作家の読書道 第292回:佐原ひかりさん
2019年に「きみのゆくえに愛を手を」で第2回氷室冴子青春文学賞大賞を受賞、2021年に同作を改題した『ブラザーズ・ブラジャー』でデビューした佐原ひかりさん。青春小説にとどまらずさまざま角度から登場人物の繊細な機微を描き出す著者は、どんな作品を愛読してきたのでしょうか。小説はもちろん、好きな漫画や映画についても、たっぷりおうかがいしました。
その2「今の作風の根底にある作品」 (2/8)

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- 『ムギと王さま: 本の小べや 1 (岩波少年文庫 82)』
- エリナー ファージョン,エドワード・アーディゾーニ,Eleanor Farjeon,Edward Ardizzone,石井 桃子
- 岩波書店
- 913円(税込)

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- 『ポーの一族(1) (フラワーコミックス)』
- 萩尾望都
- 小学館
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――小学校に上がってからはいかがですか。
佐原:これは幼稚園の頃から読んでいたのかもしれませんが、ほるぷ出版から出ていた『世界むかし話』というシリーズと、童心社から出ている『おはなしアンデルセン』とか『おはなしグリム』というシリーズがたしか家にあって。世界各地の昔話が入っていて、それを低学年の頃に読んでいた記憶があります。他にも、ギリシャ神話や北欧神話、イギリスやアイルランド、中東のほうの昔話も読んでいました。いろんな地域の昔話が好きでした。
――図書館や学校の図書室は利用しましたか。
佐原:図書館はよく利用していました。小学校の図書室はちょっと小さくて、漫画か大人向けの本がほとんどで。ただ、私は結構入り浸っていました。図書室のおばちゃんが調べものクイズを作っていて、正解した人には手作りのトートバッグをくれたりしたんです。静御前の「しづやしづしづの〇〇〇〇くりかえし」の「〇〇〇〇」に入る花の名前はなんでしょう、みたいなクイズでした。それを友達と一生懸命調べていました。
――図書室のおばちゃんというのは、司書さんのことですか。
佐原:司書さんだったのかもしれないけれど、みんな「市民図書のおばちゃん」という呼び方をしていました。ほぼボランティアに近いような方だったのかもしれません。
――放課後は図書室や図書館に行って過ごすことが多かったのですか。
佐原:そうでもなくて、放課後はずっと活発に遊んでいました。男の子と一緒に外で鬼ごっこやサッカーをしたり、女の子とはごっこ遊びをしたりして。ごっこ遊びというのは、祖父母の家の二階の二部屋を、片方を天国、片方を地獄という設定にして天使と悪魔の戦いみたいなことをやったりとか。『嵐が丘』のヒースクリフとキャシーになりきって喋る、みたいなこともやっていました。女の子とはそういうストーリーありきのごっこ遊びをしていました。
――小学生の頃に『嵐が丘』の内容を知っていたということですね。
佐原:そうなんですよ。先生に「ヒースクリフとキャシーというのは自分たちで考えたの?」と訊かれて「えー先生知らないの?『嵐が丘』だよ」という話をしたおぼえがあります。子ども向けに簡単にした本か何かを読んだのかな。「世界の名作」みたいなものはいろいろ読んでいたので。小学生の頃は国内作品より海外作品を多く読んでいた気がします。『ムギと王さま』とかを書いたエリナー・ファージョンというイギリスの児童文学作家の作品集が家にあって、それを全部読んだりして。
岩波書店の「おはなしの本」というシリーズが家に全巻あって、それも読みました。『しずくの首飾り』とか『まほうの馬』などがあったと思います。
当時、めちゃめちゃ泣いた作品が3つあって。『パディーの黄金のつぼ』と、『時をさまようタック』と、『おじいちゃんは荷車にのって』。そのなかでもたぶん、今の私の作風というか、趣味嗜好の根底にあるのが『時をさまようタック』という児童文学で、不老不死の一族に出会った女の子のひと夏の話です。この作品をきっかけにファンタジーが好きになった記憶があります。
――趣味嗜好の根底になったのは、その作品のどんなところですか。
佐原:少女が主人公ということや、ひと夏の冒険みたなところ、そこにちょっと不思議な設定が入ってくるところや、永遠の少年とか...。あらすじをどこまで説明するか難しいんですけれど、その作品を構成する要素がすごく好きで、そこから不老不死ものを読み始めるようになりました。漫画だと萩尾望都さんの『ポーの一族』や山下和美さんの『不思議な少年』、ライトノベルでは壁井ユカコさんの『キーリ』シリーズとか。ちょっとでも不老不死の要素があると読んでいたのは、たぶん『時をさまようタック』が刺さりすぎたからだと思います。
――自分でも物語を空想したり、書いたりしていましたか。
佐原:おぼえていることがふたつあって。ひとつは、教室で漫画を描いてホチキスで留めて本の形にして、教室の後ろの箱に溜めていっていたことです。内容は憶えていないです。卒業式の日にみんなに配ったので手元には一冊も残っていないですし。人間の話ではなくて、「ちいかわ」じゃないけれど、あんな感じのキャラクターものだったと思います。
もうひとつは、自分で作った架空の王国の叙事詩みたいなものを歌って、ひたすらおばあちゃんに聞かせていたことですね。今はもう道交法で駄目ですけれど、おばあちゃんがスーパーに連れていってくれる時に自転車に二人乗りして、後ろに座りながらずっと大声で歌っていました。ばら王国の叙事詩だったかな。おばあちゃんが無関心で一切リアクションしなかったんですよ。やめなさいとも言わなかった。孫娘が大声でばら王国の叙事詩を歌っているなんて、恥ずかしかったかもしれないのに。なにも言ってこないでいてくれたので、私は好き勝手できました。
私は環境に恵まれていたと思います。母親が百貨店で接客業をしていて、人の話を聞くのが得意な人だったんですね。私が学校から帰ってきてその日あったことを全部喋るのを、うまいこと聞いてくれていました。逆におばあちゃんは無関心でしたが、そのぶん口を挟まないんです。あまり邪魔をされることがなくて、考えたことを話すのに遠慮する必要のない家庭でした。
おじいちゃんのことは、小学生の時は召使みたいな接し方をしていました。小学校の1年生から6年生までずっと、毎月「りぼん」の発売日におじいちゃんがコープに行って買ってきてくれていたんです。たまに買ってこなかったら、「今日発売日だけどまだかな」みたいなことを言って買ってきてもらっていました。
――小学生時代、他に児童文学や小説、漫画ですごく好きだった作品は。
佐原:日本の作品では、まず『クレヨン王国』シリーズですね。もう大好きです。図書館で読んでいた記憶があります。
あとは村山早紀さんの『シェーラひめのぼうけん』シリーズ。図書館で一気に借りようとしてカウンターに持っていったら、司書のおじいちゃんが「あ、これ今好きなの?」みたいに話しかけてくれて、「今これにすごくはまっていて」みたいな話をした記憶込みですごく憶えています。あとは荻原規子さんの『西の善き魔女』とか『空色勾玉』とか、上橋菜穂子さんの『精霊の守り人』とか、そうしたシリーズは全部はまって通ってきています。『それいけズッコケ三人組』のシリーズや、はやみねかおるさんの作品も基本全部読みましたし、あさのあつこさんだと『テレパシー少女「蘭」』がすごく好きでした。
海外の作品だと、『ダレン・シャン』シリーズを読んでいました。当時はハリー・ポッター派とダレン・シャン派に分かれていたんですけれど、私はダレン・シャン派でした。ハリー・ポッターは名前がおぼえきれなくて途中で挫折したんです。ダレン・シャンはヴァンパイア的な要素や、不死の生き物みたいな要素があったので好きだったのかも。ソフィー・オドゥワン=マミコニアの『タラ・ダンカン』というファンタジーシリーズもすごく読みました。
あとはロバート・ウェストールという児童文学作家の『禁じられた約束』。戦時下の少年と少女の話で、少女が病弱で亡くなって、その後に幽霊になって少年に若干憑りつく感じになり、途中からホラーになってくるんです。図書館でそれを読んで号泣して、まわりの大人に「大丈夫?」って声をかけられました。
――漫画はいかがですか。
佐原:母が持っていた『エロイカより愛をこめて』とか、『王家の紋章』とか、『日出処の天子』あたりを読んで育ったので、少女漫画のほうに偏ってはいたのかな。
近くの公園に「リヤカーのおじちゃん」という人がいて。たぶんホームレスの方が拾った漫画や本をリヤカーに入れて引いて回って売っていたんです。私はそのおじちゃんから漫画を5円くらいで買い続けていました。今考えたら5円なわけないので、大人にはもうちょっと高い値段で売っていたと思うんですけれど、私は1冊5円だと思い込んで、ずっと5円でおじちゃんが仕入れてきた漫画とかを買っていました。それで結構いろいろ読めたんです。『金田一少年の事件簿』もなぜか18巻だけ売っていて「おじちゃん、これ5円だよね」みたいな感じで買って読みました。
中学生になると「花とゆめ」と「LaLa」は自分のお小遣いで買っていました。私、白泉社オタクなんですよ。『フルーツバスケット』に出合ったことが大きかったです。その頃はまだ街の商店街に古本屋さんが3つ4つあって、そこで漫画もたくさん売っていたんですよね。それで『フルーツバスケット』を読み始めたことで、「花とゆめ」に本格的にはまっていった感じです。
――白泉社オタクになって、どんな作品が好きだったのですか。
佐原:私のペンネームの佐原は、じつは、草川為さんという漫画家さんの『ガートルードのレシピ』という作品の主人公から取りました。主人公の佐原漱という女の子が好きすぎて、勝手に筆名に佐原を使いました。『ガートルードのレシピ』は今でも読み返しています。
――どういう主人公なのですか。
佐原:まず内容を要約すると、主人公の佐原漱がある日ガートルードという悪魔に出会うんですけれど、それが人造悪魔なんです。マッドサイエンティストがいろんな悪魔のパーツを集めて究極の一体みたいなものを作ったんですね。でも、目玉などのパーツを取られた悪魔が、それを取り返そうとしてくるんです。人造悪魔からしたら「もう自分のものであるのに、取り返されたらたまったものではない」ということで、他の悪魔から逃げているところで佐原に出会うんです。結構、アイデンティティの話みたいなところがありますね。
私が主人公の佐原漱をすごく好きなのは、フェアネスを大事にするところですね。ガートルードと一緒に行動することで、他の悪魔から人質に取られてしまうこともある。人間なので非力ですからガートルードの助けを待つこともできるけれど、彼女は自力で逃げようとするんです。「じっと待ってたら、どんな顔して会えばいいかわからない」「負担をかけて謝るのがイヤ 罪悪感から謝らせるのもイヤ それじゃ気持ちが歪んでしまいそうで どうすればフェアでいられるかしら どうすればもっと一緒にいられるかしら」って佐原は考えるんです。その一本筋が通った精神が大好きです。
――作文や読書感想文は好きでしたか。
佐原:好きじゃないけれど得意でした。作文は、頭の中で出来上がっているものを言葉にする面倒くささがありました。
これは高校の時の話になってしまうんですけれど、文芸部の顧問の先生に「応募人数が足りてないから、このコンクールになにか出してくれないかな」みたいに頼まれて書いたものが、兵庫県知事賞を獲ったんです。大焦りですよ。というのも、内容が嘘八百だったんです。「子どもから親に伝えたいこと」みたいなテーマで、「こういう辛いことがあったけれど、母親にこういう声かけをしてもらって、こういう気持ちになれました」みたいなことを書いたんですけれど。獲った人は授賞式かなにかに親と一緒に出て、親の前でそれを朗読するというのがあって。あれは人生でいちばん焦ったかもしれない。
――やりきったわけですか。
佐原:やりきりました。親も名女優で、感じ入ったように聞いていて、帰り道に「あんたようあんな嘘考えたな」みたいに言われました。
作文が好きでなかったのは、書き方の正解みたいなものが見えてしまうから、というのもありました。こういうふうに流れを持っていって、ここにちょっとスパイスというか変わり手を入れるといいんでしょう? というのが見えて、あんまり好きではなかったですね。小説はそういうところがあんまりないから続けられているのかなと思います。
小学生の頃は小説家になりたいとはまったく思っていなかったです。低学年の頃は「博士になる」って言っていた気がします。結構、勉強が好きだったんですよ。高学年になると、漫画を描いていたので「イラストレーターさんになりたいです」などと書いていた気がします。
――どんな子どもだったと思いますか。活発で、クラスでもいろいろ発言するタイプとか?
佐原:めちゃめちゃ発言していたと思います。性格も明るいほうでした。6年間ずっと学級委員長をやっていましたし。それは勉強が好きだったからというのもあります。
――成績もよかったわけですね。
佐原:まあ、正直、「勉強がよくできる佐原さん」みたいなイメージで見られていたと思います。でも3、4年生くらいまではチャイムが鳴ったらすぐ外に行って鬼ごっこしているような子でした。高学年になってからは、教室で本を読んだり、友達と喋ったりするようにもなりましたが。

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