作家の読書道 第288回:森バジルさん
2018年に第23回スニーカー大賞《秋》優秀賞を受賞したのち、2023年に『ノウイットオール あなただけが知っている』で第30回松本清張賞を受賞した森バジルさん。単行本第3作『探偵小石は恋しない』が本屋大賞にノミネートされ注目度が高まる一方の新鋭は、どんな本を読み、どんな経緯で作家を目指してきたのか。リモートでたっぷりおうかがいしました。
その7「最近の読書生活&活動」 (7/7)
――最近の本も含めて、デビュー以降に読んで面白かった本を教えてください。
森:圧倒的に面白かったのは、夕木春央さんの『方舟』と、青崎有吾さんの『地雷グリコ』です。自分だけでなく、みんなが好きな本ですけれど。それと、長谷川まりるさんの『呼人は旅をする』。長谷川さんは話題になった『杉森くんを殺すには』の著者なんですけれど、こちらの本もすごく面白くて。何かを呼び寄せてしまう性質の人がいる、という設定なんですね。たとえば雨を呼び寄せてしまう子なんかは、その子がずっといるとその場所が雨続きになっちゃうので、日本各地を転々としなくちゃいけない。マイノリティーの問題をそういうファンタジーで描いているんです。こういう描き方ができるのかと思って、それがすごくよかったので。ミステリー的、エンタメ的に面白かったのは『方舟』と『地雷グリコ』なんですけれど、それとは違う領域で面白かったのが『呼人は旅をする』。それと最近読んだなかでは、石田夏穂さんの『黄金比の縁』です。
――ああ、新卒採用試験の面接官になった女性の話ですよね。
森:そうです。純文学なのかなと思って読み始めたんですけれど、めっちゃエンタメ的な面白さがありますね。短いので一気に読めるけれど、すごい読後感というか。なんか、「本を読んだな」っていう感じがしました。体験としてすごく面白かったです。
それと、綾辻行人さんの『十角館の殺人』は、十代の頃に読んだと記憶していたんですけれど、社会人になってからかもしれません。ミステリーの勉強用に読んだ気がするんです。読んで、「こういうことをやりたいな」と思ったのを覚えています。
あとは朝井リョウさん。『生殖記』や『イン・ザ・メガチャーチ』、『正欲』とか。どれも面白くて、もう朝井リョウがあらゆるエンタメを書けばいいじゃないか、と思ったりもしました。僕もやりたいなと思っていたことを、どれも僕が考えていたより高いクオリティの小説で実現されていて、すごいなと思っています。
純文学だと、日比野コレコさんの『ビューティフルからビューティフルへ』は誰かにお薦めしてもらって読んだんですけれど、すごいパンチラインがいっぱいありました。攻撃力の高い一文があるんですよね。市川沙央さんの『ハンチバック』もそうですよね。こういう小説って、意外と今の時代のショート動画に慣れた若者に刺さるんじゃないかと最近思っていて。面白い文がたくさん入ってるから、全部読めなくてもその部分を拾っていくだけで楽しめるんじゃないかっていう。エンタメとかだとどうしても待ちの部分があるんですよね。たとえばミステリーだと、死体が出てくるまでに時間がかかるので、そこがつまらないと言われることがあるので。意外と純文学のほうが、今の若者に読まれるんじゃないかなって、最近ちょっと思っています。
海外作品では、『ワニの町に来たスパイ』シリーズが好きですね。ポップなミステリーを書こうと思った時に検索したら出てきて、読んでみたらすごく面白かったです。
――最近は、ノンフィクションや漫画などは読みますか。
森:読む時は読みます。ちょっと前の本ですけれど、酒井順子さんの『容姿の時代』がすごく好きでした。切れ味がよくて。あと、令和ロマンの高比良くるまさんの『漫才過剰考察』とか。
漫画では『さむわんへるつ』というラジオの漫画がすごく面白くて。たぶん、これからどんどんアニメ化とかされていくだろうなという感じです。あとは、サブカルよりの漫画でいうと『ドロヘドロ』とか。平方イコルスンさんという方の『スペシャル』も相当好きです。ちょっと田舎の高校生の雰囲気感がすごく出ていて、会話が面白くて。こんな小説を書きたいと思ったりします。他には『メダリスト』とか、『スキップとローファー』とか『ワールドトリガー』いったメジャーどころとか。それとやっぱり、『HUNTER×HUNTER』が一番好きで、連載再開を心待ちにしています。
――映画もいろいろご覧になっていますよね。
森:大学時代から結構観ていて、「ライフ・イズ・ビューティフル」がすごく好きだったんですけれど。あとは、ガイ・リッチー監督の作品がすごく好きですね、「スナッチ」とか「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」とか。点と点が線に繋がっていく感じや、伏線の回収がすごく面白い。それと、やっぱり「パルプ・フィクション」はすごく好きで、何回も観返しています。
――好きになったものは本でも映画でも繰り返し見るタイプですね。
森:見返さないといけないなと思うところもあります。子供の頃、家にある本が限られているから自然と何回も同じ本を読んでいたんですよね。すると、読み直した時にやっぱり発見があるし、内容も憶えるし、このシーンが好きだな、みたいなものが深まっていくところがあって。大人になってからはどうしても一回しか読めなくて、そうするとすぐ内容を忘れてしまうし......。なかなかできないんですけれど、できるだけ読み返したいなというのはすごく感じています。
――読書日記や記録はつけていますか。
森:「ビブリア」という読書管理アプリで記録だけはつけています。公開されない形で本を登録できるアプリです。「読書メーター」のように公開されるアプリもありますけれど、そうすると自分の場合は変なバイアスがかかりそうなので。
最近はちょっとずつメモもつけています。三宅香帆さんとか「ゆる言語学ラジオ」の堀元見さんとか、みんな読書メモをつけていると聞いたんです。確かにメモしながら読んだほうがいいなということにやっと気づいたところです。
――読みながらメモをつけるのですか。
森:読みながら、ですけれど、まだあまりできていないです。付箋は貼っています。ここがいいなとか、ここはパンチラインだなと思うところに貼って、読んだ後に見返したりしています。
――『探偵小石は恋しない』にはさまざまな既存の作品が出てきますが、基本的に森さんがお好きな作品なのですか。
森:そうですね。『六人の嘘つきな大学生』とか『GOTH』とか、『方舟』とか、早坂吝さんの『〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件』とか、自分が好きな作品を出そうと思っていました。「出てくる本を読んでみよう」と言ってくれている感想見かけたりて、それがすごく嬉しいです。
――現在は、どのような一日を送っているのでしょうか。会社に行っていた時間帯に執筆しているのですか。
森:そうですね。子供を保育園に送って、九時くらいに帰ってきて、そこから迎えに行く五時くらいまでですね。途中で休憩したり、本を読んだり、散歩に行ったりもするんですけれど、基本はその時間帯に書いています。切羽詰まっている時は夜も書きます。今のところ専業になってからずっと切羽詰まっているんで、夜もずっとやっているんですけれど。
――そんなお忙しいなか、『殺し屋の営業術』で江戸川乱歩賞を受賞した野宮有さんとポッドキャストを始められましたよね。野宮さんとはお知り合いだったのですか。
森:お互いに存在は知っていたんです。僕はもちろん知っていたし、野宮くんもインタビューで僕の名前を出してくれていたりして。一人でも知り合いを増やしておきたかったので、東京に行く機会があった時に野宮くんに「ちょっとご飯食べませんか」って僕から誘ったんです。
――お二人はライトノベルで一度デビューしているという共通点もありますしね。
森:そうですね。ライトノベルから始まって、お互いいろいろあって文芸に来て、文豪の名を関した賞をいただいて、二人とも福岡に縁があって......。だいぶ共通点が多かったので、さすがに無視できないというか、喋りたいなと思っていたんです。
それとは別に、専業になったら何か違うことをしたいと考えていて、ポッドキャストがいいな、と。誰か一緒にやってくれないかなと思っていたんです。野宮くんとお昼ご飯を食べた時に、深夜ラジオが好きだという話をしていたので、これは切り出してみるかと思って。「ちょっとポッドキャストやらない?」って。
――ポッドキャストがいいなと思ったのはどうしてでしょう。
森:大勢の人に聞いてもらいたいというよりも、自分のために喋ることができる場があるといいかなって。こういうインタビューを受けていても、自分はうまく話せていないなと感じるし、話すことには技術が必要だなと思うと、数を重ねていったら多少よくなるんじゃないかというのがあって。まあ、いちばんの理由は、専業になったら人と会話する機会が減るから、無理やりにでも会話する機会がほしかったんです。頭の片隅には、朝井リョウさんと加藤千恵さんのポッドキャストがめっちゃ面白い、ということもあった気がします。
――お二人はリモートで会話して、それを録音して編集しているわけですよね。トークテーマはどのように決めているのですか。
森:台本はありません。隔週で二回分ずつ録っていて、毎回お互い一個ずつ、これを話そうというのを持ってきて話し始めるという感じです。
――お二人ともお話上手だし、お互いとのリズムもムードもいい感じです。すごく気が合う二人という印象です。
森:ありがとうございます。考えてみたら結構ギャンブルだったというか。気が合わなかったり、野宮くんがやばい奴だったりしたかもしれないけれど(笑)、やってみたら野宮くんがすごく面白いし、邪気がない人なんです。なんか純粋な部分があるところがすごく好きで、とても楽しくやっています。
――今後のポッドキャストも楽しみですが、執筆活動も気になります。
森:『探偵小石は恋しない』の続篇を書いています。「なんスタ(なんで死体がスタジオに!?)」の時はプレッシャーを無視できたんですけれど、今回はやっぱり、プレッシャーを感じていて......。ちょっと前作とは違う土俵というか、違う構成にしたいと思っています。たぶん、前後篇に分けて「STORY BOX」で連載して、9月末刊行を目指しています。
来年はミステリーではないものも出したいと思っています。今言えるものだと、「小説新潮」に掲載している「演じろ、櫛田」という、演劇の青春小説とか。トリックや派手な伏線回収のない純粋な青春小説で、自分でもすごく気に入っている作品です。他にも何冊か出したいものがありますが、どれもミステリーではない小説になりそうです。頑張って書いていきたいなと思っています。
(了)

























