第290回:夕木春央さん

作家の読書道 第290回:夕木春央さん

2019年にメフィスト賞を受賞した『絞首商會』(応募時のタイトルは「絞首商會の後継人」)でデビュー、2022年刊行の『方舟』が大ヒットした夕木春央さん。古典的なミステリの名作を時代順に読んできたという夕木さんの好きな作家と作品、小説を書き始めたきっかけは? 自作についてもたっぷりおうかがいしました。

その6「現代ものの『方舟』『十戒』『楽園』」 (6/7)

  • 方舟 (講談社文庫 ゆ 10-3)
  • 『方舟 (講談社文庫 ゆ 10-3)』
    夕木 春央
    講談社
    913円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HMV&BOOKS
  • サーカスから来た執達吏 (講談社文庫 ゆ 10-2)
  • 『サーカスから来た執達吏 (講談社文庫 ゆ 10-2)』
    夕木 春央
    講談社
    1,001円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HMV&BOOKS
  • 十戒 (講談社文庫 ゆ 10-4)
  • 『十戒 (講談社文庫 ゆ 10-4)』
    夕木 春央
    講談社
    913円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HMV&BOOKS
  • 楽園
  • 『楽園』
    夕木 春央
    講談社
    1,980円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HMV&BOOKS

――どの作品も基本的に、名探偵が登場するというより、主人公たちが事件に巻き込まれる形が多いですが、それはこだわりがありますか。

夕木:謎を解くことを目的ではなく手段にしたいと思っているので、探偵の動機というものを考えることは多いです。探偵役に謎を解く以外の目的があって、その過程で謎を解かないといけないという形で話を進めたいと思っていて。そうすると必然的に、探偵役が事件の当事者になる形になるんです。なので、作中に探偵役はいるけれど、探偵はいない感じですね。
謎を解くことが目的であるというのは、ひとつ現実から外れた設定になるんですよね。であれば、それを用いずにお話を構成できないかと思っています。読者としてはそんなにそれを求めていないんですが、書く時にはそういう角度から考えることが多いです。

――目的のための手段として謎を解かざるを得なくなるといえば、2022年刊行の『方舟』です。現代が舞台のクローズドサークルものですが、非常にひねりのある設定です。これはどのように生まれたのですか。

夕木:『方舟』が生まれたのは、なんといっても『サーカスの執達吏』の売り上げを踏まえてのことなんですけれども。その時、次作として「原稿用紙400枚程度」「舞台は現代」「最後に驚きがあるもの」...という感じのお題をいただいたんですね。編集者がどういう意図でそう言ったのか、いま僕の口からは正確には再現できないんですけれども。
もともとシチュエーションに関するアイデアは持っていたので、それらの提案を受けて、じゃあ舞台にするのはこんなところで、などとあてはめていってプロトタイプを作り、「じゃあそれでいきましょう」ということになりました。

――山奥の地下建築に複数の男女が閉じ込められる。浸水するなか、脱出するには誰かひとりを犠牲にしなければならない状況下で殺人事件が発生。みな、犯人が犠牲になればいいと考える。生き残るために殺人犯を見つけるという、めちゃくちゃ切迫した特殊な状況ですよね。

夕木:僕の場合は、何か特殊な状況を設定し、その状況でしか起きないことを探すという順序でアイデアを考えることが多くて、『方舟』もそうかなと思います。シチュエーションになにか特殊性があったら、そこで起きることも必然的に特殊なことになりうるし、それがミステリのアイデアとして機能するものになることが多いので。現代ものはそういう順序で考えていると思います。

――何を話してもネタバレになりそうですが、『方舟』を書いた時に、『十戒』『楽園』の構想はあったのですか?

夕木:当初は『十戒』『楽園』の予定はまったくなかったです。本当に、とにかく泥縄式というかライブ感というかで書いていました。

――「方舟」というと『旧約聖書』に出てくる「ノアの方舟」ですが、これはたまたまだったのですか。

夕木:たまたまですね。もともとの宗教体験で聖書的なものにはやや馴染みがあるんですけれども。でも構想段階では、「方舟」をピンポイントで考えていたというよりは、漠然と黙示録的なものを考えていました。

――『方舟』は大・大・大評判となりました。

夕木:おかげさまで、これまでよりは文化的な暮らしができるようになりました。

――そこから同趣向のものとして『十戒』や『楽園』を書きましょうということになったのですか。

夕木:内容も何もないうちに、『十戒』や『楽園』で何か書きましょうというお話しだけしました。その頃ぼんやり考えていたシチュエーションのアイデアが『十戒』というタイトルに合いそうだったので、そこから考えました。

――『十戒』は男女が複数集まった孤島で殺人事件が発生、しかし何者かが「この島にいる間、殺人犯が誰か知ろうとしてはならない」ということのほか、いくつかの戒律を課してくる。

夕木:犯人を見つけてはいけないというシチュエーションが戒律を課されている状況に重なるので、これを書いて『十戒』にすることにして、書き上げたら、「じゃあ『楽園』も書きましょう」ということになって。

――最新刊の『楽園』ではある場所に閉じ込められた主人公らが、まず、「一人殺せば脱出できる」という状況になります。

夕木:やはり最初にシチュエーションを決めました。そうすると、「このアイデアをやるならこうあるべきだ」という条件も自然と決まっていくので、その条件を満たすものを必死で探すという感じです。

» その7「最近の読書と今後」へ