第1回 博水社に、サワーの秘密を聞きにいく

6.博水社とレモン

 事実、レモン味は博水社だけでなく、日本の酎ハイ類全体で、最もポピュラーな商品であり続けています。そして博水社はレモン使い30年の豊かな経験を、商品開発に生かしてきました。田中社長によると、

「ひとつのことをずっとやり続けると、得意分野ができます。うちはレモンのことを知り尽くしていて、果汁の酸度とか糖度の差、透明処理の按配、さまざまな糖類との相性などが分かっていますから、レモンを使って、製品をさっぱりと仕上げることには自信があります」。

 たとえば、梅味のハイサワーなどの製品に、梅果汁に加えて、レモンが調合されています。また2006年に発売された「ハイサワーハイッピー」には、ビアテイストとレモンビアの2種類がありますが、ビアテイストにも、さっぱりした飲み口のために、レモンが隠し味で使われているそうです。

 ハイサワーハイッピーは、かつて田中会長が、商品化できずに悔しい思いをしたビール風の焼酎割り飲料。「6年間研究していたものを、父と娘(現社長三代目)のコンビで、もう一度やろうと思った」。最近になって、ようやくホップなど納得のいく原材料が揃うようになったそうです。

 博水社の商品の特徴は、レモン以外でもかなり酸っぱいことです。田中社長によると、「わが社の商品は、意図的に"すっぱ甘く"している(甘酸っぱいではなく)。焼酎にはお酒としての甘みがあります。うちはいつも、お酒と割ることを考えて作っていますから、甘ったるくちゃダメ」。

 私もそうですが、いくらでも呑みたい人間は、甘い酒が苦手です。理由は飲み続けられないから。ホッピーがビールと異なり、何杯でも飲めるのはこの味のためですし、いわゆる「元祖ハイ」(ボール)が、80年代以降のチェーン居酒屋の酎ハイやサワーと違って甘くないのも、呑み助のことを考えて調合されているからです。

 酒を引き立てるのは、配合する原料の、ほんのちょっとのさじ加減なのだと、田中社長は語ってくれました。「梅にレモンを入れるのもさじ加減。うちのお父さん(田中会長)は、最後は1ccの1/1000の目盛りをみながら処方(レシピ)を組んでいます」。調合の職人としての田中会長は、最大手メーカーの開発室からも相談が寄せられるほど、業界では有名なのだそうです。

 それでも、新製品の開発にあたって、田中会長は必ず妻や娘に味見を頼むといいます。理由は、毎日料理をする女性の味覚の鋭さを信頼しているから。ハイサワーの開発にも、隠し味に白ワインを入れたらどうか、という会長の妻のアイデアが活かされました。また最近では「ダイエットハイサワー」や、麦焼酎とハイサワーを割る新しいアイデアが、社長によって出され、女性の発想が、生活習慣病をおしても呑みたい男性や、本格焼酎好きにかえって受け入れられているといいます。

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