作家の読書道 第288回:森バジルさん
2018年に第23回スニーカー大賞《秋》優秀賞を受賞したのち、2023年に『ノウイットオール あなただけが知っている』で第30回松本清張賞を受賞した森バジルさん。単行本第3作『探偵小石は恋しない』が本屋大賞にノミネートされ注目度が高まる一方の新鋭は、どんな本を読み、どんな経緯で作家を目指してきたのか。リモートでたっぷりおうかがいしました。
その2「ブックガイドや創作指南書にはまる」 (2/7)
――小説家を目指して書き始めたのも早かったそうですね。
森:小6か中1から書いていましたね。中学生の時、マット運動をして足を骨折するというダサいことがありまして、学校には通っていたんですけれど土日は何もすることがないので、親が図書館に連れていってくれて、そこで1日過ごしていたんです。その頃は福岡にいた時期で、春日市の図書館でした。ちょうど小説を書きたいなと思っていた時期だったので、小説コーナーのほかに、小説の書き方コーナーや文芸評論が置いてあるコーナーに行ったりして。そこで大森望さんと豊崎由美さんの『文学賞メッタ斬り!』のシリーズを読みました。あの方々は毒舌でお話がめちゃくちゃ痛快なので、面白かったです。本にもいろいろ読み方があるんだとか、誤読というものもあるのかとか、などと鮮烈な驚きがありました。と同時に、そこでいろいろな作家や小説の名前を知って、読んでいないのに名前を知っている作家や作品が増えていきました。
――じゃあその頃にはもう、芥川賞や直木賞、三島由紀夫賞や山本周五郎賞といった賞のことや、純文学とエンタメといった分け方なども分かっていたわけですね。
森:なんとなく把握しているという程度ですけれど。そこで舞城王太郎さんや堀江敏幸さんを知りました。堀江さんは、いちばん文章を勉強したいなと思う人です。お二人が『雪沼とその周辺』をすごく褒めていたから読んでみたら、一文がすごく長くて、こんなに詳細に五感を描写するのかと思いました。
舞城さんは、『煙か土か食い物』などの奈津川サーガとか、『好き好き大好き超愛してる。』とかを読んで。『阿修羅ガール』はあの一文目がすごく好きでした。
――〈減るもんじゃねーだろとか言われたのでとりあえずやってみたらちゃんと減った。私の自尊心〉......あの書き出し、いいですよね。
森:いいですよね。あとは、金原ひとみさんの『アッシュベイビー』や清流院清水さんの『コズミック』も、「メッタ斬り!」で知って読んだ気がします。
その流れとは別に、綿矢りささんの『インストール』と『蹴りたい背中』、三並夏さんの『平成マシンガンズ』も読みました。15歳や17歳でデビューしたり、19歳で芥川賞をとったりできるなんて、めっちゃいいやんと思って。自分も中学生だけれども小説を出してます、みたいな顔をしてみたいなと思い(笑)、文藝賞に応募したんです。
その頃は文藝賞受賞作を結構読みましたね。羽田圭介さんの『黒冷水』とか、黒田晶さんの『メイド イン ジャパン』とか、山崎ナオコーラさんの『人のセックスを笑うな』とか。どれも面白かったですね。特に『黒冷水』は、兄と弟が出てくる家庭内ストーキングの話ですけれど、どうやってこんなことを思いつくんだろう、という描写があったりして。ものすごく面白かったです。
――ご自身では、どんな小説を書かれていたのですか。
森:その時は、普通に書いても勝てない自覚があったので、いかに中学生のリアルを書けるかが自分の強みになると勝手に思いこんでいました。それで、学園生活みたいなものを書きつつ、中学生でもこんなえぐいことを書けるんだぞ、みたいな感じて屁理屈を言ったり、ちょっとエロい言葉を出してみたりして。もちろん一次で落ちました。
――その原稿、残っていますか。
森:もう残っていないですね。まあ、見せられたものではないです。
――残念(笑)。図書館にあった小説の書き方の本はいろいろと読まれたのですか。
森:はい。この本なんですけれど(と、伏線が貼られた本を取り出す)、冲方丁さんの『冲方式ストーリー創作塾』。図書館で見つけて読みこんで、そこからさらに自分でも買いました。これは読み込みました。いろんな小説の書き方系の本を読むなかでこれも手に取ったんですけれど、冲方さんは『マルドゥック・スクランブル』などの自作を例にして説明されていたので、そこから冲方さんの小説をいろいろ読み進めていきました。結構、ライトノベル系の『カオス レギオン』や『ストーム・ブリング・ワールド』、デビュー作の『黒い季節』なども読みました。
――冲方さんの作品や創作論のどういうところに刺激を受けたのでしょうか。
森:文章が一文単位で軽妙で面白いところや、前のほうに出てきた台詞が最後に効いてくる回収の仕方とか。もちろん、単純にメインのアクション部分やカジノシーンの面白さもあるんです。なんか、レストランもしっかり美味しい遊園地みたいだなと思いました。アトラクション自体が楽しいのは大前提として、細部や本質ではない部分までも面白さを持っているのって、エンターテインメントとして理想だなと思いました。
ゲンロンのSF講座が書籍化されて『SFの書き方「ゲンロン 大森望SF創作講座」全記録』に冲方さんが話されていたことも収録されているんですけれど、冲方さんは、エンターテインメントって自分の世界に来てくれたお客さんをホストとしてもてなして、楽しんで帰ってもらうことだから、みたいなことを書かれていて。そのためにできることをすべてされているんだなというのが、本を読むと感じられて、本当に尊敬しているというか。目指したいなと思っています。
――そこから、ご自身が書くものも変わっていったのでしょうか。
森:そうですね。中学生の時に一回文藝賞に応募して満足したというか、そこで終わってしまった感じだったんですけれど、その後も新人賞のことは調べていましたね。あの賞は賞金がいくらだとか、締切がいつだとか。その頃は純文学も読んでいたんですけれど、中学校の図書館に『キノの旅』があって、友達に薦められて読んだら、ものすごく面白くて。でも、書店に行っても、角川文庫などの棚の場所は知っているけれど、そこにはぜんぜん置いていなくて。本屋さんの人に聞いていくうちに、ライトノベルという別の棚があるということが分かり、そこからライトノベルを読むようになっていきました。『スレイヤーズ』とか、甲田学人さんの『Missing』とか、上遠野浩平さんの『ブギーポップは笑わない』とか、うえお久光さんの『悪魔のミカタ』とか。スニーカー文庫だと「涼宮ハルヒ」のシリーズとか、『トリニティ・ブラッド』という、途中で作者が亡くなられて未完の作品とか。そういう作品を読み進めていくなかで、自分もライトノベルの賞に応募しよう、みたいな気になって。そもそも冲方さんもスニーカー大賞出身ですし。それで賞の情報を集める時も、ライトノベル寄りになっていきました。でも応募はせず、こんな話を書きたいというメモをちょっとずつ溜めていく感じでした。それが中学生の頃です。
――宮崎から一度福岡に引っ越しして、また宮崎に戻られたんですよね。いつくらいの頃ですか。
森:福岡には小5の夏から中1の終わりまでいて、中2から高校の終わりまで宮崎にいました。
福岡に行った時は、書店の大きさが全然違うなと思いました。当時4階建てのジュンク堂があって、本ってこんなにあるのかと衝撃を受けました。学校は、どちらかというと福岡のほうがやんちゃな雰囲気がありました。宿題をやってこない子がいたりして。で、やっぱり本を読むというのは真面目側のムーブという雰囲気があり、僕も「これ読んでいるんだぜ」というよりは、こっそり読んでいる感じでした。「まあ俺は真面目じゃないよ、漫画も読んでいますけれど」と擬態して、本を読んでいる感をそんなに出さないようにしていました。
中学生時代、宮崎で唯一カルチャーに触れられる場所がヴィレッジヴァンガードだったんです。行くと「こんなのがあるのか」というものが見つかるイメージでした。それで桜井亜美さんの『イノセント ワールド』を買ったんです。今回、この取材のために本棚を見返していてそれを見つけて、「こんなのがあった」と、ちょっと懐かしくなりました。知的障害を持つ兄とセックスするという話なんですけれど、1ページあたりの文字数が少ない独特な文字組なのが逆にねっとりした感じで、それが好きでした。
――国語の授業は好きでしたか。
森:国語については、俺は小説を書いているからお前らとは違うぜ、みたいな気持ちがあったんですけれど、たとえば選択肢からひとつ選ぶ問題で、「あ、こういう読み方をしても面白いな」と思うものがあるのに正解はそれではなかったりして、あまりピンとこないなと思っていて。なので、得意ではなかったかもしれないです。
読書感想文はすごく嫌いでした。相手が知らない本をどう面白く説明したらいいんだ、というのがあって。あらすじもちゃんと伝わっていない状態で感想を聞かされても、って感じだなと思ってしまって、ちょっと苦手でした。
――振り返ってみて、どういう子供だったと思いますか。
森:主張をあんまりしすぎないようにおとなしくしつつ、みたいな。やっぱり転校したりすると方言の違いとかもあるし、普通に喋っていても価値観の違いがあって、笑われることもあって。それで結構気を使いがちになっていったりはしていたなというのと、その一方で、もう絶対俺は小説家になるから、お前らの知らない一面ありますから、みたいな気持ちはちょっとあった気がします。
――部活や習い事はなにかされてしましたか。
森:福岡の中学にはバレー部がなかったのでテニス部に入って、宮崎に引っ越してからバレー部に入ったんですが、小学校の時に一緒にバレーのチームに入っていた子たちは中学でもずっとバレー部だったので、みんな上手いんです。僕はブランクがあるので、下手で。部活は辛かったです。
高校に入ってからちょっとだけ吹奏楽部に入ったんですけれど、1年くらいでやめてしまって。テナーサックスをやっていたんですけれど、学校の楽器を借りていただけだし、今はまったくできないです。高校ではバンドでギターを弾いたりしていました。
――バンドではどんなジャンルをやっていたのですか。
森:流行っていたのでRADWIMPSとか、KEN YOKOYAMAというHi-STANDARDの人とか、9mm Parabellum Bullet などをコピーしていました。後半はオリジナルも作っていました。
――森さんも作詞作曲をされていたのですか。どんな歌詞だったのでしょう。
森:曲を作って、こうやってくれ、みたいなことをベースやボーカルに教えたりしていました。歌詞は、まあ、恥ずかしいんですけれど、卒業間近に作ったものだと、モラトリアムがもう終わって自由にやっていかないといけないぜ、みたいな歌詞でした。

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