作家の読書道 第290回:夕木春央さん
2019年にメフィスト賞を受賞した『絞首商會』(応募時のタイトルは「絞首商會の後継人」)でデビュー、2022年刊行の『方舟』が大ヒットした夕木春央さん。古典的なミステリの名作を時代順に読んできたという夕木さんの好きな作家と作品、小説を書き始めたきっかけは? 自作についてもたっぷりおうかがいしました。
その7「最近の読書と今後」 (7/7)
――大正もの、現代ものと発表されて、今後はどんなものを書いていきたいですか。
夕木:ミステリとして理想だなと思っているのは、物語的なものと、いわゆるミステリの論理的なものが不可分になっている小説ですけれども、そのどちらがどちらかのためにあるのか、読者目線では区別がつかない状態になっているところを目指しています。
――どこの時代、どこの場所であろうと?
夕木:そうですね。心が大正時代に生きていたので大正時代ものが書ければと思っていましたが、『方舟』で現代ものが描けたので、まあ、あまり自分に何が書けるのかは決めないでおこうかなと。
――ああ、確かに現代ものでは電子機器なども絡んでくるので、大正時代を舞台にしたら成立しませんよね。一方で大正ものでは、戦争や関東大震災も関わってきますよね。
夕木:自分の実力でどこまでできるかということはあるんですけけれど、やっぱり、その時代である必然性というものは常にほしいとは思っているんですよね。現代なら現代の、大正なら大正の必然性がほしいなというのはあります。
――その後、読書生活に変化はありましたか。
夕木:昔ほどは読めなくなりました。やっぱり資料として読むものの比重が増えてしまいました。それに小説を読むにしても、構想段階でアイデア被りを確かめるために読むことが多くなりました。いわゆる純粋な読書というものは昔より減ってしまったとは思います。
それで最近ちょっと思い立って、乱歩の『黒蜥蜴』を読み返して、やっぱり面白いなと思ったりして。時々息抜きするように、そういう読書をしています。
――資料として読んだものの中に、面白かったものはありましたか。
夕木:『縛られた巨人』という、南方熊楠の伝記は非常に面白かったですね。
――え、熊楠関連のなにかをお書きになる予定でも?
夕木:いいえ、何を調べようとしたのかは憶えていないんですけれども、南方熊楠は明治、大正、昭和を生きた人なので、そういう資料のひとつとして読んだんだと思います。
――いま、一日のタイムテーブルはどのようになっていますか。
夕木:今は来年東京創元社から出る長篇を書いているところなんですけれども、起きたら食事をして机に向かい、疲れたら出かけて外で書いたりもして...。だいたいその繰り返しです。ルーティンというほど規則正しくはないですが、現状はそういう執筆期間になっています。
――東京創元社ということは、はじめて講談社以外の版元で書くわけですか。では、これまでの作品とのリンクはなく?
夕木:ないです。あらすじが非常に説明しにくいお話なんですが、船舶ものといえば船舶ものです。明治の終わりから大正あたりを舞台にしていて、分量はやや多くなると思います。『楽園』のネタバレページで仮題も公開したので言っておきますと、『審判』という仮題がついています。カフカと同じ『審判』ですが、カフカは絡まないです。
――晴海やユリ子たちの話もまたお書きになるのですか。
夕木:そうですね。今講談社で相談しているお話がそれになる予定です。
(了)




