作家の読書道 第292回:佐原ひかりさん
2019年に「きみのゆくえに愛を手を」で第2回氷室冴子青春文学賞大賞を受賞、2021年に同作を改題した『ブラザーズ・ブラジャー』でデビューした佐原ひかりさん。青春小説にとどまらずさまざま角度から登場人物の繊細な機微を描き出す著者は、どんな作品を愛読してきたのでしょうか。小説はもちろん、好きな漫画や映画についても、たっぷりおうかがいしました。
その3「10代が主人公の作品を欲す」 (3/8)
――中学時代の読書生活はいかがですか。
佐原:小学校の時に比べて中学校の図書室はだいぶ大きくて、そこで大人向けの本と出合うようになりました。いちばん憶えているのが、生まれてはじめて徹夜して本を読んだこと。宮部みゆきさんの『模倣犯』です。中1の4月に図書室で借りたんですよね。なんかすっごい分厚い本があるなって、ときめいて。借りて読んだらめちゃめちゃ面白くて、ここから日本のミステリーを読むようになり、貴志祐介さんや恩田陸さんの、10代が主人公の作品を読むようになりました。恩田陸さんだったら『麦の海に沈む果実』とか『蛇行する川のほとり』とか『上と外』とか、『球形の季節』とか、そういうジュブナイル的なものですね。貴志さんはたぶん、『青の炎』から入ったのかな。あれも少年が主人公の話でしたよね。それと、私は小中学生くらいまでは無邪気にホラーを読めていたので『十三番目の人格ISOLA』とか『クリムゾンの迷宮』とか『黒い家』とかも読みました。読んだのはもうちょっと後になりますが、貴志さんの作品では『新世界より』がいちばん好きです。桜庭一樹さんや乙一さんもよく読んでいました。
そこから大人向けのミステリーも読むようになりました。今は集英社文庫に入りましたが当時は扶桑社ミステリーから出ていた、ジャネット・イヴァノヴィッチという人の「ステファニー・プラム」シリーズというのがあるんです。バウンティ・ハンターという、保釈金を払わずに逃亡した犯罪者を捕まえてお金を払わせる、みたいなことが仕事の女の人の話で、『カスに向かって撃て!』とか、いろいろ読んでいました。
中学時代は日本の作品をよく読むようになったので、海外ものは他にステファニー・メイヤーの『トワイライト』シリーズくらいですね。最初はゴツボ×リュウジという漫画家の方の絵が表紙を飾っていてヤングアダルトな感じだったのに、映画化のタイミングでシックな文庫本になって、「あれ?こんな大人向けの本だったのかな」とびっくりした記憶があります。
この頃、一時期一般文芸といわれる作品から離れた時期がありました。
――それはどうしてですか。
佐原:なんか、大人向けの作品が面白くなくなってしまって。なんとなく児童文学は卒業したけれど、大人向けの一般小説だと10代の子が出てくるものが限られているし、本当に大人しか出てこない小説はなんかドロドロして面白くない、みたいな気持ちになってしまって。それで一回離れて、小学校の頃から読んできたコバルト文庫やティーンズハートの少女小説に全振りする時期がありました。
――少女小説はどんなものがお好きだったのですか。
佐原:小学校高学年の頃、人生ではじめて読んだライト小説は少女小説ではなくて『R.O.D READ OR DIE』という、大英図書館に所属するエージェントの女の人が活躍する話で、そこからライトレーベルの小説も読み始めるようになっていたところ、当時塾で仲良かった子が少女小説を貸してくれたんです。それがたしか、『鏡のお城のミミ』でした。挿絵が少女漫画みたいな小説があるということにびっくりし、そこから自分でも買って集めるようになりました。
その当時、お小遣いをやりくりして本屋さんに行って集めていたシリーズがふたつありました。ひとつは、山本瑤さんの『花咲かす君』というシリーズ。鎌倉が舞台で、桜の老木に宿っている精霊の男の子と女子高校生がタッグを組むという、ちょっとホラーっぽい話です。他には、高遠砂夜さんの『レヴィローズの指輪』という、女の子が魔法の指輪の契約をしてしまったことでいろんな陰謀に巻き込まれていく話です。
私が中学に入るタイミングの前後で雪乃紗衣さんの『彩雲国物語』とかが出てきて、少女小説が覇権を握った時期だったんですよね。『十二国記』シリーズや、『伯爵と妖精』シリーズもありましたし。『薬屋のひとりごと』なんかは私の中ではがっつり昔の少女小説という印象なんですけれど、今こんなに広く読まれるようになるなんて、不思議な感覚です。
――その後、一般文芸をまた読むようになるわけですか。
佐原:一般文芸に戻ってきたきっかけは、瀬尾まいこさんの『幸福な食卓』です。まあ『幸福な食卓』も10代の子の話ではあるんですけれど。
中2か中3の時に、映画化されて観に行った記憶があるので、たぶんそれより前に読んでいます。たしか図書館で借りたんですよね。その頃はもう、自分の興味の向くものはほとんど読み切ってしまって、ランダムの出合いに期待するようになっていたんです。目をつぶってランダムに本棚を指して、そこにある本を取り出してめくってみる、みたいなことをしていました。たぶんそれで瀬尾さんの本に出合いました。
そうやって一般文芸に戻ってきたタイミングで、豊島ミホさんと辻村深月さんに出合って、どはまりしました。豊島さんを読んで少女文芸みたいなものが世の中にはあると気づいて、ちょっとずつ読んでいこうかな、と思った記憶があります。
――豊島ミホさんと辻村深月さんで、お好きな作品は。
佐原:挙げきれないかもしれません。豊島さんだと、『日傘のお兄さん』がまず好きで。それと短篇集の『花が咲く頃いた君と』の中に入っている「椿の葉に雪が積もる」を読んだ時に、「豊島ミホに一生ついていくぜ」みたいな気持ちになりました。豊島さん、今は小説を書かれていないので寂しいんですけれど。
辻村深月さんはデビュー作から全部読んでいて、『凍りのくじら』がめちゃくちゃ好きです。ネタバレなので詳しく言えないけれど終盤の、山を下りながら『ドラえもん』の音楽が流れるというシーンを読んだ時、はじめて小説を読んでいて頭の中で音楽が再生されるということが起こりました。「なんだこの体験は」と思いながら、もうめちゃめちゃ泣きながら読みました。『凍りのくじら』は一生好きですね。
――しかも、10代の頃に読むとなおさら刺さりそうです。
佐原:入り方が違いますよね。主人公の理帆子はちょっと尖っているところがあるので、大人になってから読むと「この子は世界を斜に構えて見ているな」みたいに思っちゃうかもしれないんですけれど、10代の頃に読むと「分かる」みたいな気持ちになるので。
――ところで、部活はなにかされていたのですか。
佐原:美術部に入っていました。でも本格的に美術をやる部活ではなくて、オタクが行きつく場所みたいになっていました。顧問の先生が当時流行っていた『灼眼のシャナ』の画集を持ってきてみんなに見せたりして。でも、私はそれまで小説や漫画を読んできていたのに、オタクというものを知らなかったんです。なのでそこにいた子たちにオタク教育みたいなものを受けました。
その頃に「少年ジャンプ」も読み始めたのかな。あ、小学生の頃、『るろうに剣心』のアニメにどはまりしていたのが先です。お恥ずかしながら、私、中学1年の時に剣心の真似をして骨折したことがあるんです。高いところから飛び降りながら剣を落とす、みたいな技をやろうとして足の骨を折って、お医者さんに「なにをしてこうなったの?」と言われました。
――アニメもよく見ていたのですか。
佐原:これが微妙なところで。私が大学入学する頃まで、実家にテレビがなかったんですよ。うちは3Cがない家だったんです。カラーテレビ、クーラー、カーという三種の神器がありませんでした。でも、近くに祖父母の家があって、そこに行ったらテレビは見られる環境ではありました。なので『るろうに剣心』は祖父母の家で見てはまったんです。おばあちゃんがアニメチャンネルみたいなものを契約してくれたんですね。朝から夜まで色んなアニメが流れていて、夏休みなんかはほぼ毎日ずっと見ていました。だから、実はよく見ていたほうなのかもしれない。
――他に、なにかはまったものはありましたか。
佐原:中学生の頃、ワールドカップをきっかけに海外のサッカーの観戦にめちゃめちゃはまりました。プレミアリーグのアーセナルの試合を観たり、サッカー雑誌を読んだりして。試合は祖父が有料チャンネルを契約してくれたので、祖父母の家で観ていました。大学時代には一人でロンドンに行って、念願の現地観戦を叶えました。
小説家って、サッカー観戦が好きな人が多いイメージがあります。『殺し屋の営業術』の野宮有さんもサッカー観戦が好きで、この間野宮さんと話していて、やっぱりサッカーは組み立ての美しさみたいものがあって、それが小説家に好かれる要因かもね、という話をしました。私は推していた選手が引退してからはあまり追わなくなったんですけれど、今年のワールドカップはほぼ観ました。
――なんという選手がお好きだったのですか。
佐原:チェコのロシツキーという選手です。すごく視野が広くて、さきほど言った組み立てのいちばん重要なところができる中盤の選手でした。ミッドフィルダーです。ふたつ名が「リトルモーツァルト」なんです。奏でるんですよね。単にパスを出すだけじゃなくて、攻撃を奏でていく起点になって、すごく美しいサッカーをする人です。献身的で、守る時は絶対に自陣まで全力で走るようなプレイヤーで。私は中学時代にワールドカップで彼を観て、プレイの美しさに衝撃を受けました。
























