第1回 博水社に、サワーの秘密を聞きにいく

4.居酒屋ブームの仕掛け役に

 アイデアで新境地を開拓した後、次に田中会長が打った手は、自社工場の拡充による生産能力の増強ではなく、今でいうアウトソーシング、他メーカーへの製造委託(OEM)だったのも、先見の明があったといえます。

「資本金100万円の小さな企業が、売上高何百億円という、一部上場の大手飲料メーカーに製造委託するのは前代未聞といわれ、業界中が驚きました。自社工場がないということは固定費がかからないから、ありがたいことですよ」。

 ハイサワーの売上急増で、自社工場を増設するか悩んでいた時、冬場に生産が落ちる清涼飲料のラインを稼働させるため、受注先を探していた大手工場と出会ったのです。こうして、ハイサワーは、ペプシコーラや武田薬品など、超大手ブランドと同じ工場で製造されることになります。

 現在、ハイサワーのシリーズの多くは、ジャパンフーズ株式会社で製造されています。ジャパンフーズの工場は、ISO9001(国際標準化機構の定める品質マネジメント)および、HACCP(ハサップ-総合衛生管理製造過程)という厳格な品質管理基準をクリアした、最新鋭の設備をもっています。


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ジャパンフーズ株式会社
(撮影・博水社)
 HACCPを取得するには、たとえば不良品の発生を、ほぼ完璧に抑えないといけません。万が一不良品が見つかると、中小企業ならいとも簡単に倒産してしまう量の製品を回収しなければならなくなります。これだけの基準をクリアする設備投資が、中小メーカーに難しいことは、いうまでもありません。

 資本力でも、コストの面でも、価格競争力の点でも、自社生産にこだわらずに売上を伸ばしたのは、正解でした。ハイサワー発売後すぐに、居酒屋チェーンのブームがやってきて、原価の安い酎ハイやサワーは、チェーン店の看板メニューとなります。

 「養老の瀧さんは、ハイサワー発売後すぐに取引を申し入れてくれました」。博水社は、まさにブームの仕掛け役として、倍々ゲームで業績を伸ばします。単品で、年間60-70億の売上になったという別証言も得ました。

 製造委託の次には、拡大の一途をたどる販路を、業務用の酒販店に託すことになります。田中会長はその頃、安定供給という至上命題のため、原料の確保に専念しなければならなくなっていたのです。

 ハイサワーの売り出しからここにいたるまで、ひとりでも多くのお客さんに、実際に飲んでもらうという、飲料メーカーのビジネスの基本を貫いた結果、アウトソーシングに行き着いたということです。

 そして、原料果汁の品質こそ、博水社がもっとも苦心したところでした。田中会長によると、


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ハイサワーTVCM

「レモンの確保には骨が折れました。規格が国によってバラバラなんです(日本にはJAS-日本農林規格がある)。しかも、広い国だと時期によって糖度や酸度が変わる。当たり前の話ですけど、収穫の季節は限られていますから、通年での供給確保となると、いろんな場所のレモンが来てしまう。そうすると味がブレる。一年中世界各国を飛び回り、いちばん品質が安定していたシチリア島に行き着きました」。

 シチリア島のレモン果汁は、流通上のトレーサビリティ、つまり契約している生産農家の追跡が可能なほど、質がよく安定しているそうです。芦川いずみのCMの、大衆的な商品イメージとは裏腹に、ハイサワーは高級品のジュースにも引けをとらない、レモンの品質に支えられていたのでした。

 ハイサワーの成功は、何よりも原料であるレモンの味にこだわった結果とみて、間違いないでしょう。

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