作家の読書道 第290回:夕木春央さん
2019年にメフィスト賞を受賞した『絞首商會』(応募時のタイトルは「絞首商會の後継人」)でデビュー、2022年刊行の『方舟』が大ヒットした夕木春央さん。古典的なミステリの名作を時代順に読んできたという夕木さんの好きな作家と作品、小説を書き始めたきっかけは? 自作についてもたっぷりおうかがいしました。
その4「家を出て読書に耽る」 (4/7)
――20歳くらいの頃に、家を出られたのですね。
夕木:いろいろ状況が整って出られるようになった感じです。まあ、あんまり人生に対して気力があったわけでもなかったんですけれど、とにかく家は出たかったんです。アルバイトをしつつ、本を買い込んでそこに籠って読んで、なるべくお金のかからない生活をしていました。
――その頃はどんなものを読まれていたのでしょうか。
夕木:SFも、アーサー・C・クラークから読み始めて、古典のめぼしいものを順に読んでいくという感じでした。
――『幼年期の終り』とか『2001年宇宙の旅』とか?
夕木:そうですね。
――そういえば夕木さんの作品にも、SF作品が登場しますよね。ヴォネガットの『タイタンの妖女』とか、オーウェルの『一九八四年』とか。
夕木:そうですね。『楽園』で『タイタンの妖女』、『十戒』で『一九八四年』に触れていますね。他にSFで印象に残っている作品でいうと、ティプトリーの『たったひとつの冴えたやりかた』。あれも、ある種の論理を突き詰めた先にああいう結末に至るんですよね。論理と情緒が組み合わさったお話、みたいなところがあると思うんです。
――夕木さんの作品には他にも実在の小説が結構登場しますよね。
夕木:具体的な意味を持って出している場合もあれば、いわゆる雰囲気づくり程度であることもあります。
――きっと、それをきっかけに「この作品も読んでみようかな」と思う読者の方もたくさんいると思います。
夕木:僕もそういうことをきっかけに本を手に取ったりするので、その期待はあります。
――ところで、ひとり暮らしを始めたということは、漫画やアニメや映画やゲームも好きなだけ楽しめるようになったわけですよね。
夕木:その頃に漫画と映画は結構いろいろ触れました。漫画だと、少し前に完結した市川春子さんの『宝石の国』が好きでした。これは別に意識していたわけではないんですが、漫画も結構、現代を舞台にしていないものを手に取ることが多かったかもしれません。漆原友紀さんの『蟲師』も好きです。
――海外ミステリはチェスタトン以外、なにか好きな作品はありましたか。
夕木:黄金期以降の海外作家はちらほら読んではいるものの、日本人作家の作品ほどはしっかり読んでいないかもしれません。それこそ逆説の話でいうと、デアンドリアの『ホッグ連続殺人』は大好きですね。
クイーンなんかは代表作といわれているものは結構読んだと思います。いわゆる意外な推理を主眼にしたミステリというものがあるということは、『ローマ帽子の謎』を読んではじめて理解したんですよね。あれはクイーンの中ではそんなに名作とは言われていないんですけれど。ロジックを中心にしたミステリがあるんだということを理解するきっかけになりました。そういう意味では自分の中では重要な作品です。
――ミステリのガイドブックなどは読みましたか。
夕木:読みましたね。そこで紹介されている海外の古典を一通り読んでいったんですけれども。まあ、そのせいでクリスティーの『アクロイド殺し』はネタバレを喰らいました。その頃のものって、いろんな本の中で遠慮なしにネタを割っていたりするんです。
2012年くらいに文春の『東西ミステリーベスト100』の改訂版が出たのでそれを買って、まだ読んでいないものを探したりもしました。
――そこから見つけた本は面白かったですか。
夕木:そこから知った好きな作品だと、稲見一良さんの『ダック・コール』などがあります。おそらく、ランキングで目にしなければ手に取らなかった作品です。














