作家の読書道 第288回:森バジルさん
2018年に第23回スニーカー大賞《秋》優秀賞を受賞したのち、2023年に『ノウイットオール あなただけが知っている』で第30回松本清張賞を受賞した森バジルさん。単行本第3作『探偵小石は恋しない』が本屋大賞にノミネートされ注目度が高まる一方の新鋭は、どんな本を読み、どんな経緯で作家を目指してきたのか。リモートでたっぷりおうかがいしました。
その6「単行本2作目、3作目の挑戦」 (6/7)
――『ノウイットオール』は、この新人はどんなジャンルでも書ける、と思わせましたよね。そのぶん、2作目で何を書くのかは、プレッシャーもあったのでしょうか。
森:そこは逆に、プレッシャーは絶対に無視しようと思いましたし、わりと無視できたと思います。もう、好きなものを書こうと思いました。その時期にちょうど山里亮太さんのトークライブに行ったら番組出演の話をされていて、生放送って面白いなと思ったので、自然な流れで生放送の話を書こうと思いました。生放送で死体が出てきたら面白いなっていうのも、わりと自然に思いついたんです。プロットもすんなり通りました。
タイトルや装丁をもっとミステリーっぽくするやり方もあったかもしれませんが、自分は本格ミステリーの素養があります、というわけでもないし、そこまでミステリーの人と思われたくない気持ちがあって。いろんなジャンルを書く人だって思われていたいなというのは今でもあります。
――ああ、そうなんですね。『なんで死体がスタジオに!?』の次が『探偵小石は恋しない』だったので、森さんはミステリー方向にシフトしているのかなと思ったんですよ。
森:3作目に『探偵小石は恋しない』を出すことによって、そういう目で見られるだろうとは思っていました。でも、これまで依頼をくださったのは『ノウイットオール』を読んだからという版元さんが九割くらいなんですけれど、青春の話がよかったから青春小説をとか、恋愛と短歌がよかったからまたそれを絡めてとか、依頼内容はすごくいろんな種類があって。そのなかで、たまたま次に書くことになった小学館さんの依頼が、第一章がよかったから、ああいう個性の強い探偵の話を書いてくださいというものだったんです。いろんなジャンルを書いていきたいというのがありつつ、結果的にミステリーが続いたという形ですね。
――では『探偵小石は恋しない』は、どのように考えていかれたのですか。
森:個性のある探偵ということと、恋愛の話を入れてほしいという依頼だったので、じゃあどうするかと考えた時に、『名探偵コナン』の毛利小五郎が、探偵の仕事って浮気調査とかペット捜しばかりだよと言っている印象があったのを思い出して。個性的な探偵と不倫調査を掛け合わせたミステリーって、意外とあまり書かれていないのでは、と思いました。それで、5章立てで、第1章から3章までは不倫調査の話で、過去篇があって、最後はひっくり返すというような構成を考えて、プロットを出して、OKをいただきました。
――その最後のひっくり返し方がめちゃめちゃ大胆だったのですが。あれはもう、やってやろう、という気持ちで?
森:そうですね。その気持ちが強かったですね。でも、ただやるだけだと「なんでそれやったの?」という話になっちゃうなと思ったりもして。作品とテーマと絡めて、そういうことをやる必然性を考えました。さきほど話していて思ったんですけれど、アガサ・クリスティー賞に応募してなぜクランチ文体なのかと言われた時の、明確に必然性が伝わらないといけないんだという印象が残っていたからこそ、このトリックにする必然性を入れたいと思ったのかもしれません。
――確かに、「そういうことだったのか!」という、驚きと納得が増幅されますよね。そして刊行してからは大変な評判となり、本屋大賞にもノミネートされましたね。
森:ありがたい限りです。もう、版元のみなさんと、たくさんコメントをくださったり店頭で推してくださったりした書店員の方々のおかげです。こういう景色を見たかったなって思いました。ライトノベルで売れなくて、自分がなかなかうまくいかない時に『同志少女よ、敵を撃て』が売れていくのを見て、規模はまだ違いますけれど、あれと近しい感覚を味わえるといいなと思っていたので、本当にありがたいです。
――そのあと、会社を辞められたのですか?
森:はい。ノミネートが決まったら辞めようと思っていました。そもそも専業作家になりたいという話はずっとしていて、妻にも「いいよ」と言われていたんですけれど、とはいえ自分も不安なので、何か一個自信につながるものがほしくて。それで、ノミネートされたら辞めるということにしていたら、今年年明けにノミネートの話をいただいたので。もうちょっと、子育てと仕事と小説の全部をやるのは無理だということもあり、辞めました。
まあ少なくとも3年くらいは作家業に専念して、どこまでいけるかやってみようというところです。
――辞めてからまだそこまで時間は経っていませんが、執筆時間は増えましたか。
森:明確に増えました。単純に、会社に行っていた時間が書いている時間になったので。あと、本を読む量とか、映画を観たりする量も増えたと思います。締切があるタイミングだと無理なんですけれど、ゆっくり映画に行ったりできるようになりました。




