『ザ・ロード』コーマック・マッカーシー

●今回の書評担当者●マルサン書店仲見世店 小川誠一

  • ザ・ロード (ハヤカワepi文庫)
  • 『ザ・ロード (ハヤカワepi文庫)』
    コーマック・マッカーシー
    早川書房
    864円(税込)
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 静岡県沼津市マルサン書店小川 と申します。

 今回が本当の最終回です。こういった機会を与えてくださいました本の雑誌社杉江さんには大変感謝しております。一部の方からの激励?のお言葉も頂戴いたしました。日記も3日目からは天気しか記入できなかった私が12回も書けるなんて! 今でも信じられません。

 さて最後にご紹介する本は実は1回しか読んでないのです。繰り返し読んでいない。というか、たぶん読めない。トラウマな作品であり傑作でもある。「文章が心に刻み込まれ読み返す必要がない」ということでもあるし、ただただ単に「悲しすぎる」という理由かもしれません。それほどの衝撃作でした。

 この作品を読むきっかけはふたつありました。

 ひとつは、この本の発売少し前に 同著者の作品である『血と暴力の国』(扶桑社ミステリー文庫)が映画化され、感銘を受けた事でした。映画名は『ノーカントリー』コーエン兄弟の制作で、トミーリー・ジョーンズ、ジョシュ・ブローリンが出演。だがこの映画の中で異常な魅力を発揮していたのが、無慈悲な殺し屋「アントン」を演じたハビエル・バルデム です。あー恐ろしい。マジでこの人に薄暗い路地裏で会ったら叫びだしてしまうと思います。

 映画のワンシーンにドライブインのオーナーとの会話があるのですが、世間話を振ったつもりがアントンの気に障り店の中全体がモノスゴイ緊張感に支配されます。そのときアントンは、「おまえは何時に寝るんだ?」と問いかけます。オーナーはビビりながらも「なんでそんなことを聞くんだ?」と返します。アントンは、「その頃、またここに来る」......と。 おおおおおおおおおおおお来ないでー。マジで関わり合いになりたくないw そしてこの原作もやはり傑作でした。映画の隙間を埋め、さらに恐怖が襲ってきた。

 ふたつめは書評に出た事。恥ずかしながら、コーマック・マッカーシーの新作が出た事を知らず、書評での大絶賛に早速読み始めました。店頭でも大きく積んで売り始めます。外国文学なのに70冊近く販売できたことは今でも大変うれしく思っております。

 だが、果たして、何人の人がこの作品を読み返すことができたのだろうか? 序盤から残酷だし、エンディングにも心を引き裂かれた読者が大勢いただろうと思わずにはいられない。でも惹きつけられる。著者コーマック・マッカーシーの魔術です。

ここであらすじ。空には暗雲がたれこめ、気温は下がりつづける。目前には、植物も死に絶え、降り積もる灰に覆われて廃墟と化した世界。そのなかを父と子は、南への道をたどる。掠奪や殺人をためらわない人間たちの手から逃れ、わずかに残った食物を探し、お互いのみを生きるよすがとして―。世界は本当に終わってしまったのか?現代文学の巨匠が、荒れ果てた大陸を漂流する父子の旅路を描きあげた渾身の長篇。ピュリッツァー賞受賞作。

 ディストピア小説でもあり、父と子のロードノベルでもある。そして人間の優しさと残酷さを際立たせた作品でもある。圧倒的で過剰なまでの暴力を描写することにより、暴力を否定する考え方を読者に伝える思想書でもあった。

 食糧難により共食いまで始める恐ろしい人間達から息子を守るため、父親は息子の頭に銃口を向け続ける。奴らには絶対渡さない。苦しませない。そんな息子はまるで天使のようだ。 廃墟で見つけたコーラ一缶を息子に与えるシーンがある。たった一缶だ。甘さに飢えている子どもは一瞬で飲み干してしまうだろう。だが息子はそうしなかった。息子に苦しい思いばかりさせてきた父にとって、この一缶だけのコーラを飲み干す間、息子に幸せでいて欲しいと願っていたはずだ。だが息子は父と分け合って飲むことが幸せだと感じた。 この作品は世界中の父親のために書かれた作品なのだ。

 他にも父親の為に書かれた好きな作品があります。『そして父になる』是枝裕和/佐野晶(宝島社文庫)、『歓喜の子』天童荒太(幻冬舎文庫) そしてやはりこの2作品、読み返せない。いつか読み返す時が来るかもしれないが......。『白夜の爺スナイパー』デレク・B. ミラー(集英社文庫)ふざけたタイトルだが中身は素晴らしい。その中にこんなセリフがある。「子どもを持つとすべてが変わるんじゃないぞ。子どもを失うとすべてが変わるんだ。」

『ザ・ロード』は映画化になり父親はヴィゴ・モーテンセンが熱演。そして最後の最後に現れるこの作品の重要な、そして希望を運ぶ役には ガイ・ピアースが。小説・映画版を思い出すと目頭が熱くなってくる。

 とりとめのない話ばかりでスミマセン。また機会があればお会いしましょう!

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マルサン書店仲見世店 小川誠一
マルサン書店仲見世店 小川誠一
1968年生まれ。SF・冒険小説が大好き。最近は読むスピードが落ちているのが悩み。