第288回:森バジルさん

作家の読書道 第288回:森バジルさん

2018年に第23回スニーカー大賞《秋》優秀賞を受賞したのち、2023年に『ノウイットオール あなただけが知っている』で第30回松本清張賞を受賞した森バジルさん。単行本第3作『探偵小石は恋しない』が本屋大賞にノミネートされ注目度が高まる一方の新鋭は、どんな本を読み、どんな経緯で作家を目指してきたのか。リモートでたっぷりおうかがいしました。

その5「清張賞を受賞してから」 (5/7)

  • ノウイットオール あなただけが知っている (文春文庫 も 37-1)
  • 『ノウイットオール あなただけが知っている (文春文庫 も 37-1)』
    森 バジル
    文藝春秋
    979円(税込)
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  • The MANZAI 上 つきおうてくれ (ポプラ文庫ピュアフル)
  • 『The MANZAI 上 つきおうてくれ (ポプラ文庫ピュアフル)』
    あさのあつこ,loundraw
    ポプラ社
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  • おもろい以外いらんねん
  • 『おもろい以外いらんねん』
    大前粟生
    河出書房新社
    1,540円(税込)
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  • 火花 (文春文庫 ま 38-1)
  • 『火花 (文春文庫 ま 38-1)』
    又吉 直樹
    文藝春秋
    715円(税込)
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  • はつなつみずうみ分光器 after 2000 現代短歌クロニクル
  • 『はつなつみずうみ分光器 after 2000 現代短歌クロニクル』
    瀬戸 夏子
    左右社
    2,420円(税込)
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  • 柴犬二匹でサイクロン
  • 『柴犬二匹でサイクロン』
    大前粟生
    書肆侃侃房
    1,870円(税込)
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――松本清張賞を受賞した『ノウイットオール あなただけが知っている』は、同じ町を舞台にした連作短篇集ですが、一篇一篇が異なるジャンル小説になっていますね。これは清張賞に出そうと思って考えたものなのですか。

:アイデアを思いついたのが先です。ジャンルが違う五つの短篇を連作にしようと思いついたのが1月くらいで、頑張って書けばどの賞の締め切りにも間に合うタイミングだったんですけれど、清張賞がジャンルを問わないと書いてあるからいいなと思い、そこに向けて書いていきました。

――ひとつの小説に五つのジャンルを入れようと思ったきっかけって何かあったのですか。

:正月に地元に帰った時、映画館で「ラストナイト・イン・ソーホー」を観たんです。女の子が田舎から出てきて、都会でいろいろ過ごすうちに事件に巻き込まれるという、ホラーとファンタジー的な要素がある話なんですけれど、いろいろあって最後に家が燃えるんですね。そこで消防士の人が火を消している姿がちらっと映って終わるんです。それを観て、主人公の女の子にも紆余曲折があったけれど、今ちらっと映った消防士の人も「バックドラフト」的な、消防士としてのお仕事もの的なストーリーがあるなと思った時、それを全部やっちゃったら面白いのではと思い至りました。お仕事ものとかホラーとかファンタジーとかミステリーとか、ひとつの小説のなかで全部繋げちゃえるんじゃないかと。

――探偵小説、青春小説、SF、ダークファンタジー、恋愛小説が入っていますが、たしか青春小説と恋愛小説を書くのはこれがはじめてだったんですよね?

:そうですね。青春と恋愛をはじめて書きました。それまでは小説って非日常を書けるのが楽しいんじゃないかと思っていたんです。でもこれを書いてみて楽しかったし、評価が高かったのも青春短篇だったりしたので、意外と非日常じゃない部分を書く面白さってあるんだなと気づけました。

――青春短篇は、漫才コンビを始める女の子たちの話ですけれど、お笑いはもともと好きだったのですか。

:お笑いを好きになったのはわりと最近ですね。高校くらいまでもM-1は毎年楽しみにしていたんですけれど、宮崎はテレビのチャンネルの数が限られているし、劇場も全然なくて、なかなかお笑いを追いかけるのが難しかったんです。宮崎出身のお笑い芸人さんは結構いるんですけれど。永野さんとかとろサーモンさんとか蛙亭のイワクラさんとか。
2019年のM-1でかまいたちさんの漫才がすごく面白くて、さらにそれを上回るミルクボーイさんの漫才で最高得点が出てモメンタムを感じたことと、TVerとかでバラエティが見られるようになったことが大きかったですね。バラエティって結構、他の番組であったくだりを下敷きにして、別の番組で話を広げるところがあるんですよ。たとえば「あちこちオードリー」のハライチさんの回で、相方の春日さんと澤部さんは漫才師じゃなくて受け取り師だ、ネタを受け取ってやってるだけだ、みたいなくだりが盛り上がったんです。それを下敷きにして、他の番組で「お前は受け取り師だろう」というやりとりがあって。バラエティが徐々に点ではなく線で見らえるようになったというか、コネクティングドッツ的な感じになっていったことで、よりのめり込んでいきました。それまでテレビを録画してまで見る必要はないと思っていたんですけれど、TVerでボタンひとつで見逃した番組も見られるようになって。妻が結構テレビを見る人なので、結婚してから自然と二人で見るようになりました。一人ではわざわざ見ないけれど、二人で話しながら見ると見やすいな、というのもあったりして。
それで、やっぱりM-1が面白いから題材にしようと思いました。お笑いの小説はあさのあつこさんの『THE MANZAI』も好きでした。大前粟生さんの『おもろい以外いらんねん』、又吉直樹さんの『火花』も読んでいたので、芸人の哀愁みたいなところではなく、明確にスポーツとして青春小説でお笑いを書こうと思いました。

――『ノウイットオール』の恋愛小説のパートでは、短歌が重要なアイテムになりますよね。短歌はお好きなのですか。

:すごく好きです。きっかけは何だったか憶えていないですけれど、高校の授業でも短歌を取り上げていて、URLをそのまま書いている短歌があったりして尖っているなと思っていました。その時はそう思うだけで止まっていたんですけれど、その後、宇野なずきさんがtwitterで現代短歌を書かれているのがよく流れてくるので宇野さんの同人誌っぽいものを買って読んだら、いい短歌がいっぱいあって。あと、木下龍也さんの歌集を読んだら凄まじい短歌がいっぱいあって、そこからはまっていきました。
兼業で作家をやっているとなかなか本を読む時間がないんですけれど、短歌は気軽に、どのページからもぱっと読めるので、結構歌集は買っています。
瀬戸夏子さんが『はつなつみずうみ分光器:after 2000 現代短歌クロニクル』という本で短歌の歴史みたいなものを解説されているんです。短歌はもともと文語で書かれていたんだとか、自分のことを書くものだったのをカウンターで今こうなっているんだといったことは、その本で知りました。

――作中の短歌以外でも、ご自身で詠まれたりするんですか。

:最近はできていないんですけれど、『ノウイットオール』でデビューした年に、短歌の賞も獲れたら熱いなと思って応募したんですけれど、全然駄目でした。でも自分の歌集は出したいなと思っています。

――ああ、作家の方も歌集出していますよね。大前粟生さんの『柴犬二匹でサイクロン』とか。

:そうですよね。大前さんも出されていますよね。

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