもしなかったんですけれど、そのクリニックの先生がめちゃめちゃ面白く説明してくれたんですよ。脂肪をこう取ってこう取って、こう取ったらこうだよ、みたいな。自分にもし金と勇気があったらやっちゃうのかなと思ったので、それを書きました。ほんと、人生何があるか分からないです。その先生にお金払わないといけないですよね(笑)。

――純文学作家としてデビューされたわけですが、自分の書く小説のジャンル的なことはどう意識されていましたか。

石田:デビューするまでは、ジャンルはまったく気にしていなかったんです。デビューしたら、完全アウェイでやばかったです。界隈の人たちが「絶対これ読んでるよね」みたいに言われる本を一冊も読んでいませんでした。最初の頃は、筋トレ繋がりで、三島由紀夫さんがどうのこうのとよく言われました。私は当時、三島由紀夫さんが筋トレをしていたことすら知らなかったんですね。デビューして三年ぐらいはずっと分かっているふりをしていて「ああ、『仮面の告白』ですねー」とか読んだこともないのに頷いていました。他にも、みなさんが当然のように「あれ読んでるよね」という本を100パーセント読んでいなくて、ひたすら読んだふりだけが上手くなる日々でした。最近は正直に「読んでないです」って言っています。

――潔いですね。慌ててこっそり読むわけでもなく。

石田:そうなんですよね。いまから勉強しようとも思わず、相変わらず同じ小説ばっかり読んでいます。もっといろんな本を読めと言われるんですけれど、『黄金を抱いて翔べ』なんて20回くらい読んでいます。

――20回くらい読む時って、どういうところを意識しながら読んでいるのですか。

石田:自分が文章を書くようになってから読むと、「あ、こういうふうに書くんだな」とか「なんでこのシーンを入れたのかな」とか、思うことがいろいろあって面白いんです。

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