『青空のルーレット』辻内智貴

●今回の書評担当者●天真堂書店甲府国母店 天谷要一

「人生は何だろう」

 この問いに対する答えは人それぞれだと思いますが、ひとつの答えがここにあります。それをどうか噛みしめていただきたいのです。

 表題作「青空のルーレット」と太宰治賞を受賞した「多輝子ちゃん」の2編からなる本書ですが、今回は前者について書こうと思います。

 場所は東京。季節は夏。気温は高く、アスファルトからの照り返しは酷いもので、日焼けもします。そんななかを人は忙しそうに流れていきます。

 主人公・タツオたちは、地上30メートルの場所でロープにぶら下がり窓を拭いています。職業は高所窓硝子特殊清掃作業員。タツオとバンドを組んでいる工藤と進藤。弟分の保雄、年上の萩原さん、大男・緒方、上司の岸野、専務の奥田、社長。そして、宝栄ビルサービスの人々にある出来事が起こります。ここから物語が大きく動き出します。

 男たちの友情・仕事に対する責任・夢への情熱。
 そのすべてに目頭が熱くなりました。

 どうしてこの仕事を選んだのでしょう。どうして続けているのでしょう。最高にカッコイイのは、「夢を見続けるため」という表現。ストレートに夢を叶えられる人なんてごく一握り。夢のためにきつい仕事をしたり、遠回りしても必死に追いかけて......。

 しかし、夢を見てばかりはいられません。いつかは現実に戻らなければならない日がやってくるのでしょう。タツオ・工藤・進藤は、ミュージシャンになれたでしょうか? 保雄は今何をしているのでしょうか? シルビアちゃんと仲良くなれたでしょうか? 緒方は漫画家になれたでしょうか? 萩原さんは、自分の会社を軌道に乗せることができたでしょうか? 小説家になれたでしょうか? 愛すべき主人公たちに自分の人生を重ねてしまいます。そんな夢追い人である主人公たちに「頑張れ!頑張れ!」と熱い思いが込み上げないわけがない!

 夢が叶っているといいなぁ。

 たとえ夢が叶わなかったとしても、その過程で得たものは無駄にならないと良く耳にしますが、彼らの高所作業ができる技術や私のドラフトマスターの資格・ラーメンを一から作る技術、本当に役立つ日が来るのでしょうか(笑)

 人の言葉や小説、音楽で胸の奥にガツーンとくる言葉に出会います。

 秋元康さんの言葉で、「夢は全力で伸ばした手の指先の1ミリ先にある」というものがあります。夢は逃げないのだそうです。夢が叶わないのは自分から遠ざかってしまったから。

 本書で言えば、P85の萩原さんの言葉「人間はな」~「夢を見るから人間なんだっ」「夢を叶える事よりも、夢を見る事で、人間は人間になれるんだっ、お前なんかに分かってたまるかっ」

 夢を見るのは自由。夢を叶えるのは少しの運も必要でしょうけれども、どれだけ自分が本気になれたか。夢を見ている間は幸せでとても素敵な時間だと思うのです。それこそがむしゃらにまっすぐに向かっていけるから。「人生とは何か」。夢を見ること、夢を持ち続けること。大切なことをこの小説から学びました。

 あとがきのP254を読むと想像できるのですが、作中の萩原さん=辻内さんだと思うんです。きっと、萩原さんは小説を書きあげたと思うんです。それが「青空のルーレット」だったら、こんな素敵なことはないなぁ。

 この季節にピッタリ、夢を持つすべての人に読んでいただきたいお仕事小説です。

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天真堂書店甲府国母店 天谷要一
天真堂書店甲府国母店 天谷要一
1979年東京生まれの山梨育ち。怪盗ルパン・ホームズシリーズからミステリにハマり、受験期にもかかわらず本を読み漁り、担任の先生に叱られました。学生時代は、家→図書館・書店・サッカー→アルバイト→家をループするという、最高に充実した日々を過ごしました(学業はどうした!)。山梨へ戻り、フラフラした後、同社塩山店を経て現在に至る。特技は初対面でも仲良くなれること。辻村深月、横山秀夫が特に好き。あとはサッカーとビールがあれば…。