作家の読書道 第292回:佐原ひかりさん
2019年に「きみのゆくえに愛を手を」で第2回氷室冴子青春文学賞大賞を受賞、2021年に同作を改題した『ブラザーズ・ブラジャー』でデビューした佐原ひかりさん。青春小説にとどまらずさまざま角度から登場人物の繊細な機微を描き出す著者は、どんな作品を愛読してきたのでしょうか。小説はもちろん、好きな漫画や映画についても、たっぷりおうかがいしました。
その7「愛読書の影響を受けた創作」 (7/8)
――2019年に氷室冴子青春文学賞を受賞した「きみのゆくえに愛を手を」を書籍化の際に改題したのが『ブラザーズ・ブラジャー』。主人公は高校生のちぐさで、父親の再婚で新たに弟ができます。
佐原:親同士が再婚してステップファミリーで血のつながらない弟ができて、みたいな設定って少女漫画によくあるじゃないですか。そういうものを書いてみたかったんです。少女漫画だったらそのまま恋愛になっていくけれど、そうならなかったのはどうしてだったかな。
――そうなんです、そういう展開にはならないんですよね。ちぐさはある時、弟がブラジャーを好きで収集していることを知る。
佐原:この設定になったのは、大学で異性装をやっていてかなり関連本も読んでいたので、それが影響しているのかもしれません。
――第2作が、さきほどちょっと出た『ペーパー・リリイ』ですね。結婚詐欺師の叔父と暮らしていた17歳の少女が、叔父に騙された女性と旅に出る。贈与論とか、詐欺師とか、女性二人の逃避行とか、いろんな要素がありますね。
佐原:これは根本を遡ると豊島ミホさんの『日傘のお兄さん』かもしれません。あれは誘拐犯との逃避行みたいな話でしたよね。それにシンプルに映画の「テルマ&ルイーズ」が好きだったし、「ペーパー・ムーン」も好きでしたし。
――「ペーパー・ムーン」は詐欺師の男が少女を連れて旅することになるんですが、その少女が非常に聡明で...という物語ですよね。私は相当前に深夜テレビで観ましたが、結構古い映画ですよね?
佐原:以前、映画館の「午前十時の映画祭」という、旧作映画を上映する企画で観たんだと思います。
――第3作の『人間みたいに生きている』は、食べることに嫌悪感のある少女が、洋館で孤独に暮らす青年と出会う。これはヴァンパイアっぽさがありますよね。第4作の『鳥と港』は、会社とを辞めたみなとと学校に行っていない高校生の飛鳥が公園の郵便箱を介した文通で知り合い、やがて「文通」を「仕事」にすることを思いつく。
佐原:『人間みたいに生きている』は担当さんから「食と青春」というテーマで書いてくださいと言われ、最初は「過食」を提案されたんですけれど、私があまりピンとこなくて。自分は偏食ぎみなので、食べ物の摂取に抵抗感があるほうが親近感があるなと思っていました。それと、前からなんとなく「吸血鬼って血しか飲めないんだ」みたいな気持ちがあったことと、前から洋館が書きたかったことが組み合わさって、ああいう話になりました。
『鳥と港』は、「小説すばる」さんに文通している友達がいるというエッセイを書き、「小説トリッパー」さんに新卒で会社に入り、ある朝会社に行かずに海に逃亡したことがあるというエッセイを書いたら、どちらも読んだ担当さんから「佐原さん、文通と仕事で何かできないですかね」みたいなことを言っていただいて書いた感じです。
――『スターゲイザー』はデビューを目指すアイドルの男の子たちの群像劇ですね。これも、編集者からの提案だったのですか。
佐原:私からは言い出してないですね。担当さんと打ち合わせをしている時に、「とりあえず佐原さんの好きなものを教えてください」みたいに言われ、話しているうちに私が男性アイドルにめちゃくちゃ詳しいことに担当さんが気づいて、「そんなに詳しいなら書いたほうがいいですよ」って。
――ずっとテレビのないおうちで生活をしてきた佐原さんが、アイドルを知るきっかけはどこにあったのですか。
佐原:10代の頃は一切アイドルにはまらず、大学生になって家にテレビが導入されて音楽番組とかを見るようになってから好きになり、ものすごい勢いで吸収したわけです。大人になってからはまると、ある程度お金もあるから、とんでもない勢いではまりますね。
――では、『ネバーランドの向こう側』はどうですか。人生初の一人暮らしを始めた30歳の女性が、新居である集合住宅の住人らと親交を重ねていく。
佐原:これはPHP研究所さんの雑誌での連載で、老若男女が読むことが前提だったんです。それで、あまり尖ったものはちょっと、という感じで。その時はたしか向こうから3案くらいコンセプトがきて、そこから私が選んだのが、長く親元にいた子が自立していく話、みたいな案でした。実際私が実家を出たのが30歳になってからだったので、「あ、ちょっと分かる」みたいな気持ちがあり、これなら書けると思いました。
――『リデルハウスの子どもたち』はがらっと変わって、架空の場所が舞台ですよね。全寮制の名門校リデルハウスを舞台にした物語です。
佐原:この時にはじめて「好きなものを書いていいです」と言われ、「じゃあ寄宿学校ものが書きたいです」とみたいな話をした気がします。ジーン・ウェブスターの『おちゃめなパティ』シリーズが好きでしたし、氷室冴子さんの『クララ白書』も寄宿学校ものだし。漫画では売野機子さんの『MAMA』という寄宿学校ものも好きでしたし。
それとやっぱり、恩田陸さんの『麦の海に沈む果実』ですね。湿原帯に浮かぶ全寮制の学校の話で、私はたぶん、あれがあまりに好きすぎて自分でも書きたくなった気がしますね。
――『リデルハウスの子どもたち』は第一話では、天涯孤独なアモニカが、正体不明の人物から援助の申し出があって入学を果たす......という設定にウェブスターの『あしながおじさん』が重なりましたが、第二話以降を読むとまたちょっと違う設定だと分かる。素敵な全寮制の学校の話かと思ったら、ちょっとダークな展開になっていきますよね。
佐原:児童文学というと世間では明るいイメージがあると思うんですけれど、結構暗めの雰囲気のものも多い気がします。この小説では、第三話で『トムは真夜中の庭で』をオマージュしましたが、「トム~」も明るい話ではなかったですよね。
ちょっと話がずれますが、今、10代の子たちが児童文学や昔話に触れる機会が減っているんですね。以前、図書室で働いていた時にびっくりしたのが、その場にいた18歳くらいの子11人のうち、2人しか「人魚姫」を知らなかったことがあったんです。私たちが子どもの頃って「日本昔ばなし」というアニメ番組もあったし、グリム童話やアンデルセン童話が身近にあって、とりあえず子どもの時にみんな一回全部読んでおく、みたいな風潮があったと思うんですが、今、それがなくなっている。
なので、私の作品のどこかにそういう要素を混ぜて、次の世代に渡すようなことをやらないとやばいんじゃないか、みたいな気持ちが少しありました。だから『リデルハウスの子どもたち』は、いろんな児童文学の要素を取り入れるようにしました。第一、第三、第五話が児童文学オマージュですね。
――第二話は天才的な歌唱力を持つ少年が、音楽講師に連れ出されて富豪の邸宅で歌を披露するのだけれど...という話ですよね。あれもなにかのオマージュですか。
佐原:第二話は音楽の話なので、オペラの古典の名作を入れようと思って。モーツァルトの「後宮からの逃走」というオペラですね。「後宮からの誘拐」というタイトルでも通じます。第四話が「マイ・フェア・レディ」で、第五話が『オズの魔法使い』です。













