第284回:石田夏穂さん

作家の読書道 第284回:石田夏穂さん

2020年に筋トレに励む女性が主人公の『我が友、スミス』で第45回すばる文学賞佳作を受賞しデビューした石田夏穂さん。実はその前は江戸川乱歩賞に応募していたのだとか。そんな石田さんが敬愛する作家は? 読書遍歴も創作についても、意外なお話たっぷりです。

その8「自作について」 (8/8)

  • ケチる貴方 (講談社文庫 い 163-1)
  • 『ケチる貴方 (講談社文庫 い 163-1)』
    石田 夏穂
    講談社
    649円(税込)
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  • ミスター・チームリーダー
  • 『ミスター・チームリーダー』
    石田 夏穂
    新潮社
    1,600円(税込)
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  • 黄金比の縁 (集英社文庫)
  • 『黄金比の縁 (集英社文庫)』
    石田 夏穂
    集英社
    473円(税込)
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  • 我が手の太陽
  • 『我が手の太陽』
    石田 夏穂
    講談社
    1,111円(税込)
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  • 緑十字のエース
  • 『緑十字のエース』
    石田夏穂
    双葉社
    1,760円(税込)
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  • ノーメイク鑑定士 (単行本)
  • 『ノーメイク鑑定士 (単行本)』
    石田 夏穂
    中央公論新社
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――石田さんの作品の登場人物は仕事熱心な人が多いですよね。それと、筋トレや冷え性、脂肪吸引などが描かれていて、身体感覚に敏感な印象です。

石田:身体性とか見た目について書いてくださいって、すごく言われます。でも、そんなに興味ないかもしれません。それよりも、仕事をする人のひたむきさを書くほうが好きです。自分が新本格とか推理小説が好きなのも、推理して謎を解くという仕事をしている人の生真面目さというか、一直線な感じが好きだからかな、と、今喋りながら思いました。

――『ケチる貴方』の冷え性の主人公や、『ミスター・チームリーダー』のボディー・ビル大会のために身体を絞っている中間管理職の主人公は、仕事の状況がダイレクトに身体に変化を与えますよね。冷え性だったけれど部下に優しくしたら体が温まったので、その後は身体を温めるために優しくするようになる、とか。ああいう仕事と体の関連性も面白いです。

石田:消極的な理由になっちゃうんですけれど、自分はあまり心理描写を書きたいと思わなくて。「嬉しい」「悲しい」ってなんか、書いたもの勝ちになっちゃう気がするんです。なので、それを身体の描写に置き換えているのかなと思います。たとえば「緊張した」と書くよりは、「血圧が上がった」と書くほうが好きなんですよね。それが事実だから。
結局人間って、気持ちで生きていなくて、もっと即物的な気がします。人の性格って条件次第だなって思うんです。暑いとイライラするし、寒いと不機嫌だし、ポカポカ暖かいと優しくなる。人間ってその程度の生き物だよな、というのは生まれつき思っていることです。なぜそう思っているのか、自分でも分からないんですけれど。

――いろんな職種の人を書かれていますよね。たとえば『黄金比の縁』の採用担当、『我が手の太陽』の溶接工、『緑十字のエース』の工事現場の安全衛生管理責任者......。

石田:ことごとく、自分の身近にいる人ですね。そうでないと興味を抱けないところがあって。工事現場に行くこともありますし、採用の面接官をやったことはないんですけれど、自分もザ・就活をしたので「こういうことかな」と思うところはありますし。溶接工は施工管理の仕事をした時に一年くらい一緒にいました。溶接工は本当にすごいです。

――新刊の『緑十字のエース』は工事現場が舞台。訳あって大手デベロッパーを退職した主人公の浜地が、建設会社の契約社員となり、工事現場の安全衛生管理責任者に任命される。彼の教育係である年下のヤンキー、松本がめちゃめちゃ安全衛生管理に厳しくて、職人さんたちから疎まれているという。

石田:施工管理の仕事をした時、工事現場ってこうなっているんだ、という驚きがあって。結構カオスだったので、そこを書きたいと思いました。

――途中で浜地が現場の奇妙な状況に気づき、話がミステリっぽくもなりますね。そこから、いろんな人の狡さとか、ふがいなさも見えてくる。他の作品にも共通しますが、仕事する人のひたむきさを描きながらも、決して美談にならない方向にいきますよね。

石田:美談、大嫌いなので。人間とか世の中とかって汚いと思ってるんで、それを美化せずに書きたいですね。ほっこりとかも大嫌いです。すみません、なんか嫌いなものばかりで。

――その一方で、超バッド・エンドにもしないですよね。

石田:あ、確かに。めでたしめでたしにはしないけれど、ザ・バッド・エンドにもしないですね。バッド・エンドってのも嘘くさいと思うんですよね。たとえば、主人公以外の家族がみんな死んじゃった、という結末だったとしても、この人この後ご飯食べるんだろうな、って思っちゃう。オシッコとかするんだろうな、って思っちゃう。人間ってそんな劇的にショック受けなくね? と思ってしまうので、ザ・バッド・エンドを書くのは難しいです。

――絶妙なユーモアも石田さんの作品の魅力ですが、これは何かの影響があるのでしょうか。

石田:よく「お笑い好きなんですか?」と訊かれるんですけれど、全然知らなくて。人を笑わせたいとか、一人でも多くの人を笑顔にしたいということでは全くなく、単に、自信がないんですよね。ボケたら許されるかな、みたいな。自信がある人ってたぶん一回もボケずに最後まで書けると思います。私なんかは、自信がないところでボケちゃうんです。薫や誠二は1回もボケないで、ずっと緊張感を維持して書けるので、当然ですが、自分には一生真似できません。

――ひとかけらの笑いもないハードボイルドとか、書いてみたいですか。

石田:みたいですね。ただ、書けないと思います。

――3月下旬には中央公論新社からお仕事小説短篇集『ノーメイク鑑定士』が出ますよね。表題作は、取引先から「御社にスッピン社員がいる」と苦情がきて、主人公の女性社員にスッピン女子捜しの密命が下りるが......という。こちらの刊行も楽しみですが、この先、こんなものが書きたい、というのはありますか。

石田:いやー、ぱっと思いつきません。

――テロリストとかスナイパーとかスパイが出てくる話は、いつか書かれないのでしょうか。

石田:あ、どうなんだろう(笑)。書けたらいいと思います。

(了)