第1回 博水社に、サワーの秘密を聞きにいく

5.「酎ハイ」と「サワー」

 後発であったハイサワーという呼び名が、古くからあった酎ハイ(焼酎ハイボール)を追い越して、一気にポピュラーになったことは、名称に混乱をもたらしました。○○ハイとか○○サワーというメニューが、全国に拡大していったからです。

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酎ハイ
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サワー
 田中秀子社長によると、「レモンハイとレモンサワーは何がちがうのか?」という問い合わせが、ひと頃よく寄せられたといいます。「炭酸が入っているものが○○サワー、炭酸なしが○○ハイともいわれましたが、明確ではありません」。

 確かに、たとえば"ぶどうサワー"と名乗って、炭酸入りではないといったような経験は私にもあります。

 この混同がどうして起こったか。それは博水社のひとり勝ちのためだと、私は思います。従来、下町の焼酎ハイボール(いわゆる「元祖ハイ」)は、レモンスライスを入れるにせよ、無果汁の梅やレモン風味のエキスを混和して作られていました(生レモンの自由輸入許可は1964(昭和39)年5月)。ハイサワーの直前、喫茶店向けのコンクジュースで甲類焼酎を割るレシピが70年代末に開発されたときも、素になったのは、業務用の濃縮ジュースです。

 ハイサワーがなぜ画期的だったのか。博水社が歴史上果たした役割とは、「ばん」のサワーにヒントを得て、業務用の焼酎割り飲料に果汁を導入してブームを引き起こした結果、それ以降、全国で「酎ハイ」に果汁を使うのが当たり前になった点にあるというのが、私の説です。焼酎の果汁割りの普及とともに、「サワー」という名称が「酎ハイ」に入りこみ、混ざっていったのではないでしょうか。

 もともと「サワー」がレモンジュースを使用したカクテルの名称だったように、酸味を意味する言葉がサワー(sour)ですから、○○サワーは炭酸ではなく、果汁由来の酸味をあらわさなければなりません。

 それが、ハイボール(ソーダ割り)に由来する酎ハイの呼称に乗りかわったこと自体、ハイサワーの市場へのインパクトが、いかに大きかったかを物語っていると私は思います。

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