作家の読書道 第292回:佐原ひかりさん
2019年に「きみのゆくえに愛を手を」で第2回氷室冴子青春文学賞大賞を受賞、2021年に同作を改題した『ブラザーズ・ブラジャー』でデビューした佐原ひかりさん。青春小説にとどまらずさまざま角度から登場人物の繊細な機微を描き出す著者は、どんな作品を愛読してきたのでしょうか。小説はもちろん、好きな漫画や映画についても、たっぷりおうかがいしました。
その5「一年間の休学期間に読書」 (5/8)

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- 『輝夜姫 1 (白泉社文庫)』
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- 『獣王星 完全版 1 (花とゆめコミックス)』
- 樹なつみ
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- 『愛蔵版 花咲ける青少年 1 (花とゆめコミックス)』
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- 『愛蔵版 CIPHER 【電子限定カラー完全収録版】 1 (花とゆめコミックス)』
- 成田美名子
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――進学先はどのように選んだのですか。
佐原:まず、経済的な事情で、家から通える国公立という条件がありました。そうすると大阪大学か神戸大学で。私は数学が壊滅的だったんですけれど、大阪大学は二次を国語、英語、日本史で受けられたんです。それに予備校の先生が、大阪大学はわりと新しいことをやらせてくれるので、お前は大阪大学のほうが向いているんちゃうか、みたいなことを言ってくれて、それでなんとなく阪大にしました。学部は文学部です。それは迷いもせずに決めました。
――大学に進学すると、予備校通いもなくなるのでまた生活が変わりますよね。
佐原:これがあまりよくないんですけれど、バイトづくしになります。30日しかない月に28日出勤した時もありました。予備校のバイトで、古典を教えたりしていました。
それと、たしか3年から4年に上がるタイミングで一年間休学しました。国公立だったので休学中は学費がかからないと聞いて、いきなり休学することにしたんです。その時のゼミの先生がいい方だったので週に1,2回ゼミに混じらせてもらって、それ以外の時間は全部、読書とバイトに充てました。
――振り返ってみて、休学してよかったと思いますか。
佐原:めちゃくちゃよかったと思いますね。その決断をした自分を褒めてあげたい。大学って本当にあっという間に終わるんですよ。今なんか就職活動がもっと前倒しになっていて、2年生とか、なんなら1年生から始めているところもありますよね。
2年生から専攻に分かれて3年4年になっていくのに、あまりにも時間がなくて、学校行ってバイトしてたらいつの間にか就活して卒業して終わるみたいな感じになるのが嫌で、一回自分で時間を止めたいと思ったんです。休学した一年間の読書量や、触れたコンテンツ量に今、めちゃくちゃ助けられています。
就活では必ず「この一年間休学というのは、留学でもしていたの?」と訊かれるんですけれど、「ちょっと経済的な事情で、一年間バイトをしていました」と言えば、それ以上は突っ込んでこないので。一年間学費のために頑張っていたんだね、みたいな感じになるので、休学したくて迷っている人がいるとしたら、どうにでもなるから、と言いたいです。
――ゼミは、何のゼミだったのですか。
佐原:日本学という専攻で、日本社会のことなら何を研究してもいいといわれ、私は最終的には卒論は異性装を選びました。男装とか女装とかの異性装です。漫画に登場する男装って、最初は『リボンの騎士』から始まって、『ベルサイユのばら』など社会参画のための男装が多かったんですけれど、途中からは『花ざかりの君たちへ』や『桜蘭高校ホスト部』のような、窃視願望、のぞき見願望みたいなところからの男装に緩やかに変わっていく。少女漫画って、当時の女性の願望を反映していくようなコンテンツなので、そのあたりを絡めながら論じた記憶があります。
――面白そう。
佐原:だから休学していた一年間は、本よりも漫画をよく読んでいました。休学が明けたら即、卒論を書き始めないといけなかったので。その時期は少女漫画雑誌を毎月、全部買っていました。
高校生の頃に当時のシーンの作者の漫画は読みつくしてしまって、遡って80年代、90代の漫画を読むようになっていたんですね。時代を遡っていくと、社会背景や読者の願望や要望みたいなものの変化がすごく感じられたんです。それでそういう論文を書いたんですけれど、実際には何も考えずに面白いなと思いながら読んでいました。
いちばんはまったのは白泉社のSFものというか。清水玲子さんの『輝夜姫』とか、樹なつみさんの『獣王星』とか。『花咲ける青少年』もそうですが、樹さんはすごくはまった記憶がありますね。あとはSFではないけれど、成田美名子さんの『CIPHER』も好きでした。
それと、これは作風に若干影響を受けているんですけれど、遠藤淑子さんという方がいらっしゃって。シリアスな話を書く時もちょっとだけユーモアを入れる作風の方で、読み心地がすごくよかった記憶があって。「あ、私はこういうものが好きなんだ」と自覚したおぼえがあります。『マダムとミスター』とか、『王室スキャンダル騒動』とかが代表作なのかな。
あとは白泉社ではないんですけれど、秋里和国さんの『それでも地球は回ってる』とか、吉野朔実さんの『少年は荒野をめざす』とか。卒論に関連する男装ものとして田村由美さんの『BASARA』とか。
――文字の本は何か印象に残っていますか。
佐原:その頃は 現代小説から離れて、詩歌のほうにいっていました。もともと、教科書で与謝野晶子の短歌を見た時から、うっすら短歌が好きだったんです。高校生の時に『みだれ髪』を持っていた気がします。大学生になってもっと読むようになりました。葛原妙子とか、あと詩人だと吉原幸子さんという方が私はすごく好きで。
吉原さんの詩集は昔の出版社から出ているものはもう新刊ではなかったりするので、古書祭りみたいなところに行って、昔の詩集を探して買っていました。
あとは谷川俊太郎さんもすごく好きで読んでいました。あとはステュディオ・パラボリカの「夜想(yaso)」という雑誌を古書店で探すようになったり、山尾悠子さんの本を読むようになったり、幻想文学も読むようになりました。「少女」というモチーフが好きなんだとはっきり自覚した頃で、矢川澄子さんの小説やエッセイにもはまりました。矢川さんは翻訳もすごくよくて、翻訳作品を探して読んだりしていました。長野まゆみさんの小説にはまったのもこの頃だったと思います。
――自分で書いたり詠んだりすることは。
佐原:なかったです。もう、そういうことは文芸部の活動で終わったと思っていました。
サークルもイベントサークルみたいなところに入りました。秋だったら紅葉狩りに行って、夏だったら蛍を見に行ってという、季節に合わせて大阪のいいところに行って遊ぶサークルで、私は会長をやっていました。最高で百何十人所属していたという、結構大きめのサークルでしたね。
そのサークルが、たこ焼きを焼く活動にも力を入れていて、道具屋筋商店街から買ってきたプロが使う道具を倉庫に入れておいて、それを毎回引っ張り出して、粉も小麦粉レベルから作ってたこ焼きを焼いていました。
――そういえば、映画やアニメなどはそこまで摂取されなかったのですか。
佐原:そもそも家にテレビがない影響が大きすぎて。映画館には行っていましたが、人並みだと思います。たしか私が小学校1年生の時に母が映画館に連れて行ってくれたんですが、「あなたが観たい映画は私が観たい映画ではないよね」と言って、私はキッズ向けの映画を観て、母は同じ時間にやっている別の映画を観て、映画が終わって出てきて合流した経験がありました。なので映画はあまり人と観に行くものと思っていなくて。興味があったらその場でぱっと一人で観に行く、ということが多かった気がします。
――そのなかでも、どういう映画が好き、というのはありますか。
佐原:私、映画にはあまりストーリーを求めていないんですよ。大きな画面で観る価値があるものを観にいく感じですね。好きな傾向でいうと、「落下の王国」とか。
――ああ、ファンタジーだけれど実際の世界遺産がたくさん出て、すごく美しい作品ですよね。
佐原:あれは衣装を石岡瑛子さんが担当されているんですよ。映画って、石岡さんの華麗な衣装とか、そういう映像美をシアターで観るためのものという認識をしています。だから、「グランド・ブダペスト・ホテル」のウェス・アンダーソン監督も好きで。「ムーンライズ・キングダム」がお気に入りです。色味がパステルカラーできれいな感じですよね。あと、北欧系の映画は結構カラフルでポップなものが多い。「オンネリとアンネリ」シリーズとか。いちばん好きなのは「シンプル・シモン」という映画です。主人公が「IT」でペニーワイズをやっていたビル・スカルスガルドです。アスペルガー症候群の男の子がいて、お兄ちゃんが大好きで、でもお兄ちゃんはいつも弟君のせいで彼女に振られちゃって、弟君は「じゃあ僕がお兄ちゃんのベストの恋人を探してあげる」といって、お兄ちゃんの好みを聞きだして...という。絵もきれいだし、音楽もスウェディッシュポップがすごく合っていて、ストーリーもよくて。
他には「わたしはロランス」のグザヴィエ・ドランも一時期よく観ていました。古典でいうと「ひなぎく」とか「地下鉄のザジ」とか「アメリ」とか。あとはルシール・アザリロヴィックの「エコール」とか。










