作家の読書道 第288回:森バジルさん
2018年に第23回スニーカー大賞《秋》優秀賞を受賞したのち、2023年に『ノウイットオール あなただけが知っている』で第30回松本清張賞を受賞した森バジルさん。単行本第3作『探偵小石は恋しない』が本屋大賞にノミネートされ注目度が高まる一方の新鋭は、どんな本を読み、どんな経緯で作家を目指してきたのか。リモートでたっぷりおうかがいしました。
その4「ライトノベルからミステリーへ」 (4/7)

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- 『1/2―デュアル― 死にすら値しない紅 (角川スニーカー文庫)』
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- 『オイレンシュピーゲル壱 Black & Red & White (角川スニーカー文庫)』
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- 『リミット (講談社文庫)』
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――でもスニーカー大賞《秋》優秀賞を受賞されたわけですよね。作品は『1/2―デュアル―死にすら値しない紅』というタイトルで刊行されました。
森:2018年に受賞して、2019年の1月1日に発売されたんですけれど、その1週間後くらいに「続刊を出すのは難しいです」という連絡をもらって、打ちひしがれました。
――近未来の日本で、殺された人がヒトとしての一部を失うと同時に特殊能力を得て生き返る現象が発生。偽生者(ワナビー)と呼ばれる彼らを殺し直す任務についた少年と、彼の相棒となった偽生者の少女の物語です。
森:能力バトルがやりたかったんです。冲方さんへの憧れがあって書いたものという気もします。グロテスクな描写は冲方さんの影響があると思います。
当時、担当編集者から女性主人公は厳しいということと、SF的な設定は難しいということを言われていて、半ば最初から諦めながら発売した、みたいな感じがあって。僕は「いやいや頑張りましょうよ」という気持ちだったんですけれど、結果、ぜんぜん振るわずに終わってしまって。
新しいシリーズの企画を考えることになったんですけれど、その間に担当さんが二人くらい変わったんです。僕の企画も拙くて、なかなか企画が通らなくて。もう本を出せる未来が見えないなと思いました。当時は「小説家になろう」などのサイトでちゃんと認知されたうえで本を発売してやっと土俵に上がれるくらいで、新人賞から出ても基本は厳しいという感じだったんです。先輩と話していても、これはちょっと未来が見えないなと思いました。
それで違うところにいこうと思った時に、自分はライトノベルに絞って考えていたけれど、そういえばミステリーも好きやん、って気づいて。ミステリーは自分には書けないと思っていたからライトノベルに応募していたのかもしれないです。それで、ミステリーを書いてみることにして、『このミステリーがすごい!』大賞などに応募して。『このミス』さんは相性が悪くて、一次で落ちたりしていたんですけれど。
――ミステリーの賞の中でも、本格度が高いものよりエンタメ性が高いところに応募したわけですか。
森:当時は本格ミステリーという言葉もよく分かっていなかったので。それに正直、次は絶対に売れたいと思っていたんです。前回のように、なんとなくデビューして、なんとなく駄目でした、となるのは嫌だったので、とりあえず賞金が高い賞に応募しようと思って。お金がほしいというよりも、賞金が高いということはそれだけインパクトがあるってことだと思ったんです。それで松本清張賞とか、江戸川乱歩賞とか、『このミステリーがすごい!』大賞に応募していました。その方針からはちょっと外れるんですけれど、一回、アガサ・クリスティー賞に応募して最終までいったんです。当時は早川書房の方が選考過程をよくツイートされていたんです。「今回はこういう作品がきた」とか「この作品はこの点がもうちょっと」とか。僕が応募した回の時は、「やばい作品がきた」「これはちょっととんでもないことになる」みたいなツイートをされていて。僕も最終には残ったので、「俺の可能性もあるな」と思っていたんですけれど、発表されたのは、「満場一致」という枕詞付きで、逢坂冬馬さんの『同志少女よ、敵を撃て』の受賞でした。みんなが大絶賛して、編集部も「これは売るんだ」みたいな気迫がすごく感じられて、初版部数もすごくて、書店員さんからのコメントもたくさん集まっていて、実際そのままどんどん売れていって、というのを目の当たりにしました。とんでもなく面白いものを書いたら売れるんだっていうのを痛感したのと、あと、とんでもなく面白い作品を書く人と一緒になったら、普通に受賞できないなって気づきました(苦笑)。
――森さんはどういう作品を応募されていたのですか。
森:特殊能力のある探偵が主人公で、犯人が誰か分かる目を持っているんです。けれど、クローズドサークルで人が殺されたのになぜか誰も犯人じゃない、という話でした。
――面白そう。
森:ちょっと粗くはありましたね。それと、冲方さんが『マルドゥック・ヴェロシティ』とか『シュピーゲル』シリーズで使われている、スラッシュなんかが多用されているクランチ文体で書いたんです。書いた本人の中では一応意味があったんですけれど、選考委員には伝わらなくて、「なぜこの文体なのか」みたいなことを言われたりして。まあ確かにそうですね、と自分でも思いました。
――乱歩賞や『このミス』に応募した作品も、特殊設定や、ちょっと変わった要素の入ったミステリーが多かったのですか。
森:そうですね。正直いうと、クリスティー賞で最終に残った原稿は、時期は違うんですが乱歩賞と『このミス』にも送りました。使いまわしはよくないんですけれど、こっちで一次で落ちた応募作があっちでは最終までいった、ということがあったりするので。犯人が誘拐事件をYouTubeで実況して、スーパーチャットしてくれたら解放すると言っている、みたいな話も『このミス』に応募して駄目だった後に清張賞に応募して最終までいったりしました。その話には、『探偵小石は恋しない』にも出てくる設定を使っていました。
――いろいろ応募されていたようですが、執筆ペースは速いほうなのでは。
森:年に2作くらい書いて応募していた気がします。まあ当時は結婚もしていないし、子供もいなかったんで。働きながらでもそれは全然できていました。
読書はもう完全に応募するための読書になっていました。誘拐の話を書くから誘拐の本を読もうといって、「誘拐ミステリー」で検索してばーっと出てくるものを読みました。歌野晶午さんの『さらわれたい女』とか、野沢尚さんの『リミット』とか、相場英雄さんの『血の雫』とか。
応募する賞の受賞作も読みました。『このミス』だったら歌田年さんの『紙鑑定士の事件ファイル』とか、新川帆立さんの『元彼の遺言状』とか。清張賞では、波木銅さんの『万事快調〈オール・グリーンズ〉』がすごく面白くて。スニーカー大賞に応募した時もそうだったんですけれど、やっぱり自分が読んで面白いと思う作品を出している賞に応募するのがいちばんいいなと思って。それで、『万事快調』が面白かったからここに応募しようということで、清張賞に応募しました。
――『万事快調』は、女子高校生たちがあまりに閉塞感がありすぎる人生を打開するために、園芸部で栽培してはいけないものを栽培する話です。軽快で、固有名詞がガンガン出てくる作品ですよね。
森:こんなに固有名詞を出してもいいんだと思って、そこは影響を受けていますね。あと、清張賞って本当にノンジャンルなんだなとも思って。波木さんが受賞した前の年の受賞作は中国の歴史もので(千葉ともこ『震雷の人』)、その後でこれが受賞するということは、本当になんでもいいんだなと思いました。









