作家の読書道 第284回:石田夏穂さん
2020年に筋トレに励む女性が主人公の『我が友、スミス』で第45回すばる文学賞佳作を受賞しデビューした石田夏穂さん。実はその前は江戸川乱歩賞に応募していたのだとか。そんな石田さんが敬愛する作家は? 読書遍歴も創作についても、意外なお話たっぷりです。
その7「古処誠二作品に出合う」 (7/8)
――その後、はまった作家はいましたか。
石田:髙村薫さんの次に古処誠二さんが好きになりました。それが30歳くらいの時です。なんか硬派な話が読みたいなと本屋さんに行ったら戦争の話があったので、それを読んですごく好きになりました。
――古処さんはずっと戦争の話を書かれていますよね。どういうところがいいなと思ったのですか。
石田:登場人物がとにかく縦社会でストイックで、ほぼ仕事のことしか考えていないところです。戦場だから当たり前と言えば当たり前なんですけれど、上からの命令が絶対なんですよね。今俺はここにいて部隊はこうしなきゃいけないとか、何日までにあそこまで行かなきゃいけない、とか。あと、やっぱり描写が格好いいですね。ハードボイルドタッチで、心理描写が最低限しかないんですよね。たとえば「泣いた」みたいなことは書かずに、「汗を拭う仕草で目を擦った」とか「川で顔を洗った」みたいな表現で書くんです。オラオラと感情を書かないところにぐっときます。『ルール』とか『接近』とか『七月七日』とか、もう、全部の作品が好きです。
――今年文庫化された古処さんの『敵前の森で』の巻末解説は、石田さんがお書きになっていましたね。
石田:推しに近づいたオタクです。
――あの解説、めちゃめちゃ面白かったです。石田さんも古処さんも組織の中にいる人を書くという共通点があるんだ、と腑に落ちました。
石田:ありがとうございます。あと、古処先生は小説の中で「戦争反対」みたいなことは言わないじゃないですか。いい子ちゃんらしいことっていくらでも言えるけれど、それを言わない。そういう態度もすごく好きです。
――もちろん戦争礼賛でもないですしね。ただ淡々と書いている。
石田:そう、淡々と現場の人を書いている感じが、すごくいいなと思います。
――石田さんは今、お仕事されながら執筆時間をどう確保しているのですか。
石田:自分は朝書きます。4時くらいにパッと起きられるんですよ。これでおばあちゃんになったら何時に起きるんだろうっていう...。でも仕事終わりはもうヘトヘトで、水浴びたアンパンマンレベルで「もう寝る」となるので、夜は何もできないですね。
――残業は少ないのですか。
石田:私はすぐ帰っちゃうんです。残業している同僚を見捨てるのが得意です。「頑張れよ」と言って、無慈悲に定時であがりますね。
――土日も執筆されているわけですよね。本を読む時間はありますか。
石田:通勤の時や寝る前に読みます。でも、読むと「なんで他の人はこんなに上手なんだろう」と落ち込むことがあります、ほんと。
――ということは、国内の作家を読むことが多いのですか。
石田:同じものを何回も読んじゃうので、最近はもう本当に、薫、誠二、薫、誠二、薫、誠二......。こうやって人は大人になり年老いていくんだな、懐メロしか聴けない大人になっちゃうんだな、と、ひしひしと感じます。完全にお二方の作品が聖書化していますね。新しい本も読まなきゃと思っています。

